遠き場所にて2

「ここは……あ、ヴィルデラルト……と。え、ラファエラ!?」

「神の世界……?」

「む、なんだ此処は」


 来るなりザワザワとし始める三人を見てラファエラは苦笑しながらヴィルデラルトに視線を向ける。


「……どういう人選だい?」

「ああ、いや。そこのドラゴンは呼ぶつもりはなかったんだが……カナメ君を呼ぶと自動的にね」

「……なるほど。なんとなく理解した」


 カナメからというのはないだろうから、恐らくはシュテルフィライトからだろう。そんな真実を即座に導き出しながら、ラファエラはカナメ達へと笑いかける。


「やあ、いらっしゃいカナメ、アリサ。そこのドラゴンは放っておいていいから、ちょっと落ち着いてくれるかい?」

「え……あ、ああ。ラファエラ、どうして此処に? ヴィルデラルトに呼ばれたのか?」


 カナメもアリサも、此処が夢を媒介として繋がる場所であることは知っている。

 シュテルフィライトが此処に来た理由は、カナメが良く知っている。

 そのせいかアリサからの視線が痛いが、それはさておき。


「ああ、私かい? ははは、まあいいじゃないか。それよりヴィルデラルトが話があるそうだぜ?」


 あからさまに話題を変えに来るラファエラに何かを感じながらも、カナメは素直にヴィルデラルトへと向き直る。


「……お久しぶりです、ヴィルデラルト」

「ああ、久しぶりだねカナメ君。元気そうで何よりだ」


 ヴィルデラルトはそう言って微笑むと、その表情をすぐに真面目なものへと変える。


「……積もる話でもしたいところだが、時間が無い。君達に伝えるべき事を伝えねばならない」

「伝えるべき事……まさか、また何かが起こるっていうんですか?」


 カルゾム帝国の問題が関わっているのか。そう考え身構えるカナメに、ヴィルデラルトは静かに告げる。


「そうだね。起ころうとしている。それ故に、僕はやるべき事をやらなければならない」


 言いながら、ヴィルデラルトは歩き……アリサの前へと立つ。


「アルハザールの遠き子孫よ。ただそれだけでしかない娘よ。僕はただそれだけの君に、背負うべきではない荷物を背負わせたいと思う」

「……言い回しがめんどくさいね、神様。何が言いたいの?」

「ちょ、アリサ……!」


 現存する最後の神であるヴィルデラルトを前にしても物怖じしないアリサにカナメの方がうろたえてしまうが、ヴィルデラルトは怒るどころか懐かしそうな顔をする。


「ふふふ……血の繋がりなど僅かなものであるはずなのにね。君からはアルハザールを強く感じるよ」

「で?」

「そんな君であるから。カナメ君と強く繋がっている君だからこそ、僕はこれを託したい」


 ヴィルデラルトの掌の上に現れたのは、赤く輝く水晶のような珠。

 凄まじく強力な魔力を放つそれに、周囲を物珍しそうに見回していシュテルフィライトが弾かれたように振り向く。


「アルハザール……!? いや、違う! それは……!」

「気付いたか、ドラゴン……いや、シュテルフィライトだったね。その通り、これはこの世界に残されたアルハザールの力の「起点」となるものだ」

「何故貴様がそんなものを持っている……!?」

「持っているわけじゃない。僕が持っているのは管理権のようなものさ。むしろ、本来は「与える」のは君達が大神殿と呼ばれている場所の役目だからね」


 鍵と言い換えてもいい、とヴィルデラルトは言う。無限回廊を落ちるカナメに与えたように、これは本人の力を呼び覚ます鍵でしかない。しかし、その鍵は世界に残された力に繋がる鍵でもある。だからこそ、本人であるカナメは前世と今世……二人分の「力」を得ているのだと。


「え、与えた……!? ヴィルデラルトが!? でも、レヴェルは……いや、それに貴方も……!」

「レヴェルは真実を知らない。知っているのは僕とディオスだけだ。そもそも不思議に思わなかったかい? 世界に残ったレクスオールの力が君を呼んだなら、何故他の「力」は他の神を呼ばないのか?」

「そ、れは……」

「呼んだのは僕だ、カナメ君。僕が無限回廊を使って、君を元の世界から攫ってきたんだ」


 その言葉に、カナメは絶句する。

 レクスオールに……前の自分に呼ばれて、此処にやってきた。

 いや、戻ってきたと。そう思っていたのだ。

 しかしそうではないとヴィルデラルトは言っている。


「……どういうつもり」

「ん?」


 目の前に差し出された「アルハザールの力」に目もくれないまま、アリサはヴィルデラルトを睨み付ける。


「どういうつもり、とは?」

「なんでそれを今カナメに言う必要があったの?」


 カナメは、元の世界の事をほとんど覚えていないとアリサに言った。

 恐らくは大神殿の儀式の影響。何を忘れたのかも曖昧なままにカナメはこの世界に残る事を決意した。

 アリサの想像でしかないが、「前の自分に呼ばれた」というのもその決断には影響していたはずだ。

 なのに。それなのに。


「騙したなら、最後まで騙す義務があったはずだよ。カナメがどういう人間か見てたんなら、そうするべきだと分かってたはず。このアルハザールの力とやらだってそうでしょ。そんなホイホイ与えられるなら……!」


 言いながら、アリサはヴィルデラルトの胸倉を掴む。


「そんなことが出来るんなら……なんで今までそうしなかった! なんでカナメ一人に背負わせた!」

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