手紙
ルシュヴァルト聖国……すなわち聖国は、その宗教的地位から全ての国に影響力を持っている。
しかし、聖国も「調停者」としての役割故に他の国を完全に無視できるわけではない。
理不尽な要求は断固として跳ね除けるが、そうでないものは断りにくいということだが……つまり、今回の場合はクラン関連である。
基本的な内容はどれも同じで「聖国における新たな組織、クランの誕生を祝福する」とまあ……こういう内容だ。
問題は、そこから先で……たとえば帝国からは要約すると「冒険者ギルドがウザいし丁度いいから帝国も金出すよ。共同で運営しない?」という内容がきている。
これはすでに聖国内で検討の上で「まだ始まったばかりの組織故に、そういう事を検討する段階ではない」という内容の手紙をカナメの名前で出している。
王国からは「リーダーのヴィルレクス殿は独身らしいが、友好の証として姫を娶らないか」という手紙がきている。
これは即座にエリーゼが父親……つまり国王宛に「手出し無用」という内容の手紙を送っているが、どうなるかは不明だ。
というか、それ関連でここ数日ハインツが色々とやっているらしいが……。
連合の各国からは千差万別だが……一番多いのは「いつ支部をうちに出すのか」という手紙だ。
これも「その段階ではない」という手紙を送っているが、また似たような内容の要請がくるのは間違いない。
「……つくづく嫌われてるんだなあ、冒険者ギルド」
「最初は高潔だったですが、段々と搾取目的の組織になった……らしい、です」
「ああ、そういうものなのかもなあ」
民間の営利組織の宿命のようなものかもしれないが、カナメのクランとていつか腐敗しないとは限らない。
そうならないように、可能な限りの策を施すつもりではあるが……まあ、今はまだそういうことを考えるには早すぎるだろう。
ともかく、クランが始動してから今日で6日目。
ようやく聖都の冒険者に浸透してきたようではあるが、まだまだ来る冒険者の数は少ない。
「依頼の集まり具合の方はどうだっけ?」
「大きな増減はないそう、です。基本は薬草集めに猛獣退治、ダンジョンでのアイテムや素材探索依頼、です」
「そっか」
それは元々聖国内で常時存在していた依頼だ。
聖国内は国土をぐるっと囲む壁のせいで盗賊は入れず、しっかりと管理されたダンジョンが聖都にあるおかげで、ダンジョン産の品を求める依頼も多い。
当然、
「やっぱり、すぐに何か新しい動きがあるわけはないか……」
「そうでもない、ですよ?」
「え?」
今来ている依頼は聖国の各神殿から集められたものばかりだが、それだけでも分かる事がある。
「
「あー……やっぱりそういうのって他の国なんだ」
「です」
今新しく来ている
「いつもの事ではあるですけど、たぶん連合内部で内戦か戦争か……その辺りの可能性があるです」
「戦争……」
「勿論、起こらない可能性もあるです。どの道、「本当の目的」には関係なさそうです」
「……そうだな」
クランの真の目的は、ゼルフェクトの復活阻止。その影響で起こる異変の解決。
人間同士での戦争は、その範疇ではない。
聖国が仲裁に入る可能性はあるが……クランがどうにかすることではないのだ。
「で、その連合関連で……ちょっと気になる手紙もさっき届いたです」
「え?」
差し出された手紙を受け取り、カナメは封蝋を確認する。
まるで甲虫の角が交差したかのように見える、そんな紋様。
連合内の何処かの国か、あるいは貴族か。とにかく封蝋を使うような身分の誰かからの手紙ということだ。
「一応聞くけど、これって誰からの……」
「戦人の村から、です」
「ええっ!?」
「戦人って聞こえたわよ!」
戦人、という単語が出るなりレヴェルがドアを開けて入ってくるが、カナメは気にせず「そうだな」と返す。
「私にも見せなさい。まさか、また一緒に戦いたいという手紙なのかしら」
興奮した様子でカナメの隣に座るレヴェルにルウネが微妙な顔をするが、レヴェルは気にした様子もなく「早く開けなさい」とカナメの腕を叩く。
「あー、ちょっと待って。えーと……?」
「……なにこれ」
レクスオールの力を持つと伝えられる方に、お願いしたい事がございます。
この手紙を持つ者の話を、どうかお聞きください。
そんな内容が書かれた手紙を見て、カナメとレヴェルは顔を見合わせる。
「えーと……待った。これって俺宛でいいと思うんだけど……この手紙を持つ者、って」
「戦人の村から来たっていう人です。応接室に通してるですよ」
「すぐ行きましょう」
カナメの腕を引っ張って立ち上がろうとするレヴェルに、カナメは「だからちょっと待った!」と慌てて制止する。
「確かクラン設立からまだ6日目のはずだけど……え? 俺が「そう」だって、そんな村長レベルで広まってるの?」
国の関係者ならともかく、その末端の村々に「クランのリーダーはレクスオールの弓を持つ男である」と広まるにも、手紙を持ってくるにも早すぎる。
「会えば分かるですよ」
「そうね。行きましょう」
「ま、まあ。そうだけどさ……」
そのままレヴェルに引っ張られるようにして、カナメは応接室へと向かっていく。
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