三度目のダンジョン挑戦

 結局、一度解散してから集合という形になったのだが。


「……うーん」


 ダンジョン前に集まったメンバーを見て、エルは何とも言えない顔をする。


「なんですの、何か文句でもありますの?」

「いや、ないない。魔法士のエリーゼちゃんが来てくれたのは助かるさ」


 そう、そこに文句など無い。無い、のだが。

 逆に言うと、カナメが新しく連れてきたのはエリーゼ「だけ」だったのだ。


「なあ、カナメ。アリサちゃんとか……せめてエリーゼちゃんの斜め後ろにいつもいるバトラーナイトとかはどうしたよ。あとルウネちゃんとか」

「いや、それが……ルウネはダルキンさんと今日は修行だとかで、ハインツさんは……エリーゼが丁度大事な用事を頼んでるとかで……」

「アリサちゃんは?」

「発注してた武器の調整があるからパスだってさ」


 聖国に入る前の戦いで手に入れた戦利品を鋳潰して新しい武器を作っているらしいのだが……そのせいで今、間に合わせの武器しかないらしい。

 魔力体ゴースト相手だと魔力を含まない武器では効率が悪いというのもあり、そういう意味でもアリサは相性が悪い。


「レ……ごほん。ベルが居ればどうにかなるでしょ、って言ってたけど」

「私が居なくてもレ……カナメが居ればどうにかなると思うわ」

「なんだよレって。仲良しかお前等」


 変なものを見る目でエルはカナメとレヴェルを見るが、カナメは愛想笑いを返すだけだ。


「しかしまあ、そうなると前衛は俺か。ベルちゃんはどんな感じなんだ? 見た感じだと……えーと……前衛もできる魔法士、とか?」


 イマイチ自信なさそうにエルはそう言うが、まあ仕方のない事だろう。

 エリーゼ並に低い身長に細い体、革鎧一つつけていないドレス姿。

 まあ、ドレスといったところでかかっている魔法によっては金属鎧より硬いものもあるので判断し辛いものはあるのだが……エルが悩んでいるのも、そういう「判断し辛い」という理由からだ。

 武器がないのも、拳士の類と思えばさほど不思議でもない。


「そんなところね。あまり出しゃばるつもりもないから、ソレを思う存分振るえばいいわ」

「ん、おう。分かった。じゃあベルちゃんは、最後尾で警戒お願いできるか?」


 エルの武器は大剣だが、その大きさ故に他の前衛がいる時にはそれなりに連携が必要、なのだが。

 最後尾が襲われないというわけでもない為、エルが前に出るならばレヴェルは自然と最後尾で後衛を守る役割になる。


「構わないわ」

「おう、それじゃ頼む。無茶はしなくていいから、ダメだと思ったら引いてくれ。陣形組み直して俺がフォローに入る」

「そう」


 短い打ち合わせを終え、エルはカナメとエリーゼに向き直る。


「そんなわけで、二人は後衛な。俺はある程度なら耐えるから、出来ればベルちゃんの方を気にしといてくれ」

「ああ」

「ええ、分かりましたわ」


 そんな事を言っても、ベルを名乗っているのは死の神レヴェルだ。

 本人曰く本物とは言い難いらしいし此処に持ってきているわけではないが、カナメの弓同様の神器である鎌を使えるのだ。

 確かにまともに戦った所を見たことはないが……充分に前衛を務められそうなイメージはある。

 ……ちなみに持ってきていない理由だが、レヴェルの姿と大鎌が揃うと「それ」とイメージしてしまう者も多そうという理由からだ。

 そういう意味ではカナメの黄金弓と同じ悩みとも言える。


「それじゃあ、この四人で……」

「おや、エルじゃないか」

「ん?」


 呼ばれたエルは振り返り、そこに居た人物にパッと笑みを浮かべる。


「おー。ラファエラじゃねえか。なんだよ、今日は来てたのか?」

「比較的調子が良くてね。君こそどうしたんだい? ついにお仲間を見つけたってことかな?」

「うーん、ちょっと説明が難しいんだけどよ。今日は臨時のパーティってやつだ」


 和気あいあいとエルと話しているその人物は、カナメと身長は同程度の……たぶん、男のような……ひょっとすると女のような……そんななんとも判断しがたい相手であった。

 銀色の長い髪をポニーテールにした、切れ長の青い目が印象的な彼、あるいは彼女は綺麗な女性と判断するに足るほどの美人で。

 しかし、すらりとした体型は男とも女ともとれる。

 胸元を覆う金属鎧は見たところ男性用に見えるので、男……なのかもしれない。

 腰に下げた細剣は実用に向いているようには見えないが、他に武器を持っているようにも見えない。

 アリサのように腰に短杖を差しているわけでもなく……しかし、そんな事より何よりも。

 気になるのは、その長い耳であった。


「ベル、あれって……」


 カナメの囁きに、レヴェルは答えない。

 エルと話している彼、あるいは彼女をじっと見つめ……一言も発しはしない。


「ベル?」

「……よく分からないわ」

「分からないって」

「たぶん魔人だと思う。あんな特徴を持つのは魔人以外居ないわ。そう思うんだけど……私が私でないせいかしら。確信はない、わね」


 自信なさげに言うレヴェルにカナメもエルがラファエラと言っていた相手を見るが……やはり判断はつかない。

 まさか、あの耳がアクセサリーのつけ耳ということはないだろうが……。


「おう、紹介するぜ。たぶん魔人のラファエラだ」

「はは、よろしく。エルとはこの前一回組んだだけなんだけどね」

「えっと……カナメです。よろしく」

「エリーゼと申しますわ」

「ベルよ」


 カナメ、エリーゼ、ベル……と繰り返しているラファエラに、カナメは率直な疑問をぶつける。


「あの、ラファエラ……さんは、魔人なんですか?」

「そんなのが生きる事に必要かい?」

「え? いえ」

「では、どうでもいいことだ。君の恋人がその二人のうちのどちらなのか、あるいは両方なのかという疑問と同様にね」

「いや、それは結構面白い疑問なんじゃねーのか?」


 即座にエルが混ぜっ返して笑い話になるが、「聞くな」と言われた事だけはカナメは理解する。


「なあ、カナメ。ラファエラも誘っていいか?」

「え? えーと」


 カナメがエリーゼ達に振り返ると、二人からは「任せる」という言葉だけが返ってくる。


「いいんじゃない、かな。ラファエラさんは前衛なんだろ?」

「ラファエラはすげえぜ。結構なんでも出来る。なあ、ラファエラ。どうだ? 三階層に行くんだけどよ」

「ああ、いいとも。君の友人達に、私も興味がある」


 アッサリと承諾したラファエラを加え、五人となったパーティは……しかし、ダンジョン前の人だかりに足を止めることになる。

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