オウカの研究

 魔操巨人エグゾード。それは伝説にのみ登場する兵器の名前だ。

 オウカの言うように究極の魔法装具マギノギアであるとも、魔動人形ゴーレムの一つだとも言われている。

 ……また、その両方であるとも。

 その真実は不明だが、分かっているのは……恐ろしく巨大なものであったらしいということ。


魔操巨人エグゾード……ね。また随分と懐かしい名前を聞いたわ」

「知ってるのか?」


 そう聞くカナメに、レヴェルは軽い溜息をつきながら答える。


「当然でしょ。あれは魔人がゼルフェクトに対抗して造ったものだもの。まあ……色んな問題があって、早いうちに生産終了したのだけれど」

「貴女、知ってるの!?」

「ちょっと、懐くんじゃないわよ」


 自分に駆け寄ってこようとしたオウカを、レヴェルは最小限の動きでひらりと回避する。


「その死の神の仮装……そうか、貴女も古代の文明に明るいのね。ねえ、何か知ってるなら」

「知らないし、知ってても教えないわよ。あれは魔人の秘儀の一つよ? 知りたければ魔人に聞きなさい」

「そ、そんなあ!」


 崩れ落ちるオウカに、カナメは恐る恐るといった風に声をかける。


「あのー……一つ聞きたいんだけど」

「……なに?」

「聞く限り、かなりヤバい兵器のような気がするんだけど。それって、必要なものなのかな?」


 今までの話を総合する限り、カナメの頭には巨大ロボットしか思い浮かばない。

 そんなものを復活させたところで、精々ドラゴンと殴り合いをするくらいしかないだろう。

 ダンジョンにも潜れないだろうし、悪用される危険性を考えれば眠らせておいた方がいい気すらする。


魔操巨人エグゾードそのものが必要かと聞かれたら、私は否と答えるわよ」


 だが、オウカはカナメの予想に反してそんな答えを返してくる。


「え?」

「だって、そうでしょ? 魔操巨人エグゾードは確かに究極の魔法装具マギノギアではあるだろうけど、そんな巨人を運用する必要性がないじゃない。ゼルフェクトはもう、倒したのだし」

「まあ……そうだな。でも、それならますます理由が分からないんだけど」


 もし単なる好奇心で魔操巨人エグゾードとかいう兵器を復活させたいというのであれば、それはむしろカナメとしては止めた方がいい部類に入る。

 だが、オウカの答えはそうではない。


「……魔操巨人エグゾードを、人間サイズにする。そう言ったら分かってくれる?」

「人間、サイズ」

「そう。魔操巨人エグゾードは究極の魔法装具マギノギア。それが単なる「でっかい魔動人形ゴーレム」なはずはないわ。ならば、それを人間サイズで再現すれば……それは人類の大きな力になる」

「それは、確かに」

「まあ、そこまでは無理なんだけど」


 そんなオチをつけてくるオウカに、カナメは思わず気が抜けそうになる。

 失望の色が出ていたのだろうか、オウカは慌てたようにバタバタと手を振る。


「だ、だってそうでしょ? 普通の魔法装具マギノギアですら再現が中々できないのよ? 完全な実物とか設計図があるならともかく……」

「まあ、そうだけど」

「それに、望みがないわけじゃないし! その為には」


 少し興奮したように身を乗り出したオウカと、ちょっと引いたカナメの肩を抱くように……アリサが、ポンと二人の肩に手を置く。


「その辺の話は後にしよっか。イリスがそろそろ決着つけろって目で見てるし」

「え」

「あ」


 先程から殺気に近い威圧を撒き散らしっぱなしのイリスがチラチラと視線を向けてきているのに気付き、カナメとオウカは顔を見合わせて。そんなオウカに、アリサはニヤリと笑う。


「……それにどうやら、うちのリーダーが無害だって分かったみたいだし」

「そ、そんなこと!」


 慌てたように離れようとして、しかしオウカはアリサに肩を掴まれ動けない。

 そんなオウカに、アリサは耳元で囁く。


「……まあ、なんとなく男嫌いになる事情は推察できるよ。でも、それをカナメに押し付けてほしくないかな。そのくらいは分かってんでしょ?」

「……でも」

「うん、分かってるならいいよ。割り切れって言ったって無理な話だし。で、カナメはどうする? このめんどくさい子の護衛するの?」


 顔を俯かせたオウカを見ながら、カナメは頬を掻く。

 ラファエラは何処かに行ってしまったし、ここで断って放置するというのも……どうなのか。

 考えた末に、カナメは一つの結論を出す。


「……正直、難しいと思う。俺達はもう、フェドリスさんの依頼を受けてるようなものだろ? なら十五階層に行くのが最優先だ。でも、此処でオウカを見捨てるのが正しいとも思えないんだ。だから……」


 そう言って、カナメはオウカに手を差し出す。


「俺は、君の嫌いな男だけど。それを我慢して十五階層までついてきてくれるなら……その間に、君の目的も果たせるかもしれない、と思う」

「十五、階層。え……本気?」

「ああ。勿論、俺から話を持ち出した以上は君の事も本気で守る。それを信じてくれるなら、ていう条件もつくかな」


 言いながら、カナメは苦笑する。

 結構な無茶を言っていると知っているからだ。

 だが、その程度出来ずして……どうして、世界を守れるのか。


「……」

「ダメ、かな」


 無言でじっと見つめてくるオウカを見つめ返しながら、カナメは手を引っ込めようとして。

 その手に、オウカの指が軽く触れる。


「……本当に、守ってくれるのよね?」

「守られてくれるなら」


 迷いなく答えるカナメに、オウカは小さく頷く。


「……なら。それなら、お願い。私も貴方の事を信じるようにするから。私を、守って」

「全力で頑張るよ」


 そう言って、カナメは笑う。

 たぶんだが、オウカにはまだ話していない何かがある。

 そんな確信を得ながら……それでもカナメは、オウカへと微笑んだ。

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