レヴェルとカナメ2

「ああ、そうそう。それね。その話よ」


 カナメが話題を変えると、レヴェルはアッサリと機嫌を直して笑顔に戻る。


「あのセラトとかいう普……男に話を聞いてきたけど、結局重要なのは表向きではない組織の方なんでしょう?」

「ん、まあ」


 重要なのは確かに其処だ。

 表向きの業務としての依頼仲介業と、その中に隠された異常を発見し叩く業務。

 大事なのは後者であり、この人員がしっかりしていないと組織はいずれ単なる冒険者ギルドに似ているだけの組織になりかねない。

 

「たぶん初期人員は貴方とその仲間なんでしょうけど」

「ああ、一応もう一人勧誘するあてはあるんだ。エルっていって結構気のいい奴なんだけど」

「貴方がそう思うんなら勧誘すればいいじゃない。そうじゃなくて、魔人や戦人を勧誘したほうがいいんじゃないかって話よ」


 魔人、戦人。

 かつての戦いでも勇敢に戦ったという人達の末裔であれば確かに世界を守るという目的にも賛同してくれるかもしれない。

 しかし、何処で会えるかとなるとサッパリ分からない。


「えっと……あてがあるのか?」

「此処に所蔵されてる本によると、連合には他の国より多いってことらしいわ」

「連合かあ……」


 確か連合はこの世界でも特に紛争の火種が転がっている地域であったはずだ。

 組織の設立後は色々と関わることになりそうだが、現段階で首を突っ込むのは藪をつついて蛇を出すような結果になりかねない。


「まあ、すぐって話でもないわ。貴方の組織とかいうのが上手く回るなら、いずれ会うでしょうし。魔人の貴方なら嫌われることもないと思うわ?」

「あ、そういえば。その俺が魔人っていうのはどういう……?」


 カナメが普人でなく魔人だと言っていたのは覚えているが、カナメとしては本当にそんなものになった覚えはないのだ。

 大体、そうであるならとっくにアリサ達のうちの誰かが指摘していてもよさそうなものだ。


「どうもこうも。でもそうね。貴方の組織にも役立つでしょうから教えてあげる。まずは戦人と魔人についてだけど……」

「あ、どんなのかは聞いたことある。戦人は獣人や竜人とかって呼ばれるような特徴的な人で、魔人は長命で色白で……魔法が得意なんだっけ? そういう意味では俺はあんまり魔人っぽくないんだけど」

「……ちょっと違うわね。今の時代にそう伝わっているのは分かったけど、正しくはこうよ」


 まず、戦人が獣人や竜人とかって呼ばれるような特徴的な人間であるのはその通りだ。

 現代に伝えられているように戦う事に長けた種であり、カナメが言った他にも蟲人と呼ばれるような特徴を備えた者もいる。


「次に魔人だけど。別に色白なのが特徴じゃないわよ。体力ないのが多いから白くなるだけで、日焼けする元気なのもいたし。正確には「戦人」でもなく「普人」でもない魔力の強い者達の総称なのよ」


 別に魔法が得意である必要はない。

 しかし普人の枠には収まらない程の魔力を有し……特徴的な姿、あるいは能力を備えている。

 それは羽持つ小人のような者であったり、耳の長い者であったりする。


「え? でも、俺はそんな……」

「レクスオールとしての莫大な魔力を有して平然としている身体が普人なわけないでしょう? 貴方の身体、この世界に残るレクスオールの力と意思を接続しても全く問題起きてないし。その身体が普人なら、魔力の暴走で爆散しててもおかしくないんだから」

「爆散って……なんでそんなリスクの高い……」

「文句ならディオスに言いなさい。いつか分からないけど、貴方みたいに生まれ変わるかもしれないわよ?」

「それって結局本人とは言い難いじゃないか……」


 溜息をつくと、カナメは「あれ?」と顔をあげる。


「でもそうすると、魔人は魔力を見ないと判定できないってことだろ? 鍛えて魔力が魔人並みになった人と区別つくのか?」

「そんな奴居ないわよ。魔力っていうのは生まれ持った才能の数値だもの。鍛えて上がるのは放出量。魔力を鍛えるなんていうのは不可能よ」

「そう、なのか」

「そうよ」


 だとするとまあ、見れば判定できるということだろうか。

 カナメはなんとなく納得しながら頷く。


「まあ、でも。しばらくは普人が中心になりそうな気もするなあ……魔人や戦人ばっかりだと……なんか目立つ気もするし」

「まあ、そうね」

「あんまり本命の方が目立ちすぎるのもマズい気もするしなあ」


 魔人や戦人が少ないならば、当然人目をひきやすいということだ。

 そんな連中が徒党を組んで何かをやっていけば「その裏には何がある」と探る者が出てこないとも限らない。

 カナメとしてはあまり国同士の関係に波風を起こしたくはないし……そういう意味では、目立つのは本意ではない。

「クランに情報を持ち込むな」などという規定を国外で作られてしまっては、別の手段を構築せざるを得ないからだ。


「今さら何言ってるのよ。どうせ遠からず目立つわ。それを承知でこの聖国とかいう国に拠点を決めたんでしょ?」

「う、まあ……そうだけどさ」


 調停者たる聖国であれば、何かあっても領土的野心がどうの内政干渉がどうのという揉め事を避けられるのではないかという期待も当然ある。

 あるが……あまり堂々と言える事でもない。


「貴方は悩み過ぎね、レクスオール。そうやって悩んでる間にウルだかエルだかっていうのを勧誘できるんじゃないかしら」

「あっ、そうだ! 早くしないとエルがダンジョンに潜っちゃうかも……!」

「私もそのエルっていうのを見ておきたいし……早く着替えなさいな。行きましょ?」


 カナメが慌てたように立ち上がると、レヴェルはそう言って肩をすくめた。

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