ラファエラの戦い
その姿は、例えるならアリ。
その姿を覆う黒い装甲は鈍い輝きを放ち、アリの頭部を模した兜のようなものについた顎はギチギチと音を鳴らす。
いや、実際にあれは顎なのだろう。鎧ではなく外骨格。それを纏った姿なのだ。
人々が語る「戦人」を連想させる姿になったフェドリスは、壁に叩きつけられたラファエラを嘲笑う。
ラファエラの手にあるのは、放しはしなかった細剣。
「ハハハ、どうしますか? もう1度その剣が通用するか試してみますか?」
ラファエラの細剣では、剣を犠牲にしても小盾程の役にも立たなかっただろう。
元々、打ち合いにすら向かない剣だ。
「げほっ……受ける気も……ないくせに。よく、言いやがる」
「それはそうです。先程の剣をまともに受ける程愚かではありませんのでね。それに、貴女はどうにも何か妙だ。ただの魔人というには……ぬうあっ!?」
フェドリスの背中に、突如電撃が炸裂する。
外骨格を纏ってはいても、高威力の電撃による衝撃はフェドリスの意識を何事かと背後に向けるには充分で。
そこに転がる金属球を見つけたその時には、ラファエラの両手の指の間に金属球が現れている。
「油断しやがったな、馬鹿が!」
跳ね起きたラファエラの放つ金属球はフェドリスに着弾すると同時に電撃を吐き出し、避けたはずの金属球すらも不可思議な軌道を描きフェドリスに襲い掛かる。
「ぐ、ぬ……これは……!?」
「説明する義理はないね。
「がああっ!?」
炎の槍はフェドリスを貫くと同時に爆炎を撒き散らし、ラファエラは細剣を構える。
「砕けよ、千切れよ、空に舞い散れ!
「そのパターンは飽きましたね」
ラファエラの詠唱は、傷一つ負っていないフェドリスが眼前に現れた事で中断される。
魔法を使ったわけでもない「ただの」高速移動でラファエラの前までやってきたフェドリスはラファエラを殴り飛ばし、更に追撃で蹴りを入れ……それでは足りぬとばかりに床へと叩きつけ踏みつける。
「貴女の攻撃パターンは実に貧弱だ。結局のところ、
「ハッ、それに翻弄されたくせに言うじゃないか……ぐっ!」
ラファエラを踏んでいた足を軽く上げ、再度踏みつける。
戦人のパワーで行われたそれはラファエラに確実なダメージを与え、それにフェドリスは満足そうに頷く。
「貴女の頑丈さのタネも割れました。自分で跳んでいましたね? こうしていれば、それも出来ないでしょうが」
「……ああ、そうだな。
ラファエラの言葉に、フェドリスは違和感を感じる。
この後、身体を乗っ取られると分かっているはずだ。
確かに「本体」のいるところまで運ぶまでの間は生きているだろうが、決して逃がしはしない。
だというのに、この余裕。
「……まさか、まだ生き残る可能性があるとでも?」
「うーん。ていうかさあ。君、マジで気付いてないのかい?」
「何の、話ですか」
フェドリスは、ラファエラのその余裕に何か嫌なものを感じる。
なんだ。一体、何を見逃しているというのか。
分断した。この場にいるのはラファエラと、自分のみ。
なら、何が。
いや、そうだ。そういえば。あの矢。あれが、まさかまだ!
「……!」
振り向く。迫っている。赤い鱗鎧の
大剣を構えたそれは通路の中を飛翔し、フェドリスへと大剣を構え突っ込んでくる。
「ご、お……!?」
強靭な外骨格の鎧を貫かれたかと錯覚するような強力な一撃は、フェドリスの巨体をも弾き飛ばす。
その隙にラファエラは抜け出し、床に降り立った
「な、るほど……貴女はコレがあることを知っていたのですね」
「黄色いのだけ分断して油断してたかい? まあ、私が知ってたのはむしろこっちなんだがね」
どのくらいの数をカナメが放ったのかはラファエラにも分からない。
だが、恐らくは相当の数のはず。一度分断されている上にこの状況……カナメとて躊躇いはしないだろう。
「さて、これで形勢逆転だぜ?」
「……そんな人形一体でどうにかできるとでも?」
嘲るような調子のフェドリスの言葉は、しかし当然のものでもある。
如何に
精々、ほんの少し押しとどめるくらいが関の山。
……だが、それでいい。
「どうかな。
「ハハッ、そんなものを期待しているのですか?」
「いいや。私はお姫様の類を気取る気は無くてね。ただまあ……家族想いではあるんだよ」
「何の話を……また時間稼ぎですか?」
また突っ込んで来ようというのだろう、体勢を低くするフェドリスに、ラファエラは昏い笑みを浮かべる。
「……弓をこの手に」
光が集う。
禍々しい輝きはラファエラの手の中に集い、やがて一つの形を創り出す。
例えるならそれは、歪な月の欠け。
夜空に時折見える、輝く「その他大勢」から取り残された黒い消失。
黒の夜空にありながらなお黒い、忘れられた月の一面。
「分断してくれた事には礼を言っとくぜ。おかげで……バレずに君をブッ殺せそうだ」
「そ、れは……レクスオールの弓? いや、違う。それは……」
「
漆黒の矢が、顕現する。
充分過ぎる程の殺意と魔力を込めた黒い輝きは……「その正体」に気付きラファエラを殺そうと跳んだフェドリスを、文字通りに消し飛ばす。
「……ハッ」
塵一つ残さず消え去ったフェドリスの居た場所を見ながら、ラファエラは弓を放り捨てる。
「君が人形なのは助かるな、口封じしなくて済むしさ。これがあの人形のフリしてるクソ鎧だったら、ついでに消しとかないといけないところだったよ」
そんな事を言いながら、ラファエラは
「さあてっと。私のとこに影を送り込んでるなら……本命はアリサかエリーゼか。出来れば助けておきたいとこだけど……間に合うかな?」
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