呪いの逆槍5

「え……今、聖鎧兵って」


 それには、カナメも聞き覚えがある。

 あの聖都の騒動でタカロが使っていた魔動人形ゴーレムがそういう名前であったらしいことは聞いている。

 遥か昔の魔人が作ったものであるらしいが……タカロがどうやってそれを復活させたのかは今でも不明のままだ。


「……神話の時代に魔人が作ったと言われる魔動人形ゴーレムよ。用途としては神々の為の警備兵であったとも言われているけど……今となっては、僅かな伝承や書物に話が残っている程度ね」

「へ、へえ……」


 まさか聖都を巡る内乱でそんなものが使われていたなどとは言えない。

 なのでカナメとしてはそう言って流すしかないのだが、オウカはそんなカナメをじっと見つめてくる。


「でもあれは伝承にある「黄金の鎧」っていうよりは黄色っぽいし、あんな竜鱗鎧みたいな鎧だとも書いてないし。何より翼が生えて飛ぶなんて話もないわ。ていうか、それ以前に矢を撃ったらあんなのが出てくるなんて聞いた事もないわ」

「ん、まあ……」

「まさか、貴方の矢筒に入ってる矢……統一感が無いと思ってたけど、それ全部今みたいな魔法の品なの……?」

「全部ってわけじゃないかな……」


 近寄ってくるオウカからカナメは離れるが、オウカは更に距離を詰めてくる。


「大体落ち着いて考えてみれば、貴方戦闘の時に魔法で矢作ってたわよね!?」

「え、今更そこ!?」

「だって余裕なかったんだもの! 男怖いんだもん!」

「怖いって態度じゃないんじゃないか!?」


 カナメのツッコミにオウカはハッとしたように距離をとるが、それでもカナメから視線を外さない。


「そうよ。最初に気付くべきだったのはそこよ。貴方の魔法は、何かおかしいわ……」

「あー……まあ、どうにもそうらしいけど。でもまあ、そういうものだと納得して貰えないかな」

「いいわ」


 アッサリ同意したオウカにカナメが目を丸くして驚くと、オウカはふうと息を吐く。


「ていうかゴメン。混乱してたわ。そういう場合じゃない事くらい分かるもの。でも後で説明してよね」

「あー……まあ、機会があれば?」


 玉虫色の答えを返すカナメをオウカは睨むが、カナメはサッと目を逸らす。


「で、合流だったわよね。そこの鎧の人が先頭ってことでいいのよね」

「いえ、私は今回は出来るだけ手出しを控えるように言われています」

「ちょっと、そういう場合じゃ……」

「待った。何か聞こえる」


 あくまで距離をとりながらフェドリスに抗議するオウカに、カナメがそう言って静かにするように促す。

 シン、とした空間に響くのは……何かの音。

 ヴーン、ヴーン……という、羽音。

 無数の羽音が重なり合って、ギチギチと何かを嚙み合わせる音を合わせた不快な合奏。


「ヴーン……? でも、この音って」

「……お出ましみたいだ」


 耳を澄ますオウカを庇うように、カナメは一歩前に出る。

 森の中の通路にも似たその道の先から現れたのは、オウカの予想通りヴーン。

 ただし、その数は通路を埋め尽くすほどの無数。

 たった五体でも場合によっては同じ数の冒険者達をも食い殺すヴーンの大群は、味方に魔法士が居なければ絶望……そんな相手だ。

 そういうものが出ると知っているからこそ、この階層の情報が集まるまで……あるいは確実に攻略できると思えるまで手出しを控えようという連中が多いのだ。

 だが、カナメは恐れない。「自分の為」では中々その気にならないカナメは、「仲間の為」であるならその集中力を一気に最高域まで高める。

 自分ならこの場を突破できる。それを分かっているからこそ一瞬の迷いもなく矢筒から一本の矢を抜き取ると、弓に番える。

 爆炎の矢ボルカノンアローと呼ばれるその矢は正面のヴーンに刺さると同時に、周囲のヴーンを巻き込み大爆発を起こす。

 それは狭い通路に集まっていたヴーンには効果絶大であり……爆発の消えた後にはもう、ヴーンの姿は残っていない。


「……冷静に見るととんでもない矢よね。いや、察するに魔法か。貴方、まさか最近噂に聞くレクスオールとかじゃないわよね?」

「一応、最近はカナメ・ヴィルレクスって名乗ってる。それ以外の何者でもないよ」


 ヴーンの残りが居ないか警戒しながら歩き出すカナメの背中を見ながら、オウカは小さく溜息をつく。


「……答えを言ってるようなものじゃない」


 聖国に流星の如く誕生した「クラン」の創始者、カナメ・ヴィルレクス。

 ちょっと情報屋に足を運べば、こんな辺境でもその名前を正確に知ることが出来るだろう。

 そしてオウカは、その名前を知っている一人であった。


「とすると、あの子は本物の「レヴェル」ってわけね」

「……ん、まあ」


 本人にそれを言うと「本物とはちょっと違う」と言うのだろうが、わざわざカナメが否定するようなことではない。


「なら、全部終わった後でお願いがあるの。聞いてくれる?」

「あー、聞くだけなら」

「別に復讐を手伝えなんて言わないわよ。私はただ、完成させたいだけ」


 角から現れた邪妖精イヴィルズに向けて弓を構えるカナメの隣に立つと、オウカはその荷物袋を自分の前にドンッと大きな音を立てて置く。


「その為なら、貴方にこれを晒す事も厭わない」


 オウカはそう言うと、荷物袋の口を縛っていた紐を解き中身を地面にぶちまける。

 そうして晒されたのは……パーツごとにバラバラの鎧。

 全部合わせれば丁度1つの全身鎧になるようなソレに邪妖精イヴィルズ達も意表を突かれたのか、突撃しようとしていた足を止めて。


「起きなさい。私の魔操騎士ゴーレムナイト


 その言葉と同時に、転がっていたバラバラの鎧は……カナメ達の目の前で、高速で組みあがった。

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