古の巨神伝説6

 ヴェラール神殿の地下。ズラリと衣装の並ぶ部屋に、カナメ達は足を踏み入れた。

 大神殿に行く際に衣裳部屋となっている此処にカナメは入った事があるが、今回も入ると執事やメイド達……バトラーナイトやメイドナイトの見習いが現れる。


「セラト様、今回は」

「ああ。聖域に案内する」


 セラトの言葉に、執事やメイド達に緊張が走り……しかし、すぐにそれを抑え込む。


「了解いたしました」

 

 その言葉と共に彼等は何処かへと消え、セラトはカナメ達へと振り向く。


「さあ、行くぞ」

「……此処、ただの衣装部屋だと思ってました」

「そう思わせるのが目的だ。事実、此処はただの広い部屋だしな」


 並ぶ衣装の間を歩いていくと、バトラーナイト見習いやメイドナイト見習い達の姿が想像以上に多い事にカナメは気付く。

 それは単なる衣裳部屋に配置するには多すぎる程であり……それが、この部屋の重要性を示している。


「妙、だね」


 だが、アリサはそれを見てそう呟く。


「妙って、何がだ?」

「多すぎるでしょ」

「多いって……見習いの人が? ここの重要性を考えれば、そんなに不思議でもないんじゃ」

「何言ってんの。見習いの仕事は修行でしょ? こんな場所でどれだけ修行が出来るってのさ」


 ……確かに、これだけ衣装の溢れる部屋でバトラーナイトやメイドナイトの修行がどれだけ進むのか。

 彼等の仕事が衣装の選別だけと言うのならば話は簡単だが、そうではない。

 勿論ローテーションはしているだろうが、それにしても……多いのは事実だ。


「なんかまだ隠してない?」

「ふむ、流石に鋭いな。それとも疑り深いのか?」


 アリサの問いかけに、セラトはあっさりとそう答える。


「実は一人前も相当な数混ざっている。この階は彼等の訓練施設も兼ねているのでな」

「あ、訓練はしてるんですね……」

「当然だ。この部屋は見た目以上に広いということでもあるな」


 衣装の山はその部屋の広さを隠す意味もあるのだろう。

 入ると同時に見習い達が出てくるのも、実際の広さを悟らせない意味がある。

 間違いで入ってくる者を防ぎ、誤魔化し……排除する。つまりはそういう場所なのだ。


「さて、この先だ」


 明らかに見習いではないバトラーナイトの居る場所に辿り着くと、セラトはそこを指差す。


「階段、か」

「そうだ。降りるぞ」


 何の飾り気も無い、段だけの階段。手すりすらもないそれを下りていくと……すぐにその扉が姿を現した。

 そう、それは確かに扉だ。

 あるいは、扉のついた巨大な金属板。ひょっとすると箱のように全体を覆っているのかもしれない。

 それはこの場では分からないが……扉の周りを掘って入るという強硬手段を取れないであろう理由も自然と理解できた。

 開けられそうな場所は、その重厚な金属扉しかない。


「これが聖域の扉だ。念の為もう一度言うが、破壊しようとすれば魔力によるものと思われる反撃が来る」

「はい。アリサ、一応見てくれるか?」

「ほいほいっと。まあ、あんまり期待しないでよ?」


 カナメに言われたアリサは扉に近づき、あちこちを調べ始める。

 確かに鍵穴らしきものはある。

 ある、が……よく分からない。ダミーでないのは確かであるようだが、アリサの知る既存のどの鍵とも違うようにも見える。


「んー……」

「どう、かな?」

「全然分かんない。鍵開け道具突っ込んでもいいけど、それで開く気はしないかなあ」

「実はそれがダミーの扉で、周囲に本物の扉があるとかないの? ほら、あそこみたいに」


 オウカの台詞に、アリサはしばらく考えた後に首を横に振る。


「その可能性がないとは言わないけど。もしそんなものがあるとしたら、此処とは違う部屋だと思うよ」


 少なくとも、この部屋にはこの扉以外に開きそうな場所はない。

 しかしそうなると、この扉を開ける手段があるというわけだが……。


「私にもちょっと見せて貰っていいかな?」

「いいけど。鍵開けなんかできるの?」


 アリサがラファエラに場所を譲ると、ラファエラは荷物袋の中から大きな水晶玉を取り出す。

 ラファエラが魔力を込めると同時に水晶玉は強く、そして忙しく点滅し始め……その様子に全員が期待の目を向ける。

 もしこの扉が魔法による鍵がかかっていて、あの水晶玉が鍵であるならばと。そう期待したのだ……が。ラファエラはしばらくすると水晶球を荷物袋に仕舞ってしまう。


「ん、よかったね。確かに此処に人造巨神ゼノンギアがあるっぽいぜ」

「え? 今ので分かったのか? ていうか……鍵は?」

「ははは、やだなあ。私にそんなもの開けられるはずないだろ?」


 朗らかな笑顔で言うラファエラにカナメは脱力しそうになるが、なんとか抑え込む。

 そもそも今の水晶についても良く分からないのだが……とにかく、開けてみないとどうしようもない。

 しかし、どうやって。

 そこまで考えて……カナメはふと気づいたように矢筒に手を伸ばす。


「おい、壊す気か?」

「いえ、壊しはしません」


 少し慌てたように言うセラトに、カナメは一本の矢を弓に番える。


「これは、知られざる扉の矢ハセルドアアロー。前に帝国で色々あって手に入れたんですが……」


 そう、それは帝国で「隠し扉」を材料に作った矢。

 知られざる扉の矢ハセルドアアローは放たれ扉に突き刺さると同時に波紋のような魔力を広げ……そこに、四角い切れ目のような何かを作り出す。

 カナメは近づき……ガラリと、そこにある引き戸を開けてしまう。


「は?」

「え?」

「な、何!? どういうこと!?」


 知られざる扉の矢ハセルドアアロー。その能力は……命中した場所に扉を作る、である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る