備える者達2

 ヴェラール神殿地下へと、レヴェルとラファエラは進む。

 人造巨神ゼノンギア・エグゾード。ドラゴンに……そしてゼルフェクトに対抗する為に魔人が造った巨人。

 シュテルフィライトにエグゾードで対抗できるかは分からない。

 だがアレは、ドラゴンの中でも非常に厄介な能力を持った一体だ。パラケルムと同じだとカナメが思っているのであれば……非常に拙い事になりかねない。

 レクスオールの事を熟知したシュテルフィライトと事実上初見のカナメでは、経験の差の問題もある。

 だから、急がなければならない。

 

「こんな所に拠点が……! って、何よこの扉。カナメの仕業ね?」

「その通りさ。彼らしいだろ?」

「こういう事する前になんで私を呼ばないのよ。繊細に見えるくせに、そういうのは「前のレクスオール」と全く変わってないわね」


 カナメが正面扉に開けた「隠し扉」を通って、レヴェル達は地下遺跡の中へと入っていく。

 煌々と明かりの灯る遺跡に並ぶ未完成の人造巨神ゼノンギア達を見ながら、奥へ進む。

 そして最奥に佇む「完成品」の人造巨神ゼノンギアを見た瞬間、レヴェルの目が見開かれる。


「……驚いたわ。本物のエグゾードじゃないの」

「あ、本物なのかい?」

「姿形が同じ別物っていうのでなければね」


 何処か懐かしそうな目で人造巨神ゼノンギアを見ていたレヴェルだったが……その瞳は、すぐに近くに立つセラトとクラークに向けられる。


「状況はどうなの?」

「まだのようだ」

「クラーク、貴方は元魔人でしょ?」

「っていってもな。俺は人造巨神ゼノンギアに関わってなかったしよ」

「……そう」

 

 確かに、そういう魔人はたくさん居た。ならばクラークに期待はできまいとレヴェルが考えていると、セラトがふとした疑問を口にする。


「貴女はどうなのだ? 何か分からないのか?」

「……見てみないと、なんとも言えないわね」


 セラトに問われ、レヴェルはそう答えると通路を進みエグゾードの裏へと回る。


「ああ、もう! これは武器でしょ、これも武器……てことはここに指関連があって……よし、てことは……」

「状況はどう?」

「へ!? あ、えーと……歩いて殴るくらいの操作方法は分かった、かな?」

「そう」


 オウカの答えにレヴェルは考え込むように黙り込むが……やがて、一点に目を向ける。


「あら? そういえば制御球コントロールオーブは何処にやったの?」

「へ? 何それ」

「そこの台座にあったはずなのだけれど」


 オウカは先程から気になっていた台座とレヴェルを交互に見て……恐る恐るといった様子で問いかける。


「えっと……そのなんとかオーブがないと、どうなるの?」

「魔力をドカ喰いするくせに操作が恐ろしく難しい巨大魔操人形ゴーレムと化すわね。それでも動かせないわけじゃないけど……」

「じゃ、じゃあ。あるとどうなるの?」

制御球コントロールオーブを通して制御するから、操作が楽になるわ。たぶん貴女が今やってる事はほとんど要らなくなるわね」

「ええー!?」


 絶叫するオウカだが、無いものは無い。慌てて足元を探しても、そんなものが落ちているわけがない。


「そ、その制御球コントロールオーブってどんなの!? 今すぐ作れたりしない!? 予備とかないかな!」

「知らないわ。ただ、そうね……見た目は大きめの水晶玉って感じよ。魔力を込めれば特殊な術式が発動するって聞いた覚えが」

「あー! まさか!」

「な、なによ!?」


 突然大声をあげたオウカにレヴェルは思わず後ずさるが、オウカはそのままエグゾードから這い出すと通路から眺めていたラファエラに掴みかかる。


「此処に入る前に使ってた、あの変な水晶! まさかアレがそうなのね!?」

「そうだよ?」

「なんで言わないのよおおおおおお!」

「聞かれなかったしなあ」


 ガクガクとオウカに揺さぶられながら、ラファエラは一つの水晶玉を取り出す。


「ほら、これだろ? あんまり揺らすと下に落ちるぜ」

「あ、ちょっと!」


 ラファエラの手から慌てたように水晶玉を奪い取ると、オウカはそれに魔力を込める。

 すると水晶玉は眩く輝きだすが……それをしばらく見た後、オウカはラファエラとレヴェルを交互に見る。


「……これ、台座に置けばいいのよね?」

「そのはずよ」

「私に聞かれてもなあ」


 二人の返答を聞くなり、オウカは台座の上に水晶玉を置くが……特に変わった様子も見受けられない。


「ん……んん……まさかまた魔力込めないとダメってこと?」

「魔人の魔力を基準にしてるのよ? 当たり前でしょ」


 レヴェルの呆れたような言葉にオウカは「うげっ」と唸る。

 ここまでの動作を調べる過程でも結構魔力を使っているのに、一体どれだけ魔力を使うというのか。


「え、えーと……レヴェルって神様でしょ? だから」

「今の私はカナメと繋がってるのよ? この状況で出来るわけないでしょ」

「な、ならラファエラは……」

「悪いね。私も此処まで強行軍で魔力に余裕がない」

「う、ううー……」


 唸るオウカだが、レヴェルは小さな溜息と共にオウカの額を軽く突く。


「落ち着きなさいな。今イリスを呼んでるわ。あの子も魔力は魔人程ではなくとも高い方よ。それに転移魔法も起動させないと」

「ほう、此処にはこんなものが」

「って、きゃあっ!?」


 突然そこに現れた長身の男にレヴェルは驚き、しかしすぐに「あっ」と声をあげる。


「イリス殿はドラゴンの飛んだ方角へ向けてすでに出撃されておりましてな。代わりにエリーゼ殿をお連れしましたが」


 そう、それは……小脇に疲れ切った目をしたエリーゼを抱えたダルキンであった。

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