問題は続けてやってくる4

 クランの中心メンバー……つまりカナメだけでなくアリサやエリーゼ、そしてオウカの部屋もまたクランの中に用意されている。

 今回のような状況下では、その判断も正解だったと言えるわけだが……カナメがオウカの部屋の前に立ちノックをすると、「はーい」という返答が聞こえ扉が開く。


「あら、カナメじゃない。どうしたの?」

「今回の件なんだけどさ。どうにかなるまで俺とアリサでオウカを守ろうって話になったんだけど」

「あー……」


 カナメの言葉にオウカはなんとも微妙な表情になり、カナメは思わず不安そうな視線を向ける。


「何か問題が……あ、俺が嫌ってことならダルキンさん辺りに頼んでもいいけど」


 年齢差的には同じバトラーナイトでもハインツの方がいいのだろうが、彼はここ最近はずっとエリーゼ絡みの何かをしているようでほとんど姿を見ることが無い。

 頼んだところで、エリーゼを主と仰ぐ彼がそれを良しとするかは疑問がある。


「問題があるってわけじゃないけど……ああ、いや。あるのかしらね」

「えっと?」

「いや、ほら。何かと助けられてばっかりじゃない。あのドラゴン絡みで役に立ったとは思いたいけど、こうして助けられてばっかりだと、中々返せないなー、と」

「なんだそんなの。仲間じゃないか」


 モゴモゴと言うオウカにカナメが笑うと、オウカはうぐっと言葉に詰まったような音を出す。


「そうかもしれないけどさー。なんかこう、あるじゃない。借りに利子がつくような気がするのよ」

「考えすぎだし、そんな事言ってる場合でもないだろ」

「そうなんだけどさー。いや、分かってるのよ。クラークのアホは「ま、カナメがいりゃ平気だろ」って今日もどっかに行ってるし! 私一人じゃどうしようもないくらい弱いのも知ってるし!」

「あー……」


 そういえば確かにクラークの姿も無い。基本的に眠りが必要ないということで一日中何かをしているクラークだが、最近はオウカと離れている時間も多い。


「とりあえず、しばらくは俺かアリサがずっとついてるからさ。それで何とかなると思うんだよ」

「……まあ、そうでしょうね」


 レクスオールとしての力を持つカナメは多少訓練されているとはいえ普通の人間にどうこう出来る存在ではないし、アリサも対人戦においてはオウカの知る限りでは……ダルキンのような非常識人間を除けば最強に近い。それを考えれば、理想的な護衛と言える。

 オウカはしばらく唸った後……やはりそれしかないと結論付ける。


「うー……そう、ね。また借りを作っちゃうのはキツいけど、お願いしてもいい?」

「ああ、任せて。しっかり守ってみせるさ」


 何の計算もない笑顔で笑うカナメに、オウカは眩いものを見たかのように一歩下がる。

 自慢というわけではないが、オウカは自分がそれなりの美少女という自覚はある。

 オウカが旅の中で男相手に何かをお願いする時、表情には出さずとも何らかの見返りを期待するような感情が個人差はあれど透けて見えたものだ。

 オウカ自身それを利用してきたし、利用する事で危険な事になりそうな相手を見抜く目も育ててきた。

 クラークも、それを分かっていてオウカからは離れなかった。

 だというのに、カナメにはそういうのが全くない。異性に興味が無いわけではないのは知っているし、そっち方面で奥手なのも分かっている。

 だが、こういう方面で「そういう進展」を期待する気配すらない。

 ただ純粋に仲間としてオウカを心配しているのだと理解できてしまうだけに、どうにも眩い。

 どう育てばこんな風になるのか、オウカには想像もできない。


「……汚れてるってことかしらね」

「何の話だ?」

「なんでもないわよ」


 溜息をつき、オウカは長い髪を軽くかきあげる。


「護衛してくれるのは嬉しいんだけど……正直に言って、諦めるとは思えないわよ。私は聖国に入っちゃえば諦めると思ってたくらいだし」

「……まあ、確かに。一応クランが聖国の組織だってことで……あんまり良い手段じゃないけど、権威でどうにかしてみようとは思うけど」


 現在、クランの中核メンバーであるカナメ達は聖国の国民という扱いになっている。

 所属していた国が滅びた……所謂流民のオウカも聖国の国民扱いになっており、オウカの引き渡し要求はそれを理由に跳ね除ける事が出来る。


「向こうが聖国と事を構えることを良しとしないなら、これでいけるとは思うけど」

「……そうね」


 それで終わればいい。終わらなければ、本当に面倒な話になる。

 国対国。それも仲裁者たる聖国がその中心となれば、その影響はどれほどだろうか。

 タカロの一件で聖国の影響力がある程度下がったと聞いてはいるが、今回の件で対応をしくじればそれを加速させることにもなりかねない。


「まあ、心配はいらないよ。きっと何とかしてみせるからさ」

「……うん、期待してる」


 笑うカナメに、オウカも笑い返し……開いたままの扉の向こうに立つ長身の人物の姿に「ひゃっ」と声をあげて後ずさる。


「え? うわっ、ハインツさん!?」

「ご歓談のところ失礼いたしますカナメ様、オウカ様」

「な、なんなの!? バトラーナイトってのはこんな連中ばっかりなの!?」


 ダルキンも化け物じみているが、ハインツも相当なものだ。

 オウカの抗議の視線を受け流し、ハインツは一礼する。


「問題が発生いたしました。案件を抱えておられる最中なのは理解いたしておりますが、カナメ様の助力をお願いしたく参上いたしました」

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