エル勧誘

 朝のダンジョン付近は露店も多く、ダンジョンに潜ろうとする人でごった返す。

 聖都を焼くような大騒ぎがあっても冒険者達には然程関係はなく、むしろ今こそ名を上げる好機と躍起になる者達も大勢いるということだろうか?

 露店商達の店に生活用品がチラホラと見えるのも、そういった復興需要をある程度見越しているのかもしれない。


「盛況ね」

「ああ。こんなに混雑してたらエル探すのは難しいかもなあ……」


 そんな事を話しながら、カナメとレヴェルはダンジョンへ向けて歩いていく。

 流石にダンジョンに潜って探すわけにもいかないが、エルであれば今日も仲間を探しているのではないかという予想もあった。

 といっても、これではそう簡単にはいかないだろうが……。


「あれ? カナメじゃねーか。どした?」


 そんな事をカナメが考えていると、驚くほどアッサリとエルに出会えてしまった。


「あー、えっと。なんか元気そうだな」

「なんだそりゃ。妙なもんでも食ったのかよ」


 カナメ達が大神殿に移動してからエルとはすっかり別行動になっていたが、そんな数日ぶりのエルには変わった様子はない。

 カナメ達が大神殿に移動した後、エルも別の宿に移動していたのだが……それ以来になるだろうか。

 

「ほれ兄ちゃん、パムズだ」

「おう。あ、すまん。ちっと待っててくれ」

 

 屋台の店主から小さなハンバーガーにも似た何かを受け取ったエルは店の前から軽く移動する。

 パムズと呼ばれたそれは、丸くて分厚いパン……というより形状はナン、あるいはパンケーキのようなものに似たものに肉と野菜を挟み込んだものだ。

 ハンバーガーとカナメは初見で思ったが、ケバブのほうがイメージ的には近いのかもしれない。


「そういえば朝食べずに出てきちゃったな……どうする?」

「好きにすればいいんじゃないかしら。私はいらないわ」

「じゃあ俺もいいか」


 そんな事を言い合うカナメとレヴェルを「なんだこいつら」という目で見ながら、エルは手早くパムズを咀嚼し飲み込む。

 

「ごっそさん……っと。で、なんか用か?」

「あ、ああ。なんかごめんな、食事の邪魔して」

「変な事気にすんじゃねーよ。つーか、なんだその子。お前新しい子ナンパしたのか?」

「人聞き悪い事言うなよ……彼女は、えーと……」

「私の事はいいでしょ。本題入りなさいよ」


 レヴェルに不機嫌そうに言われて、カナメは「あー」と困ったようにエルに笑顔を向ける。


「ごめんな、エル。ちょっと人見知りがいてっ!」

「そういうフォローはいいから」

「ハハハ、お前いつ見ても尻に敷かれてんな。つーかわざわざ来たって事はアレか。最近中央近くに作ってる建物絡みか?」


 レヴェルにつねられているカナメを見てエルは笑うと、そう切り出してくる。

 その中央近くの建物というのは、まさに「クラン」用に聖国が建ててくれている建物のことだが……いきなり真実に近い事を切り出されて、カナメは思わず「えっ」という声をあげる。


「なんだ、違うのか? お前が絡んでんだろアレ?」

「えっと……いや、そうなんだけど。まさか噂になってるのか? 俺絡みだって」


 まだその辺りを宣伝したつもりはないのだが、何処かから話が漏れているのだろうか。

 そんな事を考えながらカナメが聞くと、エルは呆れたように肩をすくめる。


「何言ってんだ。お前絡みの騒ぎ、最後までじゃねーけど俺も関わってただろが。でもって、ここ数日の空飛ぶ鎧騎士の出現。トドメにゃ、この国の中央付近に建築の神シュラザートの神殿の連中が総出で作り始めた「何か」だろ? そこにレクスオール神殿の連中まで混ざってるんだから、答えは一つしかねえだろ」

「ああ……ていうか最後が決定打だよなソレ」

「おう」


 なるほど、それだけ情報があれば推理できてしまうだろう。

 というか、聡い人であれば「偽者騒ぎの男」が関わっていると気付いていてもおかしくない。


「えーと……まあ、そういうことなんだよ。で、まあ。それ関連で話をしたいんだけど……ちょっと人の多いところで話すような事でもなくてさ。何処か移動しないか?」

「なら爺さんの店でいいんじゃね? どうせ客いないんだろ?」


 爺さんの店、とはダルキンの「流れる棒切れ亭」のことだろうが……まあ、確かに今日も客はいないだろう。

 ダルキン自身そういうのに頓着していない傾向があるし、クラン設立後は店を閉めるような事を言っていたのでいいのかもしれないが……。


「あー……まあ、そうだな」

「おう。じゃあ行こうぜ。あ、そうそう。俺はエルトランズ。ただのエルトランズだ。ま、エルって呼んでくれ」

「そう。じゃあ私の事は……そうね、ベルとでも呼べばいいわ」


 差し出された手を握り返す事こそしないが、レヴェルはそうエルに返す。


「そっか。んじゃ爺さんの店に行こうぜ?」

「あ、ああ。それはいいんだけどさ」

「なんだよ」


 振り返るエルに、カナメは言い難そうに周囲を見回す。


「……まだ仲間、見つかってないのか?」

「見つかってるように見えるのかよ」

「いや、見えないけどさ。エルならとっくに見つかっててもいいと思うんだけどなあ」


 エルはいい奴だし、実力もある。

 むしろ引く手数多なはずだとカナメは思うのだが……エルは肩をすくめてみせる。


「いや、実はな。目をつけてる子はいるんだよ」

「え、そうなのか?」

「ああ。昨日お試しってことで一回組んだんだけどよ。どうも気まぐれっぽいからまた会えるかも分からん」

「へえ、どんな子なんだ?」

「んー? 面白い子だぜ。なんか達観してるっつーのかな。たぶん魔人だと思うし」

「えっ」


 いきなりレアなはずの魔人が見つかってしまった感があるが、エルの仲間候補だというのなら二人一緒に誘った方がいいのだろうか。

 そんな事を考えながら、カナメ達は歩いていく。

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