問題は予想外の方向からやってくる2
いきなり決闘を申し込まれたカナメは思わず目を瞬かせる。
なにしろ、決闘を申し込まれる理由が見当たらない。
いや、まさかと考えオウカを見るが、オウカも首を横に振る。
オウカとて、このアークロットとかいう青年とは初対面だ。
「申し訳ないんですが、決闘を受ける理由が無いです」
カナメとしてはそう答えるしかない。カナメは騎士でもないし、クランの責任者という立場ではあるが貴族というわけでもない。
尚且つ初対面の人間に決闘を申し込まれて「よし、決闘しよう!」と即答できる程戦闘狂でもない。
「貴殿になくとも、私にはある。なんとしてでも受けて頂く」
「その貴方の理由っていうのを伺っても?」
カナメが問うと、アークロットは悔しげに視線を逸らす。
「……私の婚約者が、貴殿に奪われたからだ」
「えっ」
「えっ!?」
カナメが驚いたような声をあげ、オウカが信じられないものを見る目でカナメを見る。
「カナメ。貴方ってば奥手だと思ってたのに」
「ち、違う! そんな事しない!」
「何を言うか! 私はジュリアの縁談を貴殿に持っていくからという理由で破談にされたのだぞ! 普通ならありえん事だ……貴殿がジュリアを望んだのだろう!? だというのに、横に別の女を連れているなど……もはや許されぬ! 私との決闘を受けよ、化けの皮を剥がしてくれる!」
「ええー……いや、そのジュリアさんとかいう人を俺、知らないんですけど……そもそも婚約話なんて聞いてもいないし……」
「とぼけるか……新たな英雄などと呼ばれているくせに、とんだ腰抜けめ!」
言い放つと、アークロットは腰の剣を外してカナメへと投げつける。
「おっと」
カナメが思わずその剣を受け取ると、アークロットはカナメに向かって指を突きつける。
「我がロウグリフ家に伝わる宝剣だ。好きなだけ確かめろ、二振りとない名剣だ」
「えっと……?」
そんな事を言われても、こんなものをどうしろというのか。
まさか迷惑料にカナメにくれるという話でもないだろう。
「誰か、私に剣を! 安い数打ちの剣で良い! 単純に剣技でこの者を圧倒してみせよう!」
まるで何処かの劇の如く叫ぶアークロットに、面白がった一人の冒険者が剣を投げる。
それなりに使い込まれたその剣を鞘から引き抜くと、アークロットは「感謝する!」と言いながら手を上げる。
「さあ、始めよう。私が勝ったらジュリアから手を引いてもらう。貴殿が勝ったら、その剣は差し上げよう」
正直に言って要らないし、やはり決闘を受ける理由が無い。
聖騎士団辺りが乱入してきて止めてくれないかな……とも思うのだが、今のところその様子もない。
「んー……」
カナメは宝剣とやらを隣のオウカに渡すと、片手を前へと向ける。
「弓よ……来い!」
その言葉と同時にカナメの手の中に黄金の弓が現れ、周囲が大きくざわめく。
どうやらこの辺りにいるのは最近観光か何かで来た者ばかりらしいが、その黄金の弓が普通の弓ではないことくらいは分かったのだろう。
「なんだ、それは」
「なんだって……俺、弓士ですから」
「……引く暇があると思うのか」
馬鹿にされたと感じたのだろう、アークロットは一枚の銀貨を取り出すとそれを指の上に乗せる。
「これを弾いて、地に落ちた時が決闘開始の合図だ」
「……もう一度言いますけど、俺はその婚約話とかいうのもジュリアさんとかいう人も知りませんからね」
「問答無用!」
コインが弾かれ……地面に落ちてキイン、という甲高い音を鳴らすと同時にアークロットは抜剣しカナメへと向かって飛び出す。
その速度はかなりのものであったが……カナメは慌てず、アークロットの持つ剣へと視線を向ける。
「……貰った!」
「
「なっ……!?」
カナメを斬るはずだった剣がアークロットの手から消え、勢い余ったアークロットはいつの間にか一本の矢を手にしたカナメがバックステップで下がったせいで転んでしまう。
「な、何が……!」
それでも素早く立ち上がり、しかしその瞬間にカナメの放った
「ぐ、お……っ」
「それじゃ戦えませんよね……俺の勝ちです」
あまりにもあっけない、しかし圧倒的な勝利に周囲から歓声が上がる。
だが、アークロットは憎々しげにカナメを見上げている。
「くっ……手から剣が消えるなど有りえん。しかもコレはなんだ。こんなもの、聞いた事も無い!」
「詳しくは説明できませんが、とりあえずこれで俺に絡むのやめてくれますよね?」
元より、そのジュリアとかいう女性を嫁にするつもりは毛頭ないのだ。
本当に婚約申し込みが来たところで、カナメが断ればいいだけの話。
ついでに……まあ、マナー違反でなければアークロットと元の通り婚約をし直すように一筆添えたっていい。
「……決闘に負けた以上は仕方ない。ジュリアを……幸せにしてくれ……!」
「まずは俺の話を聞きましょうよ、お願いですから」
心の底から疲れた顔で溜息をつくカナメに、オウカが少しだけ同情した目を向ける。
しかしながら……これは、まだ始まりでしかなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます