古の巨神伝説

魔操巨人エグゾード。それは現代における伝説の一つであり、実際にあったとされる伝説の魔法装具マギノギアであるともされている。

 また別の学説では魔法装具マギノギアではなく魔操人形ゴーレムの仲間であり分類としては魔法の品に分類されるとしているが……魔操人形ゴーレムを魔法の品と分類しない事から、魔操巨人エグゾードもまた魔法の品ではなく、あくまでそういう結果を生み出す「魔法」であると述べる学説もある。

 いずれにせよ共通するのは魔法の力を使って動く巨人が過去には存在し、大きな力を振るったということなのだ。


「でも、この学説は全部崩れたわよね。そもそも魔操巨人エグゾードが 人造巨神ゼノンギア・エグゾードの形を真似た量産品であったというのなら、魔操巨人エグゾードをある意味で神聖視する今の議論は根底から間違っていると言わざるを得ないもの」

「はあ」


 聖国に帰ってきたカナメを歓迎したのはアリサでもエリーゼでもイリスでもなく……今目の前にいるオウカであった。

 オウカはたまたま見つけたカナメを引きずると、勝手知ったるクランのカナメの部屋へと引きずっていった。

 あの三人と、ついでにレヴェルはまだ忙しいのかな……などと思いながらオウカの話を聞いていると、オウカが机をバンと叩く。


「つまり! 人造巨神ゼノンギアを探し出して謎を解く事こそが現代人に課せられた使命であると言えるわけよ!」

「え、ああ。そうだな?」

「そう思うわよね!? だからカナメ、貴方からもこいつに言ってやってちょうだい!」

「え? 俺か?」


 言いながら振り向いたのは、我関せずといった様子で本棚の本を読んでいたクラークだ。

 読んでいるのは植物図鑑のようだが、本人曰く「何読んでも面白い」らしい。


「そうよ、アンタよアンタ! 聞いてよカナメ、こいつ私が何度人造巨神ゼノンギアの事聞いても、聞こえないフリするのよ!」

「お、急に耳の機能が悪くなってきたな……まあ、俺も中身は骨董品だしなあ。しかも不完全だし。仕方ねえよなあ」

「ほらあ!」


 涙目で机を再度バンバンと叩くオウカにカナメは困ったような顔をする。

 オウカの情熱は分かるのだが、魔操巨人エグゾードにしろ人造巨神ゼノンギアにしろ、そんな巨大なものを現代でどうするのかという問題がある。

 カナメだって男だからそういうのに浪漫を感じないとは言わないが、現実問題として扱いに困る。

 なにしろドラゴンが地上に出てくる事だって……まあ、カナメはこの世界に来た初日に出会ってしまったが、早々あることではない。

 ドラゴン自体、長い人生でそう会うものではないらしいのだ。

 ……まあ、カナメはこの前パラケルムに会った事で二度遭遇したことになってしまったが。

 とにかく、そんな巨大なものを運用する機会は早々ない。

 下手に掘り起こせば諍いの元になりかねないのに、「そっとしておく」という考えはないものなのだろうか?


「うーん……実際の話さ。人造巨神ゼノンギアを運用する機会って、そう無いと思うんだよ。何処にあるかは知らないけど、積極的に探すようなものでもないんじゃないかな?」

「甘いわよ」


 カナメの説得にオウカはフンと鼻を鳴らす。


「いい? カナメ。世の中には強い力を求める連中が溢れてるわ。それこそ非人道的な手段に頼る奴だって、両手でも数えきれないわ」

「……」


 それは、理解できる。実際「ウアーレ」はその非人道的な手段で作られていたし……何処かで似たようなものが研究されていないとは言えない。

 あれだって、何処で手に入れたものかは不明だが魔操巨人エグゾードの技術で作られていたのだ。

 

「でも、聖国なら違う。ここは中立だもの。他の国が手に入れる前に動いて抑えちゃえば、危険な国の連中も手を出せないはずよ」

「それは……」

「そうして、出しても大丈夫な……還元できる技術だけ世に出していけばいい。聖国ならそれが出来るんじゃない?」


 確かにその通りだ。

 ルヴェルが言っていた事が確かなら、魔操巨人エグゾードだって義肢に使える技術が秘められている。

 だから、そういう風に扱うことだって可能ではあるだろう。

 あるだろう、が。


「どうかな。聖国だって、結局は人の集まりだ。盲信できるわけじゃない」

「盲信してるわけじゃないわよ。結局は「何処がマシか」の話でしかないもの。聖国なら他の国よりずっとマシなはずよ。だって中立なんだもの。侵略なんかとは縁遠いでしょう?」

「それは……そうだけど」

「そもそもさあ」


 話をずっと聞いてはいたらしいクラークが本を閉じて、本棚に戻し……別にやってくるわけではなく新しい本を掴み出す。


「そんな議論したって現物がねえだろ。どっかにあるって話ならともかくよ」

「知ってるわよそんな事。でもこれを機に調査団の話に繋がるかもしれないじゃない」

「俺にそんな権限ないよ……」


 カナメはクランの長ではあるが、聖国の運営に関わっているわけではない。

 あくまで聖国という後ろ盾を持った組織であり、聖国そのものではないのだ。


「まあ、もし有力な情報があったら動かなきゃいけないだろうけどさ」


 実際に研究するかはさておいて、確かに妙な国が手に入れては拙い。

 そう考えると聖国が先んじて手に入れるというオウカの話は間違いではないし……。


「情報、か」


 もしもっと早く情報を手に入れられるような手段があれば、彼女の事も。

 そんな事を考えて、カナメは小さな溜息をつく。

 受け身ではなく、積極的に情報を手に入れられるような何か。

 そんなものがあれば……と思う。

 しかしそれは所謂諜報組織であり正道ではない「裏の道」の話だ。

 そんなものをクランに用意していいものかどうか。そもそも人材の問題もあるが……。


「ほら見なさいよクラーク。カナメってば私の話をこんな真面目に考えてくれてるのよ」

「ん? おう、そうだな。俺もそう思うぜ」

「聞いてないでしょ!」

「聞いてる聞いてる。マジ感動」


 確実に聞いていないクラークにオウカが声を張り上げようとした、その瞬間。

 クランマスター室のドアがノックも無しに勢いよく開く。


「やあ、カナメ。帰ってきたんだって? いい情報を持ってきたよ」


 満面の笑顔で部屋に入ってくる少女……ラファエラに、カナメは思考を中断しきょとんとした顔を向ける。


「いい情報?」

「そうとも。聞いて驚け……この前話した人造巨神ゼノンギアがあるかもしれない遺跡の話……うお!?」

「大好き!」


 満面の笑顔で抱き着いてくるオウカを迷惑そうに引き剥がそうとするラファエラと、離れまいとするオウカ。

 そんな二人の横をすり抜けて、ルウネがカナメの分「だけ」のお茶を運んで来るのだった。

 

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