事態急変

「な……なんだあ!?」

「やはり時間稼ぎであったか!」


 爆発するような破壊音と共に、クランの上階から幾つかの影が飛び出していく。

 まだ夜になったばかり。何事かと外に出てくる冒険者達がいる中で、その影……翼持つ異形の男達と、翼持つ一人の女が空中戦を繰り広げていた。


「はは……はははっ! 面白い、面白いぞ! モンスターと普人を混ぜたのか!? ああ、いや待て。そういえばそんな事をした連中が昔にも居たか! くくくっ、全く度し難い!」


 人の姿を保ったまま背中に輝く翼を生やしたシュテルフィライトが、楽しそうに笑う。

 彼女の周囲を飛ぶ異形の男達が生やしている翼は鷲の翼のようなもので、その顔も鷲のような猛禽類のものになっている。手も爪が生え、その姿は全体的に鷲人間といった風体だ。いずれにせよ、まともな人間の姿ではない。


「ギアアアアアアアアアアアアッ!」


 彼女達が今こうして相対しているのは、シュテルフィライトがクランの壁ごと衝撃波を放ったからであり……それから運良く生き残った数体がこうして対峙しているからであるが。そのうちの一体がシュテルフィライトを排除するべく襲い掛かる。

 真っすぐ突っ込むだけの、しかし凄まじい速度での突撃。その鋭い爪を煌かせながら襲い来る鷲人間を、シュテルフィライトは悠然と構えたまま待ち受けて。


「ハッ」


 冷笑と共に、その頭をもぎ取る。

 衝突しようかというその瞬間の、一秒にも満たぬ早業。

 頭を失った鷲人間の身体が地面に落下していくのに目もくれず、シュテルフィライトは鷲人間の頭を別の鷲人間へと投げる。

 轟音と共に放たれたソレは鷲人間の一体を砕き……そこまでやっておきながら、シュテルフィライトの表情はつまらなそうなものに変わっていく。


「……なるほど、質の悪いものを使っているとみえる。まあ、あの時代と比べるのは酷というものなのかもしれんが……つまらんな」


 空を舞う鷲人間は、残り3体。しかし、シュテルフィライトはすでにそれに興味がない。

 クランを突然襲撃してきたソレを迎え撃ってみたはいいが、こんなにつまらないなら観戦に徹していても良かった。

 そんな事を考えながら、シュテルフィライトは警戒するように飛ぶ残りの鷲人間を眺め……やがて、溜息を一つ吐く。


「まあ、仕方ない。カナメも見ていることだしな……我のアピールの材料になって貰おうか」


 シュテルフィライトの、美しい宝石を思わせる翼が七色の輝きを強め始める。

 ギラギラと輝きスパークを始めたその両翼から放たれた無数の光線は回避運動をとった鷲人間達を逃がさず穿ち、撃ち落とす。

 カナメとの戦いの時には使わなかったその技は、この数日でカナメをイメージに編み出したものだ。

 地面に落下する鷲人間達に下の方で騒ぎが起こっているが、シュテルフィライトには関係がない……というか興味がない。

 そのまま風通しの良くなった壁からクランマスター室に入ると、カナメが呆然とした顔をしている。


「む、面白い顔をしているな。我に惚れたか?」

「え、あ、いや。あんな技、前に戦った時は……」

「ああ。カナメをイメージした技だな。どうだ、凄かろう。子供が出来たら教えようではないか。なあ」


 グイグイと迫るシュテルフィライトとカナメの間にオウカが割って入り、なんとか引き剥がす。


「そんな場合じゃないでしょ! 何あれ、破壊神が復活したんじゃないの!?」

「確かに、普通のモンスターには見えなかった。聖国のダンジョンが決壊するとは思えないし……」


 オウカとアリサの言葉に、シュテルフィライトはフンと鼻を鳴らす。


「なんだ、あんなもの。何処かの誰かが昔の再現でもしたのだろうよ」

「昔?」

「ああ。確か普人だったか? えーと……そう、灰色の御子グレイチャイルド計画とかいったか。そんなものを計画していた連中がな?」


 灰色の御子グレイチャイルド。その言葉に、カナメは聞き覚えがある。

 クラートテルランと共に襲撃を仕掛けてきた邪妖精イヴィルズ、アロゼムテトゥラ。

 彼女は確か……その灰色の御子グレイチャイルドであったはずだ。だが、それは。


灰色の御子グレイチャイルドって……邪妖精イヴィルズとの混血って話じゃなかったのか?」

「混血なあ。それは我は知らんが、邪妖精イヴィルズとでは魔人もどきが出来るだけだろうに」


 まあ、現代社会では生きやすいかもしれんがな……などと言うシュテルフィライトにカナメは考え込む。

 つまり襲ってきた連中は過去に「灰色の御子グレイチャイルド」と呼ばれていたモノで、過去の技術を再現したものであるということだけは間違いない。

 となると……やはり思い出すのは、帝国で起こった事件だ。いや、もっと前……この聖国でタカロが使っていた聖鎧兵だって、過去の技術だった。

 過去の技術を持った何者かが、彼等に技術を流しているというのであれば……そこから起こった事件を考えるに、特に今回の件を見るにマトモな目的であるとは思えない。

 ……いや、それをひとまず置いておくとしても、今回の目的。それだけは明らかだ。


「カルゾム帝国、か」

「先程言っていた国だな」

「ああ、状況から考えて其処しか考えられない。でも、こんな……」


 こんな、短慮な事。そう言いかけて黙り込むカナメに、シュテルフィライトは哂う。


「何を今更。普人が愚かしいのは、昔から変わっていないだろう?」

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