ダンジョンへ出発

 呪いの逆槍は、深々と突き刺さった槍のような姿であることからそう呼ばれている。

 そんな呪いの逆槍の入口が何処かというと……。


「なんか階段が見えますわ……」

「後付けっぽいですね。たぶん、あの上に入口があるんでしょうね」


 呪いの逆槍の裏……つまり町の入口からは見えない場所に設置された長く高い階段。

 そこをゾロゾロと昇っていく冒険者らしき者達の姿を見るに、その先に呪いの逆槍の入口があるのは間違いない。

 そこを眺めるエリーゼとイリスの横で、カナメはじっと「其処」を見る。

 レヴェル曰くレクスオールの技能らしい「遠視の魔法」は、まるで望遠鏡か何かのようにカナメに遠くを見せてくれる。


「そんなに急ってわけでもないし、途中に休憩場所もあるみたいだけど……全身鎧の人は結構きつそうだな」

「軽量化の魔法かかってないんだろうに、無茶するね」


 カナメとアリサはそんな話をしながらフェドリスへと振り返るが、フェドリスは「問題ありません」と答えてくる。


「私達は、体力に関しては他の種族よりも上ですから」

「……だろうね」


 大きな荷物袋を背負ったフェドリスに、カナメはそう言って乾いた笑いを漏らす。

 全員分の必要物資の入った荷物袋は結構な重さのはずなのだが、フェドリスには一切堪えた様子はない。


「なんかこう、別空間に繋がってる魔法の荷物袋とかあればいいのにな」

「前にもそんな感じの事言ってたよね、カナメ」

「ディオスがそんな感じの研究してたわね、そういえば」

「えっ」


 レヴェルの言葉に全員の視線がレヴェルに注目するが、その視線にレヴェルは肩をすくめる。


「出来ないことはないけど、アイテムとしての範囲に収めると制御が難しいし魔法が暴走した時にシャレにならない被害が出そうだからやめた、とも言ってたわね」

「被害って」

「最低でも付近の空間が広範囲で削られるとか言ってたかしらね」


 それを想像したのかエリーゼがぞっとした顔をするが、レヴェルは気にした様子もない。


「まあ、便利になるっていうのはそれに比例するリスクと引き換えだって話よね」

「そんなイイ話だったかなあ……」


 言いながらも、カナメ達は階段の登り口に向かって進んでいく。

 この辺りは大きな広場になっており、あちこちに武器や防具、効果の程は不明だが薬の類を扱う露店が並んでいる。

 何処の鍛冶師が作った剛剣だのなんだのと呼び込みをする露店の間を抜ければ、その先にはたくさんの冒険者の姿がある。

 何処にこんなに居たのかと言いたくなる数だが……よく見れば、端の方にテントがあるので野宿組もいるのだろう。 

 その誰もが階段に向かっているというわけではなく、荷物をおろして声を張り上げている者もそこかしこにいる。


「俺は西のガルダ王国の「炎剣」バルター! 俺と共に戦ってくれる仲間を探している! 特に魔法士や神官は大歓迎だ!」

「罠士をお探しの奴はいないかー! 魔法罠の解除もある程度なら出来るぞ!」

「こちらは斧士と魔法士、罠士ですー! 重戦士の方、もしくは神官さんいらっしゃいませんかー!」


 聞こえてくる声は、どれも仲間を探すものばかりだ。

 聞いていると神官を探す声が多いようだが……そんなに神官不足なのだろうかとカナメは考えてしまう。


「冒険を生業にする神官、というもの自体がそもそも希少ですからね。魔法の神たるディオスの神官ならば修行の為にダンジョンに潜ることもありますけど」

「へえ……」

「旅をしている神官というのは大体が見聞の旅か、赴任先に行く最中か……あとは、なんらかの修行中ですね。たまに任地を持たない放浪神官もいますけど、本当に稀です」

「なら、俺は幸運ですね」


 カナメがそう言って笑うと、イリスも「そうですね」と笑って返す。

 幸運どころか、超武闘派のレクスオール神殿の神官騎士にして神官長を連れているカナメは豪運にも程があるのだが……まあ、それはさておき。


「あ、でも俺達って罠士がいないんじゃ」

「私がある程度出来るよ」


 カナメの疑問にアリサはそう答え、腰の袋から細い金属棒のぶら下がった輪を出してみせる。


「鍵開け道具ですか……罠士の心得があるんですね」

「本職にゃ及ばないけどね。一応冒険士名乗ってるから」


 笑うアリサにイリスもなるほど、と頷く。

「あらゆる全てを一人で賄える」冒険士はそれこそ名乗る者は多いが本物が少ない事でも有名だ。

 確かに多才なアリサであれば名乗っても当然であろうとイリスは納得してしまう。


「じゃあ、ああやって叫ばなくていいわけだ」

「あはは。でもアレもそのうち、看板持つようになるよ。叫ぶの疲れるし」


 なるほど、確かにずっと叫んでいるのも疲れるだろう。

 よく見てみれば「魔法士募集!」などと書かれた看板を持った者達もいるのが見える。


「でもさ。エルみたいに一人っていう人も少なそうなのに……足りないものなんだな」

「足りなくなる事もあるしね。潜ってみて「これが必要だ」って気付くこともある。ま、色々だよ」


 つまり、怪我人や死者のことだが……これもまた、冒険者にとっては避けられない事でもある。

 

「……あら? あそこに居られるのってラファエラさんではありませんの?」

「え?」


 そんなエリーゼの言葉に、カナメ達が振り向くと……そこには、巨大な荷物袋を背負った少女にしがみ付かれているラファエラの姿があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る