問題は続けてやってくる2

「カナメ、ちょっと今大丈夫?」


 そう言いながら扉を開けてくるアリサを見て、カナメはシュテルフィライトに視線を向ける。


「見たか? あれが普通の入室方法だぞ」

「知らんな」

「えーと、取り込み中?」

「いや、大丈夫だよ」


 そう言ってカナメが笑うと、アリサは「そっか」と言いながら部屋に入ってくる。


「なんか、今日の昼頃にちょっとしたトラブルがあったらしいんだけど……聞いてる?」

「オウカを狙ってたらしい客なら、今シュテルフィライトからぶっ飛ばしたって話は聞いたけど」

「うん、その話なんだけど。ダルキンの爺さんが調べててね。どうにも結構深そうな問題らしいんだ」


 そんなアリサの話に、カナメはやっぱりな……と思う。

 オウカの国は確か内部工作を受けて潰されたと聞いている。

 具体的に何があったかまでは聞いていないが、壮絶であっただろうことは想像に難くない。


「オウカの居たジキナイト王国を潰したカルゾム帝国っていう国がやっぱり連合の中にあるんだけどね? どうにも、そこの帝王直々で動いてるっぽい」


 とはいえ、所詮連合の中の一国だ。聖国の権威に敵うはずもない。

 だが……それを分かっているはずなのにカルゾム帝国は堂々とクランにやってきた。

 これは幾つかの可能性を想像させる。


「あくまで想像だけど、まず一つ目。カルゾム帝国は聖国で問題を起こすことを恐れていない。あるいは、聖国が引くと思っている」

「前者なら問題だけど、もし後者なら何を考えてるのか分からないな。オウカがクランの一員であることくらい知っているだろうし」


 だからクランに来たのだろうし、となればその立ち位置くらい知っているはずだ。

 聖国の国家機関であるクランを敵に回すということは、聖国を敵に回すも同じ。

 となると、前者である可能性が高いようにも思える。


「そこで、可能性の二つ目。カルゾム帝国の諜報力は、恐ろしく弱い……のかもしれない」

「どういうことだ?」

「つまり、オウカが聖国に居てクランという組織に所属していることまでは分かっても、そのクランという組織、あるいはクランマスターのカナメという人間がどういう立場にあるかを把握できていない。ちょっと調べれば分かる程度の事を理解できていないとなると、聖国をナメてるかまともな諜報が居ないかのどっちかしか無いってことになる」


 確かに、まともな諜報員がいるのであればオウカが昼間はエグゾードの所にいることくらいも調べていそうなものだ。

 それが出来ていないということはつまり、まともに調べていない……あるいはまともに調べる人材がいないか、という話になる。


「なるほど。三つ目は……カルゾム帝国の狙いがオウカではなくエグゾードかもしれない、ってことか?」

「その通り」


 カナメにアリサは頷くと、声のトーンを少し落とす。


「……ぶっちゃけオウカを追うつもりがあったなら、今までいつでも追えたはず。同じ連合内に居たんだしね。それをせずに今やってきたということは、まず間違いなくエグゾードが目当てだと思った方がいい」


 オウカが発掘された魔操巨人エグゾードの手を持ち出したことは、当然知れているだろう。

 となると、それを元にオウカが魔操巨人エグゾードを再現したのだろうと考えてもおかしくはない。


「だとすると、考えられるのはエグゾードの所有権主張……かな?」

「かもしれないね。向こうがエグゾードをオウカが造った魔操巨人エグゾードだと思っているなら、それくらい言ってきてもおかしくはない」


 ついでに再現したオウカの身柄も抑えれば技術独占で一気に強国家へ……といったところだろうか?


「……すっごい馬鹿だよな」

「馬鹿だね。しっかり調べる前に行動しちゃう辺り、更に馬鹿だ」


 言いながら、アリサは婚約申し込み用の似姿に淡々と穴を空けているシュテルフィライトを見る。


「まあ、アレが使者一号をぶっ飛ばしちゃったから、その辺りで文句をつけてくるかも分かんないね」

「うーん……」


 シュテルフィライトの事だから、ギリギリ死なない程度の手加減しかしていないのは間違いない。

 一応使者という形で来ている……まあ、その割には引き渡しがどうのこうのと高圧的っぽかったようではあるが、とにかく使者を殴った事で向こうとしては抗議というカードを得ている。

 その効力がどの程度かはさておいて、更に面倒臭くなったのは間違いないし……問題は他にもある。


「まともな手段だけ使ってくるならいいけど……」

「強引な手段もあるかもしれないね」


 すなわち、誘拐。一国家の行う策としては下策もいいところだが、絶対に無いなどとは断言できない。

 むしろ「あるかもしれない」と考えて対処するのが当然とすら言えるだろう。


「……やっぱり、俺がついているしかないか」

「それがいいね。私も手伝えるところは手伝うけど」

「ああ、頼むよ。正直に言って、俺が朝から夜までついて離れないってわけにもいかないし」


 何しろカナメは男で、オウカは女だ。同行できない場所だって多々ある。


「おいカナメ。我は頼らんのか?」


 そんな事を言うシュテルフィライトを、カナメは疑り深そうな目で見る。


「……壊して全部終わりな話なら頼るんだけど」


 生きてればいい、という問題ではないだけに大雑把なシュテルフィライトでは不安しかない。


「お前が我をどういう目で見ているか、よぉく理解したぞ」


 カナメの考えを見抜いたのだろう。シュテルフィライトは新しい似姿に、かなり乱暴に大きな穴を空けていた。

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