古の巨神伝説9

「なんとなくって……え、なんで?」

「ふーん、なるほど」


 訝しげなオウカとは逆に、ラファエラは何かを理解したかのように頷く。

 そのラファエラの理解した風が気に入らなかったのか「何がなるほどなのよ!」とオウカが噛みつくが、ラファエラは気にした様子もない。


「じゃあ、コレはエグゾードってことでいいさ。で、どうするんだいコレ」

「え?」

人造巨神ゼノンギア・エグゾードは聖都の地下に実在した。で、そこから先は? 分解して技術を得るにも手間取りそうだが」

「そ、れは」


 カナメは思わずオウカに視線を向ける。ここから技術を得たいと言ったのはオウカだが……そのオウカも難しそうな顔になる。


「そうしたいのは山々だけど、この状況じゃ分解するのも難しいし元に戻せるかも不安だわ。あっちの未完成品ならいいでしょうけど、どうやって弄れる状況に持っていくかって問題もあるし」


 そう、未完成品の人造巨神ゼノンギア達は鎖に吊るされている。

 古代の魔人達は何らかの手段で整備できていたのだろうが、今となってはどうすればいいのか分からない。

 まさか古代に行って聞いてくるわけにもいかないのだ。

 下に降りるだけなら階段が端の方に見えるが、まさか鎖を切るわけにもいかない。


「……たぶん、下に降ろす仕掛けがあるんだろうけど」


 それを調べるには、この遺跡をじっくりと調べてみるしかない。

 よく見てみれば、周囲には先程のものと似たような小さな柱が点在している。

 ひょっとしたら、あれがこの遺跡の何らかの操作機能を備えている可能性だってある。


「まあ、その辺は後回しよね!」

「え?」


 オウカの突然の明るい声にカナメは疑問符を浮かべるが、オウカは全く気にした様子もなく人造巨神ゼノンギアへと近づいていく。

 人造巨神ゼノンギアのある場所と今立っている場所を隔てる……恐らくは落下防止用であろう壁に手をかけ、オウカはキラキラとした目で人造巨神ゼノンギアを見上げる。


「古代の魔人の叡智の結晶の完成品がそこにあるのよ! どうやって動かすのかしら……指一本でも動かせないかしらね」

「確かイルムルイの作った偽物は中に乗り込むんだったよな」

「そんなのと比べても仕方ないんじゃないの?」


 イルムルイに乗っ取られていたアリサは嫌そうな顔をするが、実際カナメの想像する操縦方法といえば乗り込み式だ。

 オウカもそれを連想したのか、人造巨神ゼノンギアの胸元をじっと見る。

 しかし、見たところでそこが急にパカッと開いてオウカを迎え入れるわけでもない。

 しばらく見ていた後に、オウカは意を決したように壁を乗り越えて人造巨神ゼノンギアの横にある細い道を歩き始める。


「お、おいオウカ?」

「大丈夫! こっちにも落下防止の柵みたいなのあるし!」


 危なっかしい足取りでオウカは細い道を進み……やがて、その裏側に回り込み「あっ」と声をあげる。


「あった! あったわ!」

「え? あったって……まさか」

「背中の所が開いてるのよ! ここから入れるみたい!」


 オウカの声にカナメ達は顔を見合わせ……「私はいい」というセラトとラファエラを除く三人が細い道を進み人造巨神ゼノンギアの裏に回り込む。

 すると、確かに其処にはドア……というよりもカナメの感覚で言えばハッチのようなものが開いた背中と、その奥に入っているオウカの姿が見える。

 その中はカンテラで照らされているが、カナメの位置からだと何かの台座の前の大きな椅子のようなものに座るオウカと前面に設置された水晶板、そして伸びる太い金属線のようなものしか見えない。


「どう? 動かせそうなの?」

「まだ分かんないわ」


 アリサの問いに、オウカはワクワクした感情を隠しもしない口調でそう答える。


「たぶん、無数の術式を刻んで疑似的な人の動きを再現したんだと思うけど……軽く見ただけでも恐ろしい量の魔力使いそうよ、これ。どうやって動かしてたのかしら……」

「さっきみたいに魔力を流してみるわけにはいかないのか?」

「流してるけど、全く反応しないのよ。たぶん単純に魔力量の不足だと思うんだけど……他にも気になることはあるわ」


 人造巨神ゼノンギアの中に入ってきたカナメに振り向くと、オウカは自分の前面を指差す。

 身を乗り出すようにしてカナメがそこを見てみると……前面にある水晶板とは別の小さな水晶板が嵌っているのが分かる。


「これはたぶん、さっきの水晶板と同じ魔力を流し込む場所だと思うんだけど……問題はそっち」


 そう言って、カナメが腕を乗せている台座をオウカは指差す。


「明らかに此処に何かが収まってたと思うんだけど、見当たらないし。もし重要な部品だとしたら、これもまた未完成品ってことになっちゃうわ」

「うーん……」

「うわ、狭っ! 流石に三人は無理かな……?」

 

 二人の会話に冒険者の本能が疼いたかアリサも中に入ってくるが、流石に三人だと狭いし椅子も一人分しかない……が、アリサは出ていく気もないようでカナメに乗っかるようにしてオウカのいる場所を眺める。


「ふーん。なんかワケわかんないね」

「私だってそうよ。こんなもの、どうやって動かしてたのかしら」

「意外と、この台座みたいなのが鍵だったりするんじゃないの? ここに魔力流し込んだりさ」


 冗談交じりに言ったアリサではあったが、オウカはその言葉に真剣な表情になって台座を見つめ始める。


「うーん、まさか……」


 悩み始めたオウカがチラリとカナメを見た、その刹那。

 慌ただしくガンガンと音を響かせながらセラトが走ってくる。


「カナメ、ちょっといいか」

「え?」

「……神殿の表に、妙な女が来ているそうだ。レクスオールを出せ……と。そう言っている」

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