腐り果てた人間賛歌10
「ルヴェルの力を……?」
「そうさ。僕は全ての命に祝福の種を撒く者。故に、どんなに混ざろうと「個人」を特定できる。そして僕を「喚んだ」君には、すでに僕との繋がりが出来ている。だから、君にはすでに見えているはずだ」
ウアーレの下へ、二人は辿り着く。未だ動くことも喋る事も出来ないでいるウアーレに、カナメはそっと手を触れる。
先程は見えなかったもの。
先程は救えないと結論してしまいそうになった少女に、カナメは触れて。その頭の中に、大量の情報が流れ込んでくる。
「ぐ、う……!?」
流れ込む。流れ込んでくる。理解できてしまう。
すでにこの子達は……「帰れない」ということを。
帰るべき身体が存在せず……だからこそ、ディオスとルヴェルの先程の会話の内容が理解できてしまう。
今なら最悪ではない。つまり、最良はすでに望むべくもない。
カナメ達が辿り着いた時にはすでに、そんな可能性は消えていたのだ。
何故。
カナメ達が間に合わなかったから?
何故。
何故、この子達がこんな目に合わなければならないのか。
何故、こんな事が出来るのか。
……涙が、流れた。
それは、何の救いにもならない同情かもしれない。
あるいは、無力な自分に対する怒りかもしれない。
どちらにせよ、意味はない。
決定した「現在」に、それは何の影響ももたらさない。
だが、それでも。
それでも、「最悪」ではないのなら。
カナメは、伸ばした手を引くことはない。
だから。
「
ウアーレから、子供達を分離していく。その矢に秘められた子の事を知りながら、背負いながら。
「
この子達は、何も悪くない。
「
ただ普通に生きて、普通に過ごしていただけ。
「
ほんの少し、ほんの少しだけ不注意はあったかもしれない。
一人にならなければ、あるいは今の幸せに過ごしていたかもしれない。
「
でも。そんなものが、こんな目に遭う理由になるだろうか?
「
何故、何故。
「
何故、こんな目に遭わせたのか。
「
どんな権利があれば、こんな暴挙が許されるのか。
「や、やめろお! それは……ディオス・ウアーレは! 人類の救世主足りえる存在なのだぞ!? モンスターを蹴散らし、破壊神すらも倒す英雄になれるのだ! それを、それをおおお!」
駆け込んできて再びダインに取り押さえられた子爵が叫び、通路から覗いていたダリアがチッと不快そうに舌打ちをする。
「何が英雄よ、あんなモノが認められるわけがないでしょう」
「認めるとも! かつての戦いでも人の魂を使った
子爵の叫び声を聞きながら、カナメは
その度に、傍らに積まれた矢が増えて。
その数が五十を超えた時……ようやく、カナメの手が止まる。
「終わったね。これでこの子の中にある魂は……彼女のもの一つだけだ」
ルヴェルの宣言と同時にディオスも魔法を解除し……ウアーレは、いや……シンシアは崩れるように倒れ、カナメの腕に支えられる。
「う、あ……」
意思が消えたかのように焦点の合わない目になったシンシアを支えながら、カナメは答えを求めてルヴェルを見る。
「これが、「危険」である理由の一つさ。そして、拘束時に他が動かない理由でもある。この子は詰め込まれた無数の魂の統合役、そして窓口になっていた。身体の持ち主であり、操作者であり……同時に、寄生するように「融合」された被害者でもあった」
「どういう……」
「つまり。複数の魂がある状態がこの子にとって「正常」になっていたということさ。無数の魂を経由しながらされていた処理は、今現在「届かない」状態にある。結果として……そうなる」
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