金の粉雪亭2

 戦闘が終わると、それを察したのかルウネが扉を開けて中へと入ってくる。

 倒れている男のうち、拘束されていなかった一人を手慣れた動きで縛り上げるが……男はぐう、と呻き声をあげるだけで抵抗すら出来ない。

 それが終わると、ルウネは三人の男に目隠しをして「この者達、脅迫及び暴行犯」と書かれた紙を貼って外へと運び出す。

 そうしたゴミの片付けの如きテキパキとした作業が終わると、ルウネは「おつかれさまでした」と言ってカナメに一礼する。


「あー……いや。ルウネもご苦労様」

「たいしたことは、してないです」


 そんな事を話している間に、ラファエラやアリサ達も扉から中に入ってくる。

 特にラファエラは満足だとでも言いたげな笑顔で、入ってくるなりカナメへと早足で近づいてくる。


「やあやあ、おつかれさま。中々スマートだったじゃないか」

「スマートだったかは……どうかな。もっと良い方法もあった気もする」


 カナメのやった事を結果から言えば、説得を失敗した挙句に実力行使をしたに過ぎない。

 そう考えると、もっと良い方法があったのでは……と考えてしまうのも仕方のない事だ。

 だが、ラファエラを押しのけてやってきたアリサが、ポンとカナメの肩を叩く。


「そんなことはないよ。あれ以上なら、それこそ問答無用で叩き出すしかないかな。勿論、そこの店主のおじさんに交渉した上で、だけどね」


 そう、たとえばアリサならば店主に「お困りだね。こいつら叩き出してあげようか?」などと交渉するだろう。

 カナメのように暴れている本人に声をかけるよりも話し合いになる確率は高いし、そちらの方が「この状況をどうにかしたい」と考えている為、交渉は大抵の場合速やかに済む。

 そうなれば、あとは叩き出すだけで済むので簡単な話だ。

 

 ……だがまあ、カナメのやり方も間違いではない。あくまで暴力に頼らず、まずは諫めた上で相手が先に手を出してきた。

 これは後々自警団が何かを言ってきたときにも通用する立派な理由であり、店主が余程のクズでなければ援護射撃も期待できるやり方だ。

 勿論、何もかもを問答無用で実力行使というのは一番ダメなやり方だ。それが通用するのは冒険者ギルドの中や法の守りのない「外」の話であるからだ。

 そういう意味ではカナメのやり方は「比較的スマート」に分類されるし、カナメらしいやり方であったとも言えるだろう。

 むしろ穏便であった分、店主からのイメージも上かもしれない。

 実際冒険者とは「ならず者一歩手前」の先程の連中みたいな者が多い為、それと明らかに違うカナメを見る店主の目はどことなく好意的だ。


「まあ、ともかく助かったよ。私が表立って解決すると、色々と面倒なんでね」

「それって、魔人絡みの……」

「そういうこと。まあ、その辺りは後で話すとして……ちょっと待っててくれるかな」


 そう言うと、ラファエラはカウンターへと歩いていき肘をトンと乗せる。


「ただいま。なんか絡まれてたみたいだけど、とりあえず解決策を持ってきたよ」

「はあ。それはつまり、そこの方々を……」

「そういうこと。他の部屋に泊めてあげてくれるかな。追加料金は必要かい?」


 言いながらラファエラがジャラリと音のする革袋を取り出すと、店主は慌てたように首を横に振る。


「い、いえいえ! もう充分すぎる程に料金を頂いております。あの程度の人数様追加でしたら、まだまだ大丈夫でございます!」

「そうかい? でもまあ、今回は貴方も大変だったろう。迷惑料ってわけでもないけど、追加で少し払っておくよ。もし過分だと思うなら、何かサービスしてくれればいいさ」


 言いながら金貨を五枚ほど置くラファエラに、店主は相好を崩しながら「こ、これはそんな。いえへへへ」と金貨を素早い動きで回収し鍵を三つ取り出す。


「では、残りの部屋のカギでございます。どうぞごゆっくり」


 揉み手などをする店主にラファエラはひらひらと手を振り、鍵を受け取ってカナメ達の下へと戻ってくる。


「というわけで、適当に部屋割りしてくれるかな。そっちの鎧の彼に一部屋で、残りは適当でいいだろ?」

「え? いや、残りって」

「君達に関しては気も知れた仲間だろうに。散々一緒に野営しといて、今更なんだってんだ?」


 それは確かにそうなのだが、だからといって男女で同じ部屋というのもどうなのか。

 それならカナメとフェドリスが同じ部屋の方が。

 そうカナメが口にする前に、アリサが鍵を受け取り一本をフェドリスに投げる。


「それもそうだね。一部屋の人数は?」

「基本は二人。寝具を運び込んで三人かな」

「なら決まりだ。カナメとルウネ、レヴェルで一部屋。私とイリス、エリーゼで同じ部屋ね」

「え!?」


 カナメの意志を完全無視で部屋割りが決まってしまったが、どうやらイリスもエリーゼも異存はないようだ。

 まあ、それも当然。ルウネがカナメのメイドナイトである以上、なんだかんだとカナメの部屋に出入りするのは間違いなく……しかも、色んな意味で間違いも起こりにくい。

 レヴェルもルウネと意味は違うが、カナメの側を長時間離れるとは考えにくい。

 そういう意味では、この部屋割りが一番妥当なのだ。

 それが分かっているからこそ、カナメも反論しにくい。

 迂闊に反論してイリスやアリサ達と同じ部屋になってしまっても、色々と困るのだ。


「じゃあ一旦部屋に荷物置いて、あとはカナメの部屋で作戦会議ね。はい、パッと動く!」


 アリサがパン、と手を叩いて。

 それを合図に、カナメ達も動き出すのだった。

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