三度目のダンジョン挑戦3
聖騎士に連れられてカナメ達が辿り着いたのは、ダンジョンの入口周辺を囲むように作られている建物であった。
ダンジョンの入り口付近はごった返していても、その反対側にあたる建物の裏口にはほとんど人がいない。
それはダンジョンに繋がる大通りから外れているというのもあるのだろうが、近くにめぼしい店の類が何もないからというのも大きそうだった。
「ここは我々聖騎士団の第二分隊……いわゆるダンジョン分隊の詰所です。カナメ様の事は通達を通してですが伺っております。どうぞ中へ……分隊長がお待ちです」
聖騎士がドアを叩き「ギエン、戻りました! カナメ様とその仲間の方々を連れてまいりました!」と告げると、設置されていた覗き窓が開き聖騎士の顔を確認するような視線が向けられる。
「よし、入れ」
そんな言葉と共に扉が内側へと開いていき……ギエンと名乗った聖騎士は「どうぞ」とカナメ達を促す。
「あ、えーと……それじゃ、失礼します」
なんとなく頭を下げ部屋の中に入ると、中に居た騎士達の視線が一気にカナメへと向く。
「うお……っ!?」
どうやら建物の中は細かい仕切りではなく広い広間のような造りになっているらしく、役割的にも出動前の待合所のようなものなのだろうか、脱いだ兜や籠手が机の上に置いてあるのが見える。
奥の扉は閉まっているので分からないが、その先には何か別の役割があるのだろう。
とにかく数人の聖騎士達の視線に晒されながら、カナメは一体何の用なのかと考える。
助力を願うというからには「噂の男を見てみたい」というような理由でもないだろう。
一応相手が話し始めるのを待つのが礼儀ではあるだろうが、無言の空間というのも耐えがたい。
「で、何の用なの?」
「あ、ちょ、ベル……!」
しかし、そんな空気に誰よりも我慢ができなかったらしいレヴェルが苛立った様子で口を開く。
レヴェルにとってみれば普人の事情なんか知った事ではないのだろうが……彼等の視線が後ろにいるラファエラに注がれていたのもまたレヴェルの苛立ちを煽ったのかもしれない。
推定魔人であるラファエラを見世物を見るような目で見られては、心情的にそちら寄りのレヴェルが苛立つのも無理はない。
「……そうだな、本題に入ろう。私はこの第二分隊の隊長、シュベールだ。まずはこちらにご足労いただいたこと、感謝する」
「え、あ、はい。でもまだ話を受けると決まったわけじゃ」
「分かっている。まずは状況を説明させてもらいたい」
そう言うと、シュベールは空いている椅子をカナメ達に勧め……着席を確認すると、静かに口を開く。
「発端は……ここ数日、この聖都に出回り始めた噂だった」
聖騎士がダンジョンで行方不明になっているらしい。本来出ないはずの階層で
放っておいても良いのだが、この手の噂が流れた場合はダンジョンを閉鎖し「調査」をすることが決まっている。
今回もその例にもれず調査を行ったのだが……結果として、とある事実が浮き上がった。
「一階層で、
ダンジョン内で行方不明になった聖騎士は居ない。それは確かだ。
幸いにも一階層から三階層に長居する人間はそう多くないが……一階層でこれであれば、二階層以降にも何かがある可能性もある。
如何にダンジョンを閉鎖したところですでに奥に潜っている冒険者が上の階層に戻れば異常事態に遭遇することになる。
そうなった時に彼等が被害にあわないとも限らず、早急な対処が求められているのだ。
「えーっと……それは……」
「それって、聖騎士団の仕事じゃないのかい?」
「あっ」
言い難い事をスッパリと言ってしまったラファエラに、カナメは今さら止められるはずもなく「うわあ……」と呟いてしまうが、その態度でカナメもそう思っている事はバレバレだし……エルも微妙な顔をしている上にエリーゼとレヴェルは目に見えて不機嫌そうだ。
「彼女の言う通りですわ。それは聖騎士団のするべき仕事であってカナメ様に話してどうという話ではありませんわよ?」
「分かっている。これは聖騎士団の仕事だ。カナメ殿に頼む気はないのだ。ただ……」
そこで言い難そうにシュベールはカナメをちらりと見る。
「……死の神レヴェルが顕現したと聞いた。彼女の助力を請えればと思ったのだ」
言われて、カナメは隣に座っているレヴェルをチラリと見るが……目に見えて嫌そうな顔をしている。
「レヴェルの鎌は触れ得ぬ物に触れ、形無き者を切り裂くと言われている。真実であれば
「えーっと……」
「この程度の些事で神に頼るというのが間違いというのは分かっている。だが、今は聖国にとって大事な時期なのだ。少しでも被害を抑えられる可能性があるのならば……!」
「カナメはどうなの?」
頭を下げるシュベールの言葉を遮り、レヴェルはカナメへと顔を向ける。
「え、俺?」
「この普人共をカナメが助けたいというのであれば、私も手伝ってあげるわ」
「は? いや、その。君達を巻き込むつもりは」
レヴェルの台詞に、シュベールは困惑したような声をあげる。
そう、鎌を持っていない今のレヴェルは彼にとっては単なる小さな少女にしか見えないだろう。
まさかこんなところに、という思い込みもあるだろう。
……だが、そんなシュベールを一瞥してレヴェルは手を前へと突き出す。
「……鎌よ、来なさい」
そう唱えると同時に、黒い輝きが集まりレヴェルの手の中に巨大な鎌が顕現する。
同時に成り行きを見守っていた聖騎士達が軽い悲鳴をあげ後ずさるが……軽く舌打ちしてレヴェルは鎌を机に置く。
「で、どうするの? カナメ」
「……どうせ行くつもりだったしな。皆はいいかな?」
「私はカナメ様についていきますわ!」
「まあ、俺もいいぜ。元々俺が誘った話でもあるしな」
「私も構わないよ。面白そうだ」
全員の……というよりもカナメにしか視線を向けてはいないが、レヴェルが「なら決まりね」と頷く。
「といっても、確かダンジョンで「殲滅」というのは構造上有り得ないのよね? どうするつもりなの」
「あ、ああ……いえ、はい。ですので、今回の原因が見つかるのであればそれを排除して欲しいと……」
「曖昧ね。目星すらつけていないの?」
「は、いえ。こういった事態が発生した場合の理由は幾つかあるのですが……」
「頼りない事この上ないわね。なら私が策を授けてあげるわ」
虫を見る目でシュベールを見ているレヴェルにカナメが「策?」と聞くと、レヴェルは笑顔で振り向く。
「そうよ。こういう時に一番頼りになるのは、いつの時代も同じ。つまり……」
人海戦術よ、と。レヴェルはそう言って笑った。
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