宝石竜シュテルフィライト6
「
「させるかあああああ!」
真珠の騎士に抱えられたカナメにシュテルフィライトがブレスを吐き、カナメがブレスを矢に変える。
単純ではあるが、互いに効果的だ。
シュテルフィライトはブレスを吐かねば矢にされ、カナメはブレスを防がねば例え死ななかったとしても地に落ちる。
互いに決め手がないままの空中戦は、すでにアリサにもルウネにも手が出せない。
「……歯痒いね。こうなってくると、私達には決め手がない」
アリサの言葉に、ルウネが無言で答える。
たとえば、アリサは対人戦であればどうとでもする自信はある。
しかし相手は鍛えた技を一蹴する巨体を持つドラゴンだ。どうしようもない。
たとえば、ルウネは巨体相手でもどうにかできる
しかし、シュテルフィライトはそれを弾いてしまう。
唯一どうにかできそうなエグゾードは先程から沈黙しているし……そうなってくると、何も。
「あ」
「え? って、げっ」
真珠の騎士に抱えられている二人の視線の先。地上を走る見慣れた姿。
いつもの棒を構えたダルキンの姿がそこにある。
「あの爺さん、何やってんの……? まさか魔力が通じない事知らないんじゃ」
「……それはないと思うです」
「え、でもあの棒って」
「
つまり、ダルキンは本気で棒一本で戦うつもりなのだろうか。
しかし、それにしたって空中で戦うシュテルフィライト相手にダルキンが出来る事など。
そう考えるアリサ達の視線の先で……ダルキンは跳んだ。
「ぬ……!?」
「えっ……」
そして、シュテルフィライトとカナメもほぼ同時にそれに気付く。
有り得ない高さ……まるで
「な、なんだ貴様……戦人、いや普人!?」
「バトラーナイトのダルキンと申します。お見知りおきを」
あっという間に二人のいる高度まで到達したダルキンの腕が、消える。
いや、棒を振り一閃したのだと気付いたのは全てが終わった後。
「ぐお……っ!?」
自分の体に伝わる痛みにシュテルフィライトは驚愕する。
斬られた。ドラゴンの中でもかなりの硬度を誇るはずの自分が、斬られている。
あんな棒一本で、まさか。
カナメが慌てて向かわせた真珠の騎士に抱えられているダルキンを、シュテルフィライトは睨み付ける。
「有り得ぬ……何をした貴様!」
「斬りましたが。いやはや、貴女のようなドラゴンは斬った事がありませんでしてな。是非試してみたかった」
「え、えーと……」
あまりの非常識さにどうしていいかカナメが分からずにいると、ダルキンはカナメに軽くウインクする。
「とはいえ、老体には空中戦は酷でしてな。あとはお任せしましょう」
「……わざわざ参加しておいて。お前のような強者、逃がすと思うか。我と遊んでいけ!」
「それでも構いませんが。若者が頑張っておりますしな」
「何を……」
「ほら、後ろ」
その声に。いや、確かに後ろに感じる魔力の波動に、シュテルフィライトは振り向く。
そして、気付く。その、巨体が地を蹴る轟音に。
「ゼノン……キック! インパクトォォォォォォ!!」
足に輝く魔力を纏わせたエグゾードの蹴りが、シュテルフィライトの更に上空から突き刺さる。
その魔力と、その巨体故の重さ。それらは全て攻撃力へと加算され、シュテルフィライトを再び地面へと叩き落す。
「ぐ、ごおおおおおお!?」
地面に叩きつけられたシュテルフィライトに馬乗りになるようにエグゾードが押さえつけ、その輝く瞳がカナメを見上げる。
「あー、もう! これで完全打ち止め! カナメ、後はよろし」
まるで電源が落ちるようにエグゾードの瞳から光が消え、恐らくは「よろしく」と言おうとしたのであろうオウカの言葉も聞こえなくなる。
だが、それでもエグゾードの重さが消えてなくなるわけでもない。
その巨体はシュテルフィライトを僅かな時間地面に縫い付け……しかし、シュテルフィライトはそれを無理矢理弾き飛ばす。
「まだだ! このくらいで我は……!」
「
その僅かな時間があれば、カナメはシュテルフィライトまで辿り着く。
シュテルフィライトもそれを理解している。それでも間に合うと計算していた。
飛ぼうと落ちようと、自分の方が僅かに早いと。
……だが。
真珠の騎士に抱えられて飛ぶのでもなく。
自由落下するのでもなく。
真珠の騎士に自分を投げさせることで、シュテルフィライトの予想を超えた速度でカナメはシュテルフィライトに到達する。
「
シュテルフィライトの巨体が、一本の矢に変わる。
虹色の、空を舞うドラゴンを模したかのようなその矢を持ったまま、カナメは地面に叩きつけられる。
「カナメ!」
アリサとルウネが、かなりシャレにならない速度で地面に叩きつけられたカナメの元へと真珠の騎士に抱えられながら飛んでいく。
常人であれば死んでいるのが普通のその衝撃も、一旦シュテルフィライトで減速されたせいか……それとも
地面に大穴を開けたカナメはゆっくりと身体を起こすと、
地面に降り走り寄ってくる二人に……カナメは疲れたような、しかし満足げな笑みで応えた。
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