三度目のダンジョン挑戦4

 人海戦術。

 つまり、聖騎士団で一階層から二階層までを隅から隅まで探索し魔力体ゴーストがいれば、これを排除する。

 万が一原因と思わしきものが見つかれば、可能ならばこれを排除。不可能であれば撤退。

 そして、その間にカナメ達は三階層へ移動。軽く探索し、異常がなさそうであれば原因は三階層より上と判断し二階層へと戻る。

 ……とまあ、こういう単純な話である。

 カナメ達にも聖騎士団作成の地図が提供されたわけだが……長年のダンジョン管理に使われてきた地図は細かく、詳しく。

 一階も二階も聖騎士が駆け回っている為、モンスターは出る側から殲滅されていく。

 結果として、時間がとられることもなく……カナメ達は、三階層へと続く階段へと辿り着いてしまっていた。


「それではカナメ様、レヴェル様。こちらが三階層へと続く階段になります」

「ありがとうございます」

「私達はこの近辺の探索に戻りますので、お気をつけて」


 そう言って階段から離れていく聖騎士達を見送りながら、カナメはふうと溜息をつく。


「……なんだろう。戦ってもいないのに、めっちゃ疲れた」

「ハハッ、でも効率重視の連中はこんなもんらしいぜ。チマチマ探索せずに地図屋で地図買って、最短距離で突っ切るわけだ」

「そっか。でもなんだろう。ここに来るまで……魔力体ゴーストなんて一体も居なかったよな?」

「ん? まあな。見えないから居ないとも限らねえけど」


 カナメの疑問にエルはそう答え……しかし、それにカナメは更なる疑問符を浮かべる。


「え? 不可視ってことか?」

「違えよ。魔力体ゴーストはすぐにその辺のものにとりつくからな。邪妖精イヴィルズが乗っ取られててもおかしくねーだろ」


 そう、魔力体ゴーストとは文字通り魔力の塊であり決まった身体を持たないモンスターだ。

 その性質故に色々なものにとりつき、骨人形スケルトンなどになることもある。

 ダンジョンに潜る冒険者もその対象になることもあり、しかし弱い魔力体ゴースト程度であれば魔力を削られるだけでとりつかれることはない……ともされている。


「え、どういう理屈なんだ?」

「一般的には魔力抵抗だとされていますわ。魂と絡める学者もいますけど……要は、体を動かす力の一つである魔力の少ない者程、そこに入り込まれて乗っ取られやすいということですわね」

「分かるような、分からないような……」


 カナメも実感しているが、魔力は身体を動かすもう一つの力だ。

 魔力の補助によって力も増すし、跳躍ジャンプの魔法のような事も出来る。

 走っても疲れないし、体をいつも正常な状態に保つ効果もある……らしい。

 つまりそれは、何者かにその部分を乗っ取られれば身体をある程度強制的に動かされてしまうということでもある。

 魔力抵抗のない骨などは、そういう意味で実に乗っ取りやすいのだろうとエリーゼは説明してくれる。


「普通の人間でも、魔力体ゴーストの数が多ければ危険ですわね。まあ、カナメ様を乗っ取ろうとしても無理でしょうけど……」

「どうでもいいけど、そろそろ行かないかい?」

「そうね。ここでウダウダと魔力体ゴーストの話なんかしていても仕方ないわよ」


 ラファエラにレヴェルも同意し、話の腰を折られたエリーゼはムッとした顔をするが……すぐに「それもそうですわね」と頷く。


「うし、じゃあ行くか。一応俺が先行するけど、構わねえか?」

「別にどうでもいいわよ」

「ほいほいっと」


 本当にどうでも良さそうなレヴェルに言われ、ランタンの火を灯したエルを先頭にカナメ達は螺旋状になっている階段を降りていく。

 降りていくと共に暗くなっていく中で、エルの持っているランタンが煌々と輝く。

 この中でランタンを持っているのはエルだけであり、照明はそれ頼りだが……階段の途中でエルは振り返り、肩をすくめる。


「しかしまあ、まさか一人もランタン持ってねえとは思わなかったぜ」

「うぐっ」


 このあたり、カナメはアリサ頼りの……エリーゼはハインツ頼りの弊害である。

 武器や水などについてはカナメも完璧なのだが、どうにもランタンの方に意識がいかない。

 カナメが持っている荷物もランタンはなく、野営の時に使う事も少なかったのだ。


「ま、いいけどよ。それより……着くぜ」


 階段を降りきった先にあるのは、暗い石畳のような通路と……レンガの壁。


「え……?」

「噂にゃ聞いてたけど、すっげえよなあ」


 そう、そこにあったのは街中のような光景。

 レンガの壁の家と、石畳の通路。

 家には窓があり、入口があり。

 しかし、窓にも入口にも何も嵌ってはいない。

 屋根はなく、壁は天井にそのまま届いてしまっている。


魔力体ゴーストの街、ということなのかしら……?」

「さてね。ゼルフェクトにそんな洒落っ気があるとも思えないけども」

「ベルちゃ……あー、レヴェル様はどう思う?」

「本によれば、ダンジョンはゼルフェクトの見る夢……という説があるらしいけど」

 

 多少遠慮がちに呼んだエルに、レヴェルはつまらなそうに周囲を見回す。


「これがゼルフェクトの夢だっていうなら……思いっきり悪夢にしてやりたいとは思うわね」

「あー、とりあえず探索しよう。何かあるかも分からないし」


 悪夢にしてやりたい、という辺りで思い切り楽しそうな顔をするレヴェルにドン引きする仲間達……いや、ラファエラは楽しそうな顔をして笑っていたが……ともかく、仲間達にカナメは声をかけて。

 こうして、第三階層の探索は始まった。

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