呪いの逆槍8

 魔操騎士ゴーレムナイトが走り出すと同時に、ツリーハウスの中から現れた邪妖精イヴィルズ達が弓を構え矢を放つ。

 動くのを待っていたと言わんばかりの一斉射撃は、しかし魔操騎士ゴーレムナイトの表面で全て弾かれる。

 当然だ。中身のない鎧相手では、たとえ関節の隙間を撃ち抜いたところで動きすら止められるはずがない。

 そして。カナメもまた、動くのを待っていた。


「……見たぞ」


 矢筒の中から、カナメは濃い茶色の矢を掴み取る。

 反撃されまいとツリーハウスの中に引っ込む邪妖精イヴィルズ達の戦術は、確かに通常であれば高い効果を誇っただろう。

 破壊できぬ「ダンジョンの一部」であるツリーハウスは、それ自体が強固な要塞だ。

 見えていれば必中のカナメの逃れ得ぬ風の矢ハルティールアローも、隠れられてしまっては届かない。

 だが、この矢は違う。放たれると同時に無数の矢に分裂した、追い縋る猟犬達の矢ウル・ディエロスアローは。


「ギイ!?」

「ギャガッ!?」


 分裂した無数の矢はツリーハウスの中に逃げ込んだ邪妖精イヴィルズ達を追いかけ貫き、悲鳴を響かせていく。

 そして、その響く悲鳴の中をオウカの魔操騎士ゴーレムナイトは走る。


「ガアアアアアアアアアアア!!」

 

 手下を殺された怒りからか、下級緑色巨人デルム・グリーンゼルトは叫びながら魔操騎士ゴーレムナイトに剣を振り下ろす。

 当たれば簡単に叩き潰されそうなそれはしかし速いわけではなく、ただ強いだけ。

 ならば離れた場所から見ているオウカにしてみれば回避させるのは難しくない。

 だから……剣と共に降り降ろされた腕は、絶好のチャンス。


「いけ……っ!」


 登る。魔操騎士ゴーレムナイトが、下級緑色巨人デルム・グリーンゼルトの腕を駆け登る。

 

「ガアッ!?」


 慌てたように大きく振られる下級緑色巨人デルム・グリーンゼルトの腕から、魔操騎士ゴーレムナイトは跳ぶ。

 目指すは、その眼前。腕の振りの勢いすら利用して、魔操騎士ゴーレムナイトは跳んで。


術式解放オーダー!」


 叫ぶと同時に、オウカの身体からごっそりと魔力が抜き取られる。

 それは魔操騎士ゴーレムナイトに流れ、その全身を強く輝かせる。

 眩いその輝きは、下級緑色巨人デルム・グリーンゼルトの目をも眩ませて。

 やがて右腕に集まっていく魔力の輝きは、周囲の景色をも僅かに歪ませる。


「ガアアアアアアアアアア!!」

巨神のゼノン……一撃ッッインパクト!!」


 魔操騎士ゴーレムナイトを叩き落そうと振るう腕が到達するよりも早く、輝く魔操騎士ゴーレムナイトの腕が下級緑色巨人デルム・グリーンゼルトの顔面へと叩き込まれる。

 ……そして、周囲の空気を震わせる轟音が響いた。

 バケツのような下級緑色巨人デルム・グリーンゼルトの兜は叩き砕かれ、頭部を失った下級緑色巨人デルム・グリーンゼルトの身体が地響きと共に倒れる。

 その前に魔操騎士ゴーレムナイトが重たげな音を立てて着地する頃には、もう動く敵はこの場には残っていない。


「……ふう」

「おつかれさま」


 そう言って労うカナメに、オウカは満面の笑顔で振り向く。


「どう!? ちょっとは見直したかしら!?」

「ああ、凄かった」

「でしょ!? 魔操騎士ゴーレムナイト自体の術式と連動出来てないから操作が死ぬほど面倒なんだけど、それだけの威力はあるし……しかもコレでも一番簡単な術式なのよ! これを巨人サイズで運用するなんてどれ、だけの……」


 そこまで言いかけて、オウカは興奮していた自分に気付き軽く咳払いする。


「……どれだけの魔力が必要なんだって話よね。たぶん何かの秘密があるんだと思うけど」

「あ、続けるんだ」

「何よ、文句あるの!?」

「ないよ」

「……ならいいわ」


 そう言って黙り込んでしまったオウカに、カナメは何かフォローしようと思った事を口に出す。


「あー、でも。その話から察するにオウカは幾つかの術式、とかいうのを見つけたんだろ? 凄いじゃないか」

「……見つけたのは術式じゃないわ」

「え? でも」


 そう、オウカが……ジキナイト王国が見つけたのは、術式などではない。

 

「私の国が見つけたのは、魔操巨人エグゾードの手よ。鋳潰して魔動人形ゴーレムに偽装したのが、私の魔操騎士ゴーレムナイト。他には大剣もあったんだけど……それはドサクサで盗まれちゃったわ」

「え、鋳潰した、って……」

「貴方、聖国から来たんでしょ? なら知るはずないわよね。連合ってのはそういう場所なの。魔操巨人エグゾードの手なんかそのまま置いといたら、他国に盗まれるか外交圧力で奪われるかのどっちかよ」


 だから、鋳潰した。刻まれた術式を全て「奪われない形」で記録し、秘密裏のうちに加工した。


「……でも、やっぱり駄目ね。秘密は漏れるものだし、人は裏切るもの。魔操巨人エグゾードの秘密を求めて、私の国は内部工作を仕掛けられ潰された。だから私は、意地でもコレを完成させるの。それが、皆の最後の望みだったから」

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