迎撃の為に

 破壊神ゼルフェクトの再来。

 カナメを通して伝えられたその話は、速やかに聖国の上層部で共有された。

 この事態を世界規模の災厄と認定した聖国は、速やかに各国への情報共有を開始。

 幸い……と言っていいのか分からないが、カナメに帝国・連合・王国の人間が会いに来ていた事により、この件は最速で伝達され世界規模の体制が整うか……に思われた。


「え……今、なんて」

「連合は今回の件を静観すると。帝国は独自に迎撃準備を進めるが、世界規模での会議を帝国主導で進めるべきだと。王国も帝国と同様の……その、王国主導で進めていくべきだと」


 カナメに報告しに来た大神殿の神官は、申し訳なさそうに答える。

 そう、世界規模の体制は……結果から言うと、成らなかった。

 ジパン国家連合は連合内での綱引きの結果連合としての意見の一致がならず、聖国が主導権を握る為の陰謀ではないかという意見まで飛び出す始末。

 ラーゼルク帝国では今回の件を重く見てはいるものの、その主導権を王国に握られる事を嫌悪し帝国主導での世界会議の発足を要求。

 ラナン王国もまた同様だ。世界規模で連携するべきだと考えてはいるが、戦後を見据え帝国が台頭する真似は許せないし、聖国の影響力も削っておきたい。

 そんな各国の思惑が重なった結果、世界規模での連携が不可能な状態に陥っているのである。

 ……ちなみにだが一致している部分もあって、それは「聖国が主導でやるべきではない」である。

 王国も帝国も連合も、何かと口を出してくる聖国にこれ以上影響力をつけさせたくないという点では一致している。


「なんでそんな……世界の危機なんですよ!?」

「は、はい。私もそう思います」

「あ、いえ。貴方のせいでは……」


 声を荒げた事をカナメは「すみません」と謝罪し、扉から出ていく神官を見送る。

 世界規模での体制は整わない。

 この時点で、かつての戦いとは大分違っている。

 その時には普人だけではなく魔人、戦人……そして神々が揃っていたというのに、相打ちに近い状態だったのだ。

 だというのに、これでは。


「……くそっ」


 神の力を持っているといったところで、カナメ自身を人々は神としては見ない。

 カナメの事はあくまで神の如き力を持った者であり、たとえカナメ個人が何かを言ったところ各国が聞くわけではない。

 勿論、だからといってカナメが神になりたいというわけでは勿論ない。

 ない、が……こうなっては無力さだけが際立つ。


「タカロなら……」


 タカロなら。彼が勝っていたなら、聖国の影響力を強化し世界を纏め上げていたのだろうか。

 そんな事を考え、カナメは自分の両頬を叩く。

 その考えは、ダメだ。タカロの言っていたように、タカロに勝ったカナメにはカナメのやり方で世界を守る義務がある。

 ならば、カナメにできるやり方で世界を守らなければならない。

 それは今の場合はクラン……ではない。

 カナメが、やるべきなのは。


「……弓よ、来い」


 カナメの手の中に、もうすっかり相棒となった黄金の弓が現れる。

 レクスオールの象徴であり、今ではカナメのトレードマークとなった弓。

 レクスオールの如き者などと呼ばれたところで、今のカナメにはシュテルフィライトと命を懸けて戦い「なんとか勝てる」程度の力しかない。

 それでも人類としては最強に近いしシュテルフィライトが聞けば微妙な顔をしそうだが……相手はドラゴン一体ではなく破壊神ゼルフェクトそのものだ。

 それに勝つには、どうしたらいいのか。

 ヴィルデラルトは、カナメが全力で戦うならば地上だと……カナメの力は世界に根差した力だと、そう言っていた。

 その意味を考えて、カナメは目を瞑る。

 ゼルフェクトに……破壊の願いそのものに打ち勝てるような力。

 その正体を……勝つ方法を考えるカナメの耳に、扉を叩く音が聞こえてくる。


「カナメ、入るよ」

「アリサ……どうしたんだ?」


 そう、其処に立っていたのはアリサだった。

 ヴィルデラルトにアルハザールの力の鍵とやらを埋め込まれたアリサではあったが、目覚めた後エリーゼに診てもらうと「……たぶんですけど、魔力の流れが正常になってますわ」という答えが返ってきた。

 エリーゼも専門ではないので確実ではないとのことだったが……直後にアリサが明かりの魔法を使って見せたことでそれは確実となった。

 ……まあ、エリーゼに「最初からそれを試すわけにはいかなかったんですの?」と言われてしまったのだが、それはともかく。


「身体の方は平気なのか?」

「心配性だねえ、カナメは……といっても、私もカナメが心配で来てるんだから人の事は言えないけど」

「俺が?」

「そ。カナメの事だから「俺が世界を守らなきゃ」って気負ってるんじゃないかと思ってね」

「それは……」


 言い澱むカナメに、アリサは「やっぱり」と言って笑う。


「……見て、カナメ」

「え?」


 手をひらひらとさせるアリサは、カナメが自分に注目したのを見ると……よく通る声で、唱える。


「剣よ、来い」


 アリサの手の中に、光が集う。太陽のように赤く輝く宝石を柄に埋め込んだ、幅広の長剣。

 何処となく懐かしいような、そんな不思議な印象を抱く剣を見て……カナメはポツリと言葉を漏らす。


「……アルハザールの、剣」

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