備える者達

「あれ、は……」


 シュテルフィライトの足先に飛びついた二人の人間を見て、レヴェルは呆然とする。

 確かにあの二人ならそういうことも出来るだろうが、まさか本気でやるとは。

 ……だが、足りない。あの二人ではまだ、戦力が足りていない。


「レ、レヴェル様! ご無事ですか!」

「平気よ。それより、今くっついていった命知らず以外の連中は何処!?」


 駆け寄ってきたヴェラール神殿の神官騎士達にそう言うと、神官騎士達は慌てたように敬礼する。

 

「は、はい! 恐らくイリス様はレクスオール神殿、オウカ殿とクラーク殿、ラファエラ殿はセラト様と一緒に地下、他の方々は現時点では未確認です!」

「……そう。最低でもダルキンは見つけてきてちょうだい。あの普人とは思えないのに普人な爺なら、アイツにある程度対抗できる可能性があるわ」


 イリスも必要だろう。彼女は昔英雄と呼ばれていた者達に近い域まで達している。どの程度まで通用するかは分からないが、居ないよりはいい。オウカとクラークは……まあ、別にいいだろう。彼女達は特化した攻撃力を持っていない。エルも同じだ。現代の普人にしてはやる方だが、シュテルフィライトに通用する程ではない。

 他の戦力……この街の神官騎士達も、この体たらくではどの程度役に立つか分からない。


「思ったよりずっと戦力が少ないわ……アイツとカナメじゃ相性が悪すぎる……! もっと、もっと何か……」

「そもそも、あのドラゴンは何なのですか!? あんなもの記録でも見たことが……!」

「……宝石竜シュテルフィライト」


 神官騎士の投げかけてきた質問にそう答えると、レヴェルは落ちたままだった大鎌を拾う。


「アイツの名前は宝石竜シュテルフィライト。もし本物なら……「かつての戦い」の頃から生き残ってる本物のドラゴンよ」

「へえ、あれが……」


 いつから居たのか、神殿の入口から歩いてきたラファエラへとレヴェルは振り返る。


「実に強そうだ。でもカナメなら勝てるんじゃないのかい?」

「そう簡単にはいかないわ。シュテルフィライトはカナメとは相性が悪い。レクスオールと何度もやりあって生き残ってる奴なのよ?」

「ふーん……」


 何処か余裕のある表情でシュテルフィライトの飛び去った方角を眺めているラファエラに、レヴェルは苛立ちを隠せなくなってくる。


「貴女……随分余裕があるのね?」

「余裕があるってわけじゃないがね。随分と良いタイミングで来たものだ、とは思ってる」

「は!? 何処が良いタイミングだっていうのよ!」

「おっと! 話は最後まで聞くものだぜ!?」


 掴みかかられたラファエラは余裕が全くなくなっているレヴェルを宥めるように両手を上げる。

 カナメと「繋がっている」というだけではなく、カナメ自身に相当入れ込んでいるのだろう。ラファエラ自身はレヴェルがどんな神であったかを「今のレヴェル」でしか知らないが……死の神として恐れられれている割には相当に情が深い。今にも自分を殺しにきそうなレヴェルに、ラファエラは前置き無しで「それ」を告げる。


「……人造巨神ゼノンギアが、此処の地下にある」

「え?」

人造巨神ゼノンギアだ。しかもカナメが言うには「たぶんエグゾード」だ……戦力には充分だと思わないか?」

人造巨神ゼノンギア? エグゾードが此処にあるって言うの?」


 その言葉に、周囲の何人かが反応する。人造巨神ゼノンギアという言葉は知らずともエグゾードという単語は知っているのだろう。まあ、恐らくは魔操巨人エグゾードの方だろうが……それはさておき、ラファエラの言葉にレヴェルは考え込むようにラファエラから手を離す。


「エグゾードが此処に……? いえ、確かにジュノは此処に基地を造りたいとか言ってたはず……あの後に完成したってこと? だとすると……」


 レヴェルの記憶は大神殿……再臨の宮完成時までのものだ。その記憶には、エグゾードが此処に在るなどというものはない。だが、もしそうであるならば。


「……動かせるのね?」

「今地下でオウカが頑張ってるけど、どうだろうね」


 何しろ説明書があるわけでもないしオウカとて完成品の人造巨神ゼノンギアなど見たことがない。

 本来であれば年単位で研究してようやく……といったところのはずだ。

 だが勿論、そんなペースでは間に合わない。


「……私が手伝うわ」

「分かるのかい?」

「動かしたことはないけど、自慢話のせいで断片的な知識はあるわ。そこからどうにかする」


 人造巨神ゼノンギア・エグゾード。古代の魔人の造った巨大兵器。

 ドラゴンのような巨大な敵を押し留める為に造られた鋼の巨人。

 もしそれがあるならば……カナメを助ける、大きな力になる。


「今すぐ案内なさい! それと、貴方達はイリスをすぐに連れてきなさい! エグゾードを本当の意味で扱えるのは、たぶん彼女しか居ないはずよ!」

「はい! すぐに!」


 走り出す一人の神官騎士をそのままに、レヴェルは神殿の中へと駆け込んでいった。

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