古の巨神伝説8

 それは巨大な鋼の人型。

 それは金属製の鎧騎士。

 そう、それは。


人造巨神ゼノンギア……? まさかこれ全部、人造巨神ゼノンギアなの!?」


 魔操人形ゴーレムであるクラークと比べてみれば、似ているが全く違うものだと理解できる。

 たとえば、目元。クラークは空洞の中に光る目があるが、居並ぶ人造巨神ゼノンギア達は仮面のような顔の目の部分は水晶のようなもので覆われている。

 

「でも、これは……」


 呟くアリサの言葉の意味を、誰もが察する。

 そう、此処に在るものが全て人造巨神ゼノンギアであるならば、それは凄い事だ。

 ……「完成品」の人造巨神ゼノンギアであるならば。


「なんていうか作りかけ、みたいな感じだな」


 たとえばカナメ達の目の前にある人造巨神ゼノンギアは上半身はあるが両腕も下半身も無く、鎖に吊るされている。

 その向かい側にある人造巨神ゼノンギアは頭部が無く、腕も足もない。

 かと思えば下半身だけ存在する人造巨神ゼノンギアもあるし、足はあっても両腕と頭部の無い人造巨神ゼノンギアもある。

 カナメ達と人造巨神ゼノンギアの間は胸の高さ程の壁で区切られており、整備用なのか細い道が人造巨神ゼノンギアの横を通すように存在しているのが見える。


人造巨神ゼノンギアの製造拠点だったってこと? でも、待ってよ。人造巨神ゼノンギアは確か資材不足で魔操巨人エグゾードに切り替えられたんでしょ? 此処に在るものって、どう考えても完品の人造巨神ゼノンギアを作るに足るじゃない」


 そう、個々の部品は足りずとも……それぞれの部品を組み合わせれば人造巨神ゼノンギアが作れそうだ。

 だというのに、何故なのか。


「見たところ、大きさも似たようなものだな」

「そうだね。規格が合わないってわけでもなさそうだ」


 セラトとアリサが未完成の人造巨神ゼノンギア達を眺め、そう呟く。

 あの巨体を動かす方法があるのであれば、今から自分達でも人造巨神ゼノンギアを完成させられそうである。

 それをしなかった理由は何なのか?


「おーい、こっち来てみなよ。面白いのがあるぜ」


 考え込むカナメ達の元に、奥からラファエラがやってくる。どうやら悩んでる間に一人で奥に行っていたようだが……そんなラファエラにオウカが噛みつくように大声をあげる。


「ああっ、ちょっとズルいわよ! なんで先に行っちゃうのよ!」

「えー? だってさ。考察なんか後で幾らでも出来るだろ。悩むより調べた方が早いぜ」

「このお……カナメ、私達も行くわよ!」

「え!? でもこのモニターもまだ調べてないぞ!?」

「モニターって何よ! それは水晶板!」


 引きずられていくカナメであったが、突然停止したオウカのせいで転びそうになってしまう。


「う、わっと!?」


 なんとか態勢を立て直し、オウカに抗議しようとしたカナメだったが、そのオウカの視線の先を見てカナメも思わず絶句する。

 オウカの視線の先。そこにあったのは他のものとは違う……腕も足も頭部も、全てが揃った人造巨神ゼノンギアの姿だったのだ。


「完成品の人造巨神ゼノンギア……!?」

「そ、そうよね! そう見えるわよね!?」


 たとえ力自慢でも、未完成の人造巨神ゼノンギアの部品を動かして「完成」させるのは至難だ。

 だが、元から完成品であるならば何の問題も無い。

 追ってきたアリサ達も、その人造巨神ゼノンギアの姿を見上げて思わず息を呑む。

 

 分厚く重い全身鎧のような、その姿。僅かな関節部からは太い鋼線の束のようなものが見えており、鎧騎士を思わせる頭部の目の部分には他のと同じように水晶板が嵌っている。

 まるで今にも動き出しそうなその姿は……イルムルイの作ったモンスター・エグゾードとはかなり違うのが分かる。


「まさか、これがエグゾードなのかしら……」

「いや、それはないだろ」


 感慨深そうに言うオウカに、しかしラファエラはそう言って否定する。


「ちょっと、なんで「ない」って言えるのよ」

「なんでってそりゃそうだろ。エグゾードが強かったから代替品として魔操巨人エグゾードなんてものが作られたんだ。最前線で戦い続けてブッ壊れたに決まってる」

「……じゃあ、これは何よ」

「エグゾードじゃない人造巨神ゼノンギアだろ?」

「その方が変よ。2つ目の人造巨神ゼノンギアがあるなら戦線に投入してないとおかしいわ。だったら、これがエグゾードと考えた方が自然よ」


 言い合うオウカとラファエラを余所に、カナメは人造巨神ゼノンギアをじっと見上げていた。

 カナメの感覚から言えば、巨大ロボットか何かにしか見えない。

 まあ、厳密に言えば色々違うのだろうが……見上げるカナメの胸に去来するのはかつての憧れでもなく、感動でもない。

 そう、まるで……懐かしい、ような。


「……そうだ。これは……あの頃と……何も……」

「カナメ?」

「え!?」


 急に現実に引き戻されたような感覚にカナメはビクリと震え周囲を見回す。

 すると、すぐ横にアリサが居てカナメの顔を心配そうに覗き込んでいた。


「あ、アリサ?」

「なんか急に様子がおかしくなったけど……大丈夫?」

「え? あ、ああ」


 気が付けば、先程の感覚は消えている。

 だが……代わりに、一つの確信がカナメの中に宿っていた。


「これ、さ。エグゾードだ。理由は分からないけど、なんとなく分かるんだ」

 

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