モンスター・エグゾード

「……!」


 弾かれた。そう気付いた瞬間に、ルウネは跳んだ。

 確実に腕を斬り落とすはずだった一撃。

 しかしそれは、魔操巨人エグゾードを覆う透明な壁によって防がれていたのだ。


「通用すると思ったのですか? 今の私に? は、ははっ……なんとも愚かしい!」


 魔操巨人エグゾードの上を走りながら攻撃し、その度に弾かれるルウネを狙って、魔操巨人エグゾードの腕が動き……しかし、ルウネはそれをも足場にして地上へと跳ぶ。

 追撃のように掌から発射された光線はしかし、ルウネがイリスの下へと走り寄ると同時にイリスの展開した魔法障壁マジックガードによって防がれる。

 その頃にはルウネの展開した光の剣はその輝きを消失し、ただの棒に戻ってしまっている。


「……ごめんです。失敗したです」

「あれはカナメさんのと同じですね……仕方ありません」


 魔力障壁マナガード。カナメが自動展開できる防御手段のことは、イリスも当然知っている。

 あらゆる攻撃を自動で防ぐ、万能の障壁。

 カナメ曰く「怪我しなくても普通に痛い」らしいのだが、あの鎧の身体に痛みの感覚があるとも思えない。

 つまり、突破できなければ文字通り虫に刺された程の効果も期待できない可能性がある。

 そして、今以上の攻撃方法がルウネにないのであれば……防御を捨ててイリスが 魔力障壁マナガード破りに挑戦するしか手が無くなる。

 だが、それに失敗すれば後はない。

 どうする、どうすれば。

 魔操巨人エグゾードの掌に集まっていく光を見ながら、イリスは冷や汗を流して。


「其は凍土の槍。その威光は、ただ敵を貫かん為に輝けり……氷槍騎兵フリーズランサー!」


 その掌に向けて、巨大な氷の槍がイリス達の後方から発射される。

 魔操巨人エグゾードは当然その槍を手を軽く動かし避けてしまうが、同時に構成していた魔法も霧散する。


「エリーゼさん……!」

「状況はよく分からないですけど、アレは敵ですわね!? ていうか、貴方の同類なんじゃなくて!?」

「んー? ああ、魔操巨人エグゾードに見えるなあ。でもありゃ、形を真似てるだけだな。術式を感じねえ」

「鎧が喋った!?」

「喋ったです」

「それは後回しですわ!」


 オウカの魔操騎士ゴーレムナイトが喋った事に驚くイリスとルウネにエリーゼはそう叫び無理矢理黙らせる。

 エリーゼだって納得していないのに、この状況でゆっくりと納得できる説明などできるはずもない。


「イリスさん、説明を! アレはなんですの! 壊していいんですの!?」

「あー! 私の魔操騎士ゴーレムナイト!? 持ってきてくれたの!? ありがとう!」

「何アレ。魔操巨人エグゾード?」

「ご無事で何よりですわ! でも少し黙っていていただけるかしら……爆炎槍ボルカノンランス!」


 続けてやってきたオウカとレヴェルにエリーゼは怖い顔で振り向いてそう叫ぶと、魔法を構成しようとしていた魔操巨人エグゾード爆炎槍ボルカノンランスを放つ。


「……貴方も何処の誰か存じませんけど、少し大人しくしていてくださいますかしら。ダンスだって、相手の了解を求めてから始めるものですわよ?」

「ハハハ、これはこれは。この状況で中々に豪胆! ダンスの最中に乱入した方とは思えない言い草だ! ですが、まあよろしいでしょう。人生最後の僅かな時間を与えぬ程狭量でもありませんからね!」

「その声……アリサですわね。ということは……」

「ええ、そうです。恐らくはあの中に乗っ取られたアリサさんがいると思われます」


 イリスの言葉にエリーゼは魔操巨人エグゾードを見上げ、睨み付ける。


「下手に壊せないということですわね。クラークさん、貴方アリサさんの居そうな所分かりませんの?」

「そんな事言われてもな。アレってたぶん魔操巨人エグゾードでもなければ人造巨神ゼノンギアでもねーだろ? そんなもん……」

「あー、喋ってる!? なんでもがっ」


 スタスタと歩きオウカの側へ行ったクラークはオウカの口を塞ぐと、自分達が来た通路とは別の通路……その奥へと視線を向ける。


「そこのアンタはどうだ? 現代に生きる魔人ならアレのこと、想像つくんじゃねーの?」

「おいおい、無茶を言うなよ。でもまあ……想像でいいなら語れるがね」


 そこから出て来たのは、ラファエラ。多少服がボロボロになってはいるが、無事ではあるようだ。


「アレは見る限り魔操巨人エグゾードだが、魔操巨人エグゾードは人が乗り込むように出来ていない。それが出来るのは人造巨神ゼノンギアだからね」

「……でもたぶん、あの中にはアリサさんがいますわよ」

「ということは、アレの駆動方式は人造巨神ゼノンギアに似たものを採用しているという事になる。ということは、搭乗者の位置は……」

「胸部ね」


 レヴェルにラファエラは頷くと、魔操巨人エグゾードを指差す。


「もしアレが人造巨神ゼノンギアの駆動方式を模しているなら中央制御球コントロールスフィアを奪うか壊せば解決なんだが……たぶんアレ、ダンジョン製のモンスターだろ? てことはでっかい魔動鎧ゴーレムメイルなんだから単体でも動くだろうね」

「……話が見えませんわよ。結局どうすればいいんですの」

「簡単さ。動けないようにブッ壊してやればいい。手と足をもいでやれば、流石に動けないだろ?」


 どうして思いつかないんだい、と言うラファエラにイリスは渋い顔をする。


「アレは魔力障壁マナガードを……神々の防御魔法を使います。一筋縄ではいきませんよ?」

「はぁん? 魔力障壁マナガードをかい? へえ……」


 ラファエラはそう呟くと、凶悪な笑顔で魔操巨人エグゾードを見上げる。


「そりゃあいい。喜べ、皆。あの鉄屑、意外と簡単に壊れるかもしれないぜ?」

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