新たなる「問題」2

 それらは、単体では気付かないであろう依頼。

 曰く、息子が行方不明になった。

 曰く、娘が帰ってこない。

 自警団が探しても見つからず、騎士団に申し出ても相手にされず。

 冒険者ギルドに行けば高い金がかかると言われ、最終的にツテや噂を辿ってクランに持ち込まれた依頼達。

 それ自体は、別に珍しい話ではない。

 野性の獣にモンスター、盗賊団、自然だって綺麗なばかりではない。

 探してみればそういう結末に行きついたという話だって、本当に珍しくないのだ。

 ……だが、たまに「そうではない」話も混ざっている。

 それが「違法な人買い」と「人攫い」である。

 盗賊団と同一視する者もいるが、基本的に彼等は盗賊団とはその根底から異なる。

 盗賊団は「金の為に」略奪行為を始めた者達であり、皆殺しを基本とする。

 彼等にとって自分達の情報に繋がる何かがあることは脅威であり、人の売買などは余程の考えなしで無ければやらない。


 一方の「違法な人買い」や「人攫い」であるが……そもそも「人買い」とはある種の人材紹介、あるいは派遣業であり仲介料をとって勤め先と労働者とを繋ぐ商売の者達だ。

 しかし、時折そうした「合法な人買い」を装った者が現れる。

 彼等は口先三寸で相手を騙し、様々な表沙汰にできないような場所に人間を売り飛ばす。

 人攫いはもっと最悪で、目的の「商品」を攫う為に押し入り強盗紛いの事をする連中すらいる。

 彼等は個人であったり、団体であったりするが……極刑と定められても無くならないあたり、人の業の深さが垣間見える。

 それだけ、需要があるということなのだから……買い手から潰さないとどうしようもない。

 

「つまり、その紙束の中身ってのは……」

「ああ。「人攫い」連中が関与してる可能性がある。それも結構な規模だ」


 そう、単体なら気付きにくい。

 しかし、連続した時期に一定の法則で複数の行方不明事件が発生しているとなると……それは一気に怪しさを増す。


「この地図を見ろよ。まるで線を描くように複数の行方不明事件が発生してやがる」


 言いながらエルが差し出してきた地図は……大雑把なものではあるが帝国のとある地域の地図で。

 描かれた丸印が、確かに一本の線で繋げるように存在している。

 この丸印が行方不明事件であるならば、確かにこれは奇妙に過ぎる。


「この地図には無いけど……これを線で繋ぐとしたら、道があったりするのか?」

「爺さんが言うにゃ、あるってよ。それも結構デカい道だそうだ」

 

 だとすると、もしそれが誘拐事件なら随分大胆な犯行にも思える。

 そんなに行方不明事件が起こっていれば騎士団が動いて然るべきだと思うのだが……。


「……なんで騎士団は動かないんだ? 素人目に見てもおかしいって分かるぞ」

「簡単だよ、んなモン。庶民が一人二人居なくなったなんて話を騎士団は相手にしねえんだ。自警団も横の繋がりがねえから共有できねえ。だから「こう」なるってわけさ」

「そう、なのか」


 こうしておかしいと気付く誰かが出なければ、致命的な何かが発生するまでそういう連中が蠢くことが出来る。

 それは非常に恐ろしい事で……怖いくらいに、淀んでいる。

 恐らくはゼルフェクト神殿も、そうした隙間を利用して活動しているのだろうが……。


「もしかして、ゼルフェクト神殿絡みの問題だったりするのか?」

「流石にそこまでデカくはねえと思うけど……まあ、分かんねえな。小国規模くらいにはデカいとは思うぜ」


 なにしろ、結構な人数の子供を誘拐し……それを売り捌けるようなルート、あるいは隠せるような場所を持っているのだ。

 人も資金も相当にあるのは間違いない。


「助けたいけど……たぶん、この国の騎士団に通報するのが先だよな。これだけ情報が揃ってれば」

「動かねえぞ」

「え?」

「お前等無能だろって言われて「すいません、今からなんとかします」って素直に言う騎士団なんかあるわけねーだろ。一般人なら門前払い、クランとして言ったところで「こちらでも調査します」って言いながら屑籠にポイッてとこだな」


 一般騎士ならともかく、彼等の上にいる上級騎士は大概プライドが高い。

 しかも「クラン」として伝える相手であろう中央騎士団は、大概の場合その国の貴族で構成されており……プライドがとにかく高い。

 ひょっとしたら憂さ晴らしに「この無能が、なんとかしろ」と地方騎士団の尻を蹴っ飛ばすかもしれないが、蹴っ飛ばされた地方騎士団の上級騎士も「此処には何の問題もない。いちゃもんをつける気か」と返す可能性がある。

 そうなれば更に面倒な話になるし、下手をすれば非協力的になる可能性すらある。


「……つまり、クランとして「行方不明になった子供の捜索」という形で関わらないといけないってわけか」

「そういうこったな。ひょっとしたらお前の言う通りゼルフェクト神殿絡みかもしれねえし、そうじゃないかもしれねえ。となると、その辺の冒険者に任せるって話でもねえだろ?」

「なるほど、な」


 すでに後手に回ってはいるが、すぐに動く必要はあるだろう。

 問題はメンバーだが……人手も欲しくはあるが、警戒されない事を優先するなら最小限の人数で動く方が良いだろう。


「あ、俺も今回は行くぜ。こういう連中はちと個人的に許せねえしな」

「ルウネも行くです」

「なら、エルとルウネと……で、俺か。あと一人くらい、誰かの手を借りたいけど……」


 理想を言うのであれば、情報収集に長けた者がいい。

 何処にその組織の目があるか分からない以上、大々的に聞き込みをするというわけにもいかないのだから。

 そう考えるとカナメが真っ先に思いつくのはアリサやハインツだが……そんなカナメの視界に、すっと誰かが現れる。


「私が行きましょう」

「えっ」

「マジかよ」

「珍しくやる気です」


 そこに立っていたのは、すでにクランに無くてはならない重要人物となった「最強のバトラーナイト」……ダルキンであった。

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