腐り果てた人間賛歌4
鳥や虫の声だけが響く静かな夜に、扉を蹴り開ける音が響く。
開ける、どころか破壊するかのような勢いに入口付近に居た男が立ち上がり……しかし飛び込んできた鎧姿の巨体の男に殴り飛ばされる。
「ぐえっ……!」
「敵か!?」
「当たりだボケ!」
巨体の男……ダインの投げた鉄球がドアを開けて出て来た男の肩を砕き、2投目が男を奥へと弾き飛ばす。
「ダイン、下がれ!
ダインを庇うように前に出た男が短杖を構え展開した障壁に氷礫が衝突し、ダインが「うおっ」と声をあげる。
「魔法士が居たか……!」
「居ないと思うお前が馬鹿なんだ!」
言い争いをする二人だが、その目は油断なくドアの奥の暗がりへと向けられている。
今の威力が全力であるなら問題なく突破できるが、もしそれを狙った誘いであるならば。
「迷うくらいなら退けバカ!」
背後からかけられた声に思わず二人が道を開けると、ダリアと……それに少し先行したカナメが部屋へと走り、放たれた吹雪をカナメの展開した輝く壁が遮る。
「なっ……!」
「よし、ナイスよカナメ!」
吹雪の止んだその瞬間を狙ってダリアが部屋へと飛び込んだ直後、打撃音と短い悲鳴のような声が聞こえてくる。
「おい、お嬢!」
今の野太い声は間違いなく部屋の中に潜んでいた魔法士だろうが、念の為を考えてダインが踏み込めば、部屋の中には倒れた先程の男と、別の男……そして転がる杖がそこにあった。
そして部屋の中に設置されていたランタンに火を灯していたダリアは、ダインの顔を見るなり「このバカ」と罵る。
「連携を意識しろ、始めたら迷うな! いつも言ってるでしょ!? あとボサッとしてないで全員縛り上げる!」
「お、おう」
確実な殺害ではなく不確定要素の混ざる捕縛。
それを選んだ理由がカナメ向けのアピールであることはダインにも分かる。
目の前で殺さない程度にはカナメを高く評価しているのだろう。
先程の
「確か情報だと三人だったわね」
「くそっ……手前ら、なんなんだ……いきなり……」
「さて、何かしらね。どう、何かありそう?」
縛られる痛みで起きた男の一人にそう答えながらダリアはカナメにそう問いかける。
部屋のあちこちを調べていたカナメは見様見真似で壁を叩いているが、やがて難しい顔になってしまう。
「……隠し扉が定番だと思ったんだけどな」
「その発想は合ってると思うわよ。ちょっとどいて」
ダリアはカナメの居た辺りに近寄って同じように壁を叩き……やがて、壁にぺたりと耳をつける。
「……やっぱり。この向こうに何か空間があるわね」
「えっ」
「叩くのはいいけど、音の反応を見極められなきゃダメよ。まだまだね」
「あー……」
やっぱり見様見真似じゃダメかな、などと呟き始めたカナメに苦笑しながら、ダリアは壁を弄り始める。
この手のものは行き来できなければ意味がない。
出てくる「専門」であればこちらから開くように作る必要はないが、恐らくは此処からも入っている。
もしそうでなくとも、最悪壊してしまえばいいだけの話だ。
……まあ、それは本当に最終手段なのだが。
「開け方、教えるつもりある?」
「ケッ。死ね」
「てめえが死ぬか?」
唾を吐いた直後にダインに蹴られた男が呻くが、それでも何かを話す様子はない。
魔法士の男は気絶したままだし、最初にダインが殴り飛ばした男も気絶したままだ。
その様子を見ていたダリアは幾つかの「喋りたくなる」手段を思い浮かべるが、傍らのカナメを見てその選択を消去する。
「面倒ね。こうなったら壊して……」
「あのさ。この辺りが隠し扉なのは間違いないんだろ?」
「え? そうね。どうも仕掛けがあるっぽいけど」
「分かった」
そう言って先程ダリアが叩いていた辺りに触れるカナメにダリアは目を瞬かせるが、次の瞬間にはその目を驚きで見開く。
「
輝きと共に、そこにあった「はず」の隠し扉が消え……カナメの手の中に一本の矢が生まれ出る。
「……っ!?」
それを見ていた縛られた男も目の前で起こった事が理解できずに口をパクパクと動かすが、驚いたのはダルキンを除く他のメンバーだって一緒だ。
一体何が起こったのか、ほとんどの者が理解できない。
正確にはダリアやルドガーは少し知っているが、それでもここまで問答無用なものだとは思ってもいなかった。
こんなことが出来るのであれば、あらゆる扉の鍵は無意味なものと成り果てる。
それどころか……場合によっては、壁すらも無意味なのではないだろうか。
カナメ一人居れば、強固な要塞もフリーパスを発行された状態と何ら変わりない。
「あ、階段があるな……ダリア?」
「え!? え、ええ。流石ね、カナメ」
「はは……こういうのは邪道なんだろうけど、手段選んでられないし……さ」
「正道も邪道もないわよ。やり遂げた奴だけが正義よ」
言いながら、ダリアはカナメの背中を叩く。
「それじゃあ、ジョウとバンは此処の確保を続けて。交代要員が来たら対処。ルドガーは、この現場の指揮よろしく」
「了解」
「他の連中はついてきなさい。ダルキン、アンタもよ」
「ええ、そうですな」
頷くダルキンから視線を外しながら、ダリアは考える。
事情は知らないが、カナメはダルキンを手懐けている。
上手くカナメを篭絡すればダルキンも手に入るのだろうか。
それとも、友好関係を維持し聖国への影響力としての手札として利用したほうがいいのだろうか。
階段を慎重に降りていくカナメを見ながら、ダリアは頭に浮かぶ様々な「手段」を振り払った。
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