奥の部屋にて2
かなめどのへ。
これをよめるのなら、あなたはにほんじんなのでしょう。
そのことを、かえでにつたえてください。
手紙の中に書かれていたそんな内容に、カナメは心臓がバクバクと鳴るのを感じながらも状況を整理する。
この手紙に書かれているのは、ヘタクソな文字ではあるが日本語であり、平仮名だ。
しかし書き慣れていないのは一目瞭然、例えるなら……そう。まるで何かお手本があって、それを真似して書いたかのようだ。
ということは、これを書いた人物は日本人……カナメと同じ世界の人間ではないという可能性が高い。
「……これは?」
「其処に書かれている内容を某は存じませぬ。ただ、カナメ様が「そう」であるならば理解できるはずと」
つまり、これを書いた人物……恐らくはカナタ武国の王であるだろう人物は、カナメが「日本人」であると想定してこれを送ってきたという事だ。
となると英雄王トゥーロが読み書きを伝え、それをカナタ武国が受け継いでいたという可能性が高いだろう。
「結論から言うと、読める。細かい事を言うと色々あれだけど、俺も知ってる文字だ」
「……ちなみに、なんと」
「俺が読める事を君に伝えろって書いてある。まあ、「とある単語」も書いてあるけど」
あえて日本人という単語を伝えずにカナメが言うと、カエデは何かを納得したかのように頷く。
「……なるほど。では某も役目を果たしましょう」
「ああ」
「我々カナタ武国は、カナメ様をお迎えする用意が整っております。我等が祖、英雄王トゥーロと呼ばれし方と同じ場所から来られたであろう貴方様が望むのであれば、万難を排してお連れせよと。某はそう命令を受けておりました」
聖国が安全である事は、ダンジョンの管理体制一つを見るだけで充分に理解できた。
あとはクランなる組織のリーダーであるカナメ本人がその立場を望んでいるかどうかだったのだが……。
「カナメ様。貴方は我等の庇護を望まれますか?」
「いや、望まない」
「理由を、伺っても?」
その答えは、とても単純だ。そう、それは。
「俺は、望んで今の場所に立ってるから。だから、庇護はいらないよ」
「然様でございますか。ではその旨、しかと王に伝えましょう」
「ああ」
カエデはそう言ってアッサリ退くと、強い意志の篭った目でカナメを見上げる。
「では、此処からは個人として再度お願い申し上げる。此度の件、某を使って頂けませぬか」
「あ、うん。ダメだよ」
「な、何故でございますか!?」
「え、何故ってカエデがお客様であるのに変わりはないし。そもそも帰るまでが仕事でしょ?」
「し、しかし某はカナメ様のお役に立てと命令を受けて!」
「個人じゃないじゃん。国の命令じゃないか」
「ぐうっ! しかし某個人としても!」
「ダメ」
跪いたまま、カエデはガックリと肩を落とす。
その様子にカナメは悪い事をしたようにも感じるが……ここはちょっと譲るわけにはいかない。
「まあ、すぐに帰るってわけにもいかないだろうし……その間はエルの友人ってことで俺も接するからさ。とりあえず立ってくれる?」
「そういえば、そのエル殿の事でございますが」
カナメの言葉に従いカエデはアッサリ立ち上がると、エルの事を口にする。
「まさかとは思いますが、あの王国の姫の戯言のような言葉を真に受けるおつもりで?」
「戯言って。えーと、エルを旦那にとかってやつだよな?」
「然り。王国が優秀な
確かに。エルは自分の剣を安物の
「それって、エル個人を気に入ったってことなんじゃ?」
「斯様な事を言い出す程王族という価値は安くありませぬ。カナメ様と友誼を結んでおられるという点を重視した可能性も」
「ああ、そうか。けど、うーん……」
だからといって無理矢理でないのならカナメが首を突っ込むのも間違っているような気もする。
色恋沙汰に余計な事をするものは馬に蹴られろともいうが、まさにそんな感じだ。
「今のところ、俺が口を出す事でもないかなあ。エルの意思を無視して連れて行くってんだったら、別だけど」
「エル殿の……」
考え込んでしまったカエデを見て、カナメは「まさか」とも思う。カエデがエルに個人的に……恋愛的な興味を抱いているというのであれば、カナメとしては友人であるエルの行く末を暖かく見守る所存ではある。
「まあ、エルのことは置いといて。今回のカルゾム帝国の件は、俺達に任せてほしい」
「はっ、カナメ様がそう仰せであれば従いまする。では某はこれにて御前失礼仕ります」
部屋を出ていくカエデを見送り……それと入れ替わりになるように、ルウネがするりと部屋の中に入り込んでくる。
「あれ、ルウネ。どうしたんだ?」
「シュテルフィライトの様子が、おかしいです」
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