腐り果てた人間賛歌3
「見つけました」
そんな報告がダルキンから届いたのは、それから少しの時間がたった後。
1の鐘が鳴るか否かという……未だ真夜中の時間帯だった。
「えっと……早いですね」
「一応着替えはしたけど、まさか本当に見つけてくるなんて」
呆れたように言うカナメとダリアに、ダルキンは表情を変えぬままに「探せというお話でしたでしょう」と答える。
「対象の場所は一般家屋……を改造していると思われます。恐らくは交代の人員であろう三人の訪問者と、それとは別の三人が出てくる現場を確認しました。これだけ大胆に人員交換を行うのは真夜中だからでしょうな。恐らく昼に監視しても細かい人員交換が行われているはずです」
「そうだと確信する根拠は何? 最悪、単なるならず者のねぐらって可能性もあるでしょ?」
「着ているモノが良すぎます。ならず者であれば着るモノに頓着しません」
ダルキンの確認する限り、その者達が着ていたのは仕立ての良いヴァルマン絹の服。
恐らくは「変な奴だ」と目を引くのを避けるためなのだろう。
人間、服装がしっかりしている人間にはさして疑惑の目を向けないものだ。
だが「疑いの視点」で見れば違和感はハッキリと出てくる。
お屋敷という程大きくはない、どちらかといえば小さい家に夜中に出入りする仕立ての良い服を着た男達。
恐らくは何か言い訳を用意してはいるのだろうが、そんなものを聞く気もない。
明らかに怪しい。その一点があれば充分過ぎる。
万が一間違っていても、ならず者の同士討ちなど珍しくも無い。
具体的には皆殺しになってもらうわけだが……まあ、これはカナメには言えないことだとダリアは呑み込む。
結果的な話であればともかく、最初から皆殺しにするつもりで乗り込むと言ってもいい顔をしないのは目に見えている。
どうせ生かしておいても死罪確定だが、聞こえの良い「正義の要素」は今後のカナメとの関係をも考えれば必須だ。
「よし、じゃあ乗り込むわよ。一応聞くけどダルキン、うちのメンバーの位置把握してるとか言わないわよね?」
「全員見つけて伝達済です。今頃対象の建物の近くにいるかと」
「……この野郎、サラッととんでもない事言いやがったわね。あれでも隠密の訓練受けてんのよ?」
「錬度が高い分目立ちますな。明らかに素人でない動きをする者など、普通ではありませんと叫んでいるようなものです」
ダルキンを睨み付けていたダリアは溜息をつくと、諦めたように手をヒラヒラと振る。
「まあ、手間は省けたわね。アンタみたいな化け物がいるなら「私とメイドナイトに勝てる」奴とやらも完封できるわよね」
「ほう?」
そのダリアの言葉にダルキンはカナメを見るが、カナメは「あー……ちょっと無限回廊で……」と呟く。
「ふむ。こんな田舎にそこまでの強者が居ましたか。ですがまあ、この老骨に鞭打つ必要はないでしょう」
「あー……頑張ります」
恐らくはあの「白い少女」が敵であろうことは予測はついている。
アベルの幼馴染だという少女だろうことも。
……だが、ダリアとルウネを倒す程の……恐らくは魔法の能力は何なのか。
他の攫われた子供達は、あの牢の奥にいるのか。
エルとダルキンの会話の中にあった「救う」とはどういう意味なのか。
「……そうだ。ダルキンさん、アベルは」
「今はエル殿に見て貰っていますがな。ルウネもそこに居て貰おうかと思っていますが如何ですかな?」
「え」
ルウネが不満そうにダルキンに視線を向けるが、それにダルキンは静かな口調で答える。
「無限回廊の示した未来がそこのダリア殿とルウネの敗北だというのなら、まずはそのどちらかを外すは定石。あとエル殿は詰めも甘そうですからな。ルウネが見張っていなさい」
「……カナメ様」
「俺からも頼むよ、ルウネ。二人が……危険な目に合う未来は、必ず変える。その為には確かに、まず登場人物を変えるのは正しい」
なにしろ、回避条件が不明だ。
こうして作戦を変えても「変えたうえで同じ場面が再現する」かもしれないのだ。
それを防ぐ為にはメンバーを変えてしまうのが一番いい。
「ダリアも、出来れば俺と行動してほしい」
「一応聞くけど、どうして?」
「多少の攻撃なら、俺が絶対に防ぐ」
「なるほど?」
少し考えた後にダリアは「分かったわ」と返す。
ここで断るのは簡単だが、こういう提案をカナメからしてくるというのは悪くない。
現状カナメと帝国との接点である自分がカナメと積極的に接していくのは、戦略的にも正しい。
「確かに私達はお互いの戦い方もある程度知ってるしね。いい連携ができると思うわ。そうでしょ?」
「ああ。でも、流石に屋内じゃあの大技は使えないだろ?」
「そういう言い方をするってことは、貴方には私に見せた大技以外があるってことね。あの
「うーん。あれは今回使えるかどうか……」
「そ。楽しみにしてるわ」
ウインクして微笑むダリアにカナメは頷いて笑い……ルウネの軽い咳払いにカナメはハッとする。
「あ、じゃあそろそろ行かないと……この宿はどうするんだ?」
「お金は前払いしてるから心配ないわ。どうせ宿の主人は朝まで帰ってこないしね」
「そ、そうか」
それはそれで宿として問題があると思うのだが、カナメの気にする事ではないのだろう。
自分を納得させながらカナメはダルキンに「お願いします」と伝える。
「承りました。ではルウネ、後は言ったように」
「……はいです」
頷くルウネを確認すると……ダルキンは、カナメとダリアを「抱えて」宿を飛び出した。
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