古の巨神伝説4
それから少しの時間がたって、ルウネは面会許可をアッサリと貰って帰ってきた。
「すぐ来いって言ってたです」
「そりゃまた。何の用事かは言ったの?」
「軽く概要は」
「ふーん?」
ルウネとそんな会話を交わした後、アリサはカナメへと視線を向ける。
「当たりかもしれないね、カナメ」
「だといいんだけどな」
苦笑するカナメに笑い返すと、アリサはオウカへと視線を向ける。
「で、オウカは準備出来てるの?」
「準備って……話聞きに行くだけでしょ?」
「その足で向かうってことになったらどうすんの」
「うっ」
言われてオウカは慌てたように指折り何かを数え始め……チラリとクラークを見る。
「……最終的にはクラークが居ればどうにでもなるわ」
「クラーク頼りってのもなあ……」
「な、何よ! クラークだって一応私の
「あれはもう
「ちょっとカナメ! アリサが意地悪するんだけど!?」
「あー……えっとアリサ、程々に」
「ほいほい。じゃあ行く?」
涙目のオウカを放置したまま、アリサはそう問いかける。
まあ、アリサも単純に意地悪を言っているわけではない。
自分の意思を持って勝手に動くクラークがそれに該当するかというと難しく、またそういう意志持つモノを道具として扱うのはどうしても気が引けるものだ。
アリサはそういう事を言っているのだが……オウカにとってクラークは自分の目的の象徴である為、その辺りが中々難しかったりする。
「ん。じゃあ行こうか。すぐ来いって言ってるのに待たせたら悪いしさ」
「ていうか、私も同席していいのかい?」
「え? この話はラファエラの持ち込みだろ?」
何を言っているんだと言いたげな顔をするカナメに、ラファエラは困ったように頬を掻く。
「まあ、そうかもしれないがね。私は君がそのセラトとかいう男の信頼を得た件には関わっていない。言ってみれば部外者だ」
「部外者って」
「ヴェラール神殿のセラト神官長は用心深いと聞く。私が同席したら良い顔はしないんじゃないか?」
「そんなこと言っても……ラファエラはクランの仲間だろ?」
カナメの返しに、ラファエラは目を丸くする。
「私がかい?」
「……契約書書いただろ」
そう言うとカナメは、机の中から一枚の書類を取り出す。
幾つかの条件が書かれたその紙を差し出され、ラファエラは仕方なさそうに受け取る。
「ああ、そういえばサインしたっけ。真面目に読んでなかったよ」
「……だと思った。あっさりサインしたもんな」
説明したのになあ……と頭を抱えるカナメに、ラファエラはカラカラと笑う。
「冗談だって、覚えてるよ。でもそれとこれとは別だろ。同じ組織に属する人間が、必ずしも同じ扱いをされるわけじゃない。信頼という面では特にね」
「俺はラファエラを信頼してる」
「おやおや」
契約書を返したラファエラは、大袈裟に肩をすくめてみせる。
「私みたいなのを信頼してるだなんて、お人好し極まれりだ。レヴェルを見習えよ、あの子は未だに私を不審者を見る目で見てくるぜ?」
「あー……レヴェルはラファエラの事を「未だに分からない」って言ってるからなあ……」
「ていうかカナメ、時間」
「げっ、そうだった! とにかくラファエラ、気にしなくていいから早く行こう! そもそも遺跡の説明は俺一人じゃ出来ないぞ!?」
「はいはい、分かったよ」
仕方なさそうに言うラファエラは慌てたようにマントを羽織るカナメを視線で追い……その肩を、トンとアリサに突かれる。
「ん?」
「正直に言うと、私はあんまり信用してない」
「言うねえ。でも正直でいいと思うぜ」
囁くアリサにラファエラは笑みを返すが……一方のアリサは、真顔のままだ。
「でもまあ、カナメが信用してるから私も深くは突っ込まない。そういうのはマナー違反でもあるしね」
「マナー違反、ね。何のマナーだい?」
「仲間の。私含め、突っ込まれたくない過去を持ってる奴なんて死ぬほど居るからね」
悲劇なんてものは、喜劇と同じくらいたくさん転がっている。
そういうものを一々太陽の下に晒さなければいけないわけではないし、そうしなければ仲間ではないというのなら、きっとこの世に「仲間」なんていうものは何処にも居ない。
だから、仲間であるならば「今」しか見ない。
「信用してないのに、仲間なのかい?」
「信用してなくても仲間にはなれる。友達にはなれないかもしれないけどね」
「なるほど、道理だ。で、私にそれをわざわざ言う理由は?」
ラファエラに問われ、アリサはすっと目を細める。
「勘、かな。なんとなく言っておいたほうがいい気がしてね」
「そうかい」
「何話してるんだ?」
出かける準備を終えたカナメが近づいてくるのを見て、ラファエラは軽い笑みを向ける。
「別にたいした話じゃないさ。カナメも中々組織のリーダーとしての貫禄が出てきたんじゃないかってね」
「貫禄って……俺はそこまでじゃないよ」
「そんなことないさ。アリサもそう思うだろう?」
「そうだね。出会った頃と比べたら大違いだよ?」
「……それは言うなよ……」
照れたように言うカナメに二人が笑い、少しの不穏を孕んでいた場の空気を吹き飛ばす。
「じゃあ、今度こそ行こう。あんまり待たせると怒られそうだ」
そんなカナメの号令と共に、一行はヴェラール神殿へ向かって出発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます