腐り果てた人間賛歌9

 一人は、少し長めの青髪を真ん中分けにした細身で長身の男。

 黒い服に金の飾りや宝石をあしらった服は豪華で、その手には金属製の杖が握られている。

 切れ長の目と全体的にシャープな顔立ちはクールというか、どことなく神経質そうな印象がある。

 もう一人は……一言で言うと温和そうな少年だ。

 身長はエリーゼと同じくらい。柔らかそうな金髪の髪はゆったりしたカールのかかったショートボブ。

 青い目は丸っこく、口も笑顔を形作っている。

 着ている服は意外にカッチリとしていて、例えるならば結婚式のタキシードを思わせる白い服。飾りの類はほとんど無い。

 色々な意味で対照的な二人はカナメを挟むように立ち……突然現れたその二人に、全員が絶句する。

 そう、その二人は……「全員」に見えていたのだ。


「魔法が……!?」

「消えた、消えたよ!?」

「あのおじさんが何かやったんだよ!」


 騒ぐウアーレに、青髪の男は忌々しそうに舌打ちをする。


「おじさん、か。だから子供は嫌いだ」

「あはは。君は好きな相手の方が少ないじゃないか」

「そんな事はない。世の子供の全てがお前のようなら、私は子供好きになれただろうさ」


 男の返しに少年は肩をすくめ……カナメに顔を向け笑いかける。


「大体のところは分かってる。あの子の事、なんとかしようか」

「貴方、たちは……」

「分かってるだろう?」


 カナメの問いに、少年は優しい口調で返す。カナメに聞かせるというよりは……この場の全員に聞かせるような良く通る声で、少年はこう告げる。


「僕はルヴェル。そこの気難しいのはディオス。まあ……僕達が「どういう」のかは、君は知ってるだろうけどね」


 反響エコー。カナメが今のレヴェルと出会う前に会った、最初のレヴェル。

 カナメの魔力によって世界に現れた、幻のような存在。

 だがそれは、カナメ以外には見えない存在のはずで。しかし、彼等はこの場の全員に見えている。

 その疑問に気付いているかのように少年は……ルヴェルは、カナメに囁く。


「平たく言うと、ディオスのせいなんだが……ま、あまり気にしないのが正解さ」


 ディオスのせい。つまり大神殿の魔法が何か影響しているのだろうかとカナメは思う。

 だが、カナメがそれで納得できても他の面々からすれば先程の台詞は違う意味に聞こえる。

 ルヴェルとディオスが「どういう」のかと聞かれれば、普通はその正体について考える。

 ルヴェル。生と死の双子神の片割れにして生の兄神、すなわち生命の神ルヴェル。

 ディオス。世界で最も人気のある神の一人、魔法の神ディオス。

 そんな二人がこんな場所にいるはずがないと思っても……「まさか」と考えてしまう。

 そして、それは……ウアーレもまた、一緒であった。


「嘘、嘘だよ……だって、今までどんなに祈っても神様は来てくれなかったもん。神様だなんて、絶対に嘘!」

「……ふむ」


 ウアーレの叫びに、ディオスは興味深げな反応を見せる。答えるでもなく、ただじっと見つめ……カナメの向こう側のルヴェルへと視線を向ける。


「……ルヴェル。私は時間が無いと思うが、どうだ?」

「概ね君と同じ意見かな。今ならまあ……最悪ではないだろうさ」

「救える、んですか」

「君次第だ」


 カナメの問いに、ディオスはそう返し……カナメの背中を叩く。


「さあ、始めよう……ディオス!」

影拘束バインドシャドウ

「……!」


 ディオスの詠唱と共にウアーレの足元の影が盛り上がり、その動きが完全に拘束される。

 完全に……つまり口の動きすら抑制されるが、それでもウアーレは魔法を唱えられる……はず、なのだが。

 不思議と、「他の声」が魔法を唱えようとしない。


「やはりな」

「え、どういう……」

「それは僕が説明しよう。ほら、行くよ」


 再びルヴェルに背中を叩かれ、カナメとルヴェルはウアーレへと向かって歩き出す。

 驚いたように、しかし憎々しげに睨むその姿。隙あらば殺してやろうという殺意すら溢れている。


魔操巨人エグゾードの作成法は、実はそう珍しい発想じゃない。死にかけた者を新しい身体に移そうという発想は、その前からあったのだからね」


 治せるのであればそれがいい。義肢のようなもので補えるのならば、それでもいい。

 だが、それでは救えない場合もある。その救えない者を救いたいという願いがある。

 その行きつく先が「新しい身体」であったのはごく自然な事であった。


「それでも魂というモノを人が完全に理解できたわけでは無かったが……幾つか理解できたことがある」


 たとえば、魂とは形の決まったものではなく不定形で、「身体」に広がっていく事でその主導権を得るものだということ。

 そしてそれ故に、全身鎧のような「人の形を模したもの」にも入り込めるという事。

 たとえ頭が無くなっても身体の一部があれば、完璧ではないが「移植」が行えるということ。

 そして……。


「誰かが主導権をすでに持っている身体に他の魂を詰め込むのは危険である、ということさ」

「それは……」

「すぐに分かるよ。さあ、始めようレクスオール。僕の力を使って、この子の魂を分割するんだ」

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