問題は続けてやってくる3
そんなシュテルフィライトにカナメは何か言おうとして、結局諦める。
何を言ったところで機嫌が直るとは思えないし、喧嘩の約束をさせられてはたまらない。
好きにさせておくのが一番だ。そう判断しながらカナメはオウカの件に考えを巡らせる。
「そもそも、着地点が見えないのが問題だよな」
「諦めるって選択肢が向こうにあればいいんだけどね」
カナメにそう言いながらも、アリサはその可能性は低い……いや、ないだろうと考えている。
シュテルフィライトを見れば分かる通り、「しつこい奴」というものは一度執着したら諦めるという選択肢を持たない。
そもそもの話でいえば、たかが
現品そのものがあると知った以上、相当汚い手を使ってくるであろうことは想像に難くない。
「……まあ、しばらくは対処療法的にやるしかないね」
「そうだな」
納得するカナメを前に、アリサは内心で溜息をつく。
実のところ、簡単な手が一つある。
カルゾム帝国を、ミーズの町のようにしてしまえばいい。
聖国にカナメが及ぼせる影響をフルに使ってカルゾム帝国内の神殿全てを撤退させ、「見捨てられた国」にしてしまえばいい。
そうなれば、毎日のように何処かで滅びたり興ったりが発生している連合の事だ。
いいチャンスだとばかりに革命か戦争が起きるかもしれない。
そうなれば、どれだけしつこくてもオウカに構っている暇はなくなるはずだ。
勿論、
……だが、カナメはそれを良しとはしないだろう。思いつきもしないだろう。思いつく事が良い事だとも思わない。それが思いついてしまう人間というのは、戻れないくらいに歪んだ人間であるからだ。
アリサの我儘だが、カナメにはそうなってほしくはない。
「話はそろそろ終わったか? カナメ」
「え? ああ、まあ。終わったというかこれ以上進めようがないっていうか」
全部の絵に穴を空け終わったらしいシュテルフィライトはカナメの返答にニヤリと笑うと、「そうか」と頷く。
「なら、そろそろ」
「ちょっと、ドラゴン臭いわよ! まさか、またカナメの部屋に入り込んで……あ、居たわね!」
シュテルフィライトが何かを言いかける前にドアを乱暴に開けて入ってきたレヴェルは、カナメに近づこうとしているシュテルフィライトを睨み付ける。
「なんだ、レヴェルか。我は忙しい。お前などと遊んでいる暇はないぞ」
「私だって貴女と遊ぶつもりなんかないわよ! そうじゃなくて、カナメをからかうなって言ったでしょう!?」
「からかう? まだそんな事を言っているのか。折角レクスオールが素直な性格になって戻ってきたのだ。我のものにしようとして何が悪い」
「生まれ変わりではあっても別人だって言ったでしょ!?」
「知らんな。というか現時点で誰のものでもないのに、お前に何か言われる筋合いはない」
「なんですってえ……!」
「あー、まあまあ」
今にも鎌を呼びかねないレヴェルと牙を剥きだしにしているシュテルフィライトの間に入ると、カナメは仲裁する。
「とりあえず、俺は今シュテルフィライトのものになるつもりはないし。レヴェルも落ち着いて」
「なんだ、何が不満だカナメ。お前の周りには結構ちびっこいのが多いが、まさかそういうのが好みか」
「人聞き悪いからやめてくれるかな……」
レヴェルにエリーゼにルウネ。確かに三人も小さい……もとい小柄な女の子達が居るには居るが、そういう関係では断じてない。
まあ、エリーゼが自分を好いてくれている事は知っているので、カナメとしてはそこを突っ込まれると痛い部分もあるのだが……それはさておき。
「とにかく、その話は終わり。レヴェル、丁度いいからレヴェルにも聞いておきたいんだけど……」
「なにかしら」
「オウカが国レベルの「しつこい連中」に狙われてるみたいなんだけど、速効性のある対策法ってあるかな?」
「穏便な方法っていう前提なら無いわね」
レヴェルは即座にそう答え、髪をかきあげる。
「しつこい連中……しかも国? なら国策でしょ? これ以上やったら国が傾くってところまでやって、ようやくアプローチを変えてくるかどうかってレベルでしょうね」
カナメはそういう手段はとらないだろうが、国ごと潰しても残党が出るだろう。かつての時代も、そういう阿呆な連中は居たものだ。
「……やっぱり、俺達でオウカを守るしかないか」
「理由はエグゾードね?」
「ああ」
というよりも、それ以外にない。対外的にはオウカが「鋼の巨人に一番詳しい」事になっているし、実際聖都にいるメンバーに限定すれば、その通りでもある。
……というのも、詳しそうな気がするラファエラが前回の騒動が終わる頃を見計らって、また姿を消してしまったからだ。
「まあ……とりあえず、オウカの部屋に行ってくるよ。クランの中に居れば安全だとは思うけど、万が一ってこともあるし」
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