ダンジョンへ出発3

 呪いの逆槍の入口へと辿り着く為には、設置された階段を上る必要がある。

 それは元々あったものではなく、国が設置したものだ。

 それは折角の鉱山であり観光資源でもあるダンジョンへ勝手に登ったり落下したりする連中が出るのを防ぐというのが一つ目の理由として存在する。

 ダンジョンで稼ごうとしているのに、そのダンジョンから落下する馬鹿が続出しては観光資源になりはしない。

 ひょっとしたらそういうのを好む悪趣味な者もいるかもしれないが、そんな連中を集める気もない。

 あくまで真っ当にダンジョンを管理する為には、そういう最低限の用意……「安全にダンジョンの中へと送り出してやる」配慮は必須なのだ。

 そして、二つ目の理由は……まあ、金だ。


「八人か。ならば銀貨二枚と銅貨四十枚だな」


 一人につき銅貨三十枚の入場料を義務付ける事で階段を管理し、ついでにそこから儲けも出すことで経済的にも潤う。

 一人あたりは大したことのない額でも、塵も積もれば山になるのだ。

 勿論近くには国の用意した魔法の品や魔法装具マギノギアの買い取り窓口も設置されているが、この国で売るよりは他の大きめの国で売った方が……と考える者も多いだろう。

 今のところ窓口の職員は暇そうだが、それを横目で見ながらカナメは財布を取り出す。


「結構するなあ……いや、観光地扱いと思えば普通なのかな……?」


 言いながらカナメが財布から銀貨と銅貨を出して設置された盆に置くと、それを自警団の男が確かめその近くの壺に入れる。

じゃらり、と響く音と壺から見える輝きからすると、かなり盛況であるのは間違いなさそうだ。


「うむ、確かに。しかし……」

「え?」


 カナメ達をジロジロと見る自警団員の視線にカナメは、女性陣を守るように自警団員の正面に立ち困ったように微笑む。


「あー……何か問題ありましたか?」

「ああ、いや。そこまで男女比の凄いパーティもまた珍しいからな」


 カナメ、アリサ、エリーゼ、イリス、ルウネ、レヴェル……そしてフェドリスとオウカ。

 なるほど、男が二人に女が六人。

 もはやハーレムパーティと呼ばれてもカナメには否定のしようもない。


「とりあえず問題ない。階段は気をつけて上るようにな」

「はい、ありがとうございます」


 しかし、まあ……確かに。

 先程の騒動のせいもあるだろうが、カナメ達を見る視線はかなり多い。

 それに加え女性陣が美女や美少女揃いというのも無関係ではないだろう。

 やっぱりエルにもついてきて貰うべきだっただろうか……などとカナメは考えながら、階段に足をかける。


「あ、オウカは大丈夫? さっき見た限りだとその荷物、重そうだったけど」

「う……だ、大丈夫」

「もしダメそうなら持つけど」

「それはダメ!」


 叫んだ後、オウカはハッとしたように目を逸らす。


「ご、ごめんね。親切で言ってくれてるのは分かってるの。でもこれはダメ」

「……そっか」

「私が後ろから押すから大丈夫ですよ、カナメさん」


 そう言って笑うイリスに、カナメは「分かりました」と返す。

 たぶん見た感じでは結構な重量の荷物のはずだが、イリスが見てくれているなら大丈夫ではある。


「えっと、フェドリスさんは」

「問題ありません。後が詰まりますので、早く上りましょう」


 オウカを除く全員分の荷物を背負ったフェドリスにそう促され、カナメは階段を上る。

 それなりの長さの階段を幾つか組み合わせることで重戦士のような連中が疲れて落下することを防止した構造の階段は、もはやそれ自体が立派な建築物であり……カナメ達は、それをゆっくりと上っていく。

 本当なら一気に上ってしまいたいところだが、カナメ達の前にも人は居るのでそうはいかない。


「中も混雑してそうね」

「だな。これだけ盛況なら決壊なんて絶対にしないだろうなあ」

「この盛況が続くのなら、という前提はあるわね」


 カナメとレヴェルがそんな会話をするほどには流れはゆったりであり、先を争って上るような生き急いだ連中もいない。

 何度かカナメの横をダンジョン帰りの冒険者達が疲れた表情で降りていくが、その動きも非常にゆっくりとしたものだ。

 そんなゆったりとした雰囲気の中で階段を上り切れば、そこには広く丸い広場のようなものが広がっている。

 円錐を逆にしたかのような場所の真上。

 その真ん中には突き出すような縦長の入口が存在していて、周囲には荷物の最終確認をする冒険者の姿もチラホラとある。

 カナメがそこで伸びや屈伸をしている間にも、全員がそこに集合する。

 しかしそうなると、やはり目立つのだろう。その場にいた冒険者達の視線がカナメ達に集中する。


「……すげえな、あれ」

「何処の坊ちゃんだよ……」


 突き刺さる視線は、カナメを侮り妬むものが多数。

 じっくりと観察するようなものが少数。

 何とも居づらいが、悪い事をしているわけでもなければ彼等の想像するように金の力で女の子を侍らせているわけでもない。

 故に理不尽だが……まあ、こればかりは仕方が無い。


「よし、じゃあ行こう。先頭は……とりあえずアリサは問題ないよな?」

「オッケ、私がやるよ。あとはルウネも前ね。最後尾はイリスとレヴェルで。あとは全員真ん中。異論は?」

「ないです」

「ええ、それでよいかと」

「いいわよ」


 カナメとエリーゼは状況に応じて行動、フェドリスは基本不参加の荷物持ち。

 オウカはカナメとエリーゼの側で自由。

 そんな風にフォーメーションは決まり、カナメ達はダンジョンの中へと足を踏み入れた。

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