宝石竜シュテルフィライト2
「ぬ、がああああああああああああ!」
襲い来る巨大竜巻を正面から受け止め、シュテルフィライトは大地に足を踏ん張る。
シュテルフィライトは飛べるのだから、飛んでもいい。
竜巻に空へと吹き飛ばされた所で大したことはなく、魔力ダメージを拡散できる時点で単純な暴風でしかない。
だが、だからといって飛ばされる気は微塵も無い。そんな些細なところで「負ける」気は無いのだ。
耐えて、竜巻が消えて。その瞬間、シュテルフィライトは咆哮をあげる。
「ははは、見たか! こんなものでは我は倒れ……」
居ない。そう気付いたのは、視界を塞いでいた竜巻が消えた後。
当然そこにいるものと思っていた三人が消えている事実はシュテルフィライトに一瞬の混乱をもたらす。
逃げた?
何かの策?
一体何が?
「……回り込んだか!」
慌てたように振り向けば、右にアリサ、左にルウネの姿がある。
それを見てシュテルフィライトは竜巻を囮にした作戦だと理解する。
だが、あの二人は然程脅威ではない。カナメは。カナメは何処にいるのか?
右には居ない。
左にも居ない。
ならば何処に。
「
頭上から響くその声に、シュテルフィライトは弾かれたように天を見る。
そこには、シュテルフィライトへ向けて落下してくるカナメの姿がある。
まさか、いつの間に。
あんな堂々と、真正面から。
いや、問題はそこではない。あの魔法は……まさか、まさか!
「お……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その直感の命ずるままに、シュテルフィライトはブレスを吐く。
シュテルフィライトの内より生み出されし無数の魔力を込めた宝石……魔法石の嵐。
衝突と同時に大爆発を起こし一撃で人類の城砦を粉微塵に消し飛ばした事もある、シュテルフィライトだけが放てるドラゴンブレス。
だが、それは。
「
カナメの手の中で、虹色に輝く宝石のような矢と化して。その姿に、シュテルフィライトは初めて恐怖を覚える。
あれだけの魔力を込めたブレスを、矢に変えた。いや、そんな事は問題ではない。
あの男が、カナメが狙っているのは……!
「
カナメの手が触れる、その刹那。
「ぬ、おおお!」
シュテルフィライトの姿が巨大なドラゴンから小さな人間のものに変わり、カナメの手が空ぶる。
その隙を逃さずシュテルフィライトは手の中に無数の魔法石を生み出すとカナメへと投げつける。
「
その全てを逃さず矢に変えるカナメに明らかに怯えた表情を向け、シュテルフィライトは人間の姿のまま大地へと降り立つ。
少し後にカナメも……
カナメに
だが、その姿を見て……人間の姿になったことで青ざめた表情が分かりやすくなったシュテルフィライトは、僅かな疑問を抱く。その疑問は更なる疑問を連鎖させ、自然と言葉が口をついて出る。
「お前……自分が飛べない高さに跳んだのか? 何を考えている……いや、それ以前にどうやってあの高さまで跳んだ? いや、違う……そうじゃない。お前、我を矢にしようとしたのか!?」
「え、あー……」
何故か目を逸らしたカナメは、顔を赤くしながら「まあ、そういうこと」と答える。
「質問するってことは……負けたってことでいいのか?」
「ふざけるな。お前まさか、我を矢に出来ると……我の魔力を超えているとでも言うつもりか!?」
「ああ。直感だけど、いけると思った」
なんとふざけた答えだろうか。
ドラゴンの中でも特に魔力量に長ける自分の魔力を超えていると言ったのだ。
前のレクスオールですら、そんな傲慢な事は言わなかった。
……いや、しかしとシュテルフィライトは激昂しかけた自分を落ち着かせる。
あの時。あの瞬間、確かに自分は恐怖を覚えた。
あのままでは矢にされると、確かにそう感じたのだ。
つまり、それは。
「……なるほど」
その意味を感じて、シュテルフィライトはゾクリとするような嬉しさを感じる。
ああ、やはり。
やはり、レクスオールは自分に戦いの喜びを与えてくれるのだと。
そんな快感にも似た感情がシュテルフィライトの中を駆け巡る。
「ふ、は……ははは」
自然と、笑いが漏れる。
楽しい。そんな感情が溢れ出す。
退屈なばかりだと、もはや余生だと思っていた今が、楽しい。
「いいだろう、カナメ。だが我は矢にされなかった。それが答えだ。そしてお前が我を矢に出来たのなら、その時は潔く負けを認めようではないか」
シュテルフィライトの姿が再び巨大なドラゴンへと変わり……そのまま、シュテルフィライトは空高く飛ぶ。
「どうやってあれ程までに高く跳んだのかは分からん。だが……二度通じると思うな。そして我も遊び気分を捨てよう」
そう宣言すると同時にシュテルフィライトの目が虹色に輝き、カナメ達の真横に巨大な柱のような宝石の結晶が地面を貫き生える。
「う、うわっ!?」
「魔眼……!?」
「知らない魔眼です……!」
驚くカナメ達に、シュテルフィライトは上空から静かに告げる。
「我が秘石の魔眼……とくと味わえ、カナメ。もはや跳ぶ事は許さぬ」
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