新しい組織の話をしよう2

 さて、カナメの望む「新しい組織」については神聖会議において「全面的にバックアップする」というなんとも頼りになる回答が返ってくる結果となった。

 となると、いよいよ設立に向けての話になる……が。

 当然だが、組織を作るというのは遊びではない。

 組織の目的、事業内容と収益計画。それについてはイリスの協力によりある程度完成した。

 ならば残る問題は人員と場所についてだ。

 カナメの当初の理想である「正義の組織」的なものであれば、何処でもいい。

 しかし各神殿が受けていた各種の依頼仲介を請け負う以上、それなりの拠点が必要となる。

 そして、それが本来の正義の味方的業務を圧迫しないようにする為の数の人手も必要である。

 更に言えば、依頼仲介における決まり事も重要となる。


「決まり事、っていうと……」

「神殿では単純に持ち込まれた依頼をそのまま冒険者に渡すだけの形式をとっていた。当然仲介料も取らんし、紹介のようなことをする事もない。明らかに妙な依頼は弾くが、基本的に個々の内容に干渉もしない。景観を損ねるので採用しなかったが、掲示板を置いてそこに勝手に貼って貰うのとそう変わらん」


 その決まり事を決めるため、大神殿の中の一つの部屋でカナメとセラトは向き合って話をしていた。

 決まり事といえば商人にも人気の「天秤の神ヴェラール」を祀るヴェラール神殿だ。

 トラブルの際にはヴェラール神殿に仲裁を頼む者も多いせいで、ヴェラール神殿は契約や決まり事のエキスパートが集まっている。

 メイドナイトやバトラーナイトといったものが他の神殿ではなくヴェラール神殿から生まれるのも、そういう土壌あってのものなのだが……それはともかく。

 そんなわけで、全面的なバックアップの一環として神官長のセラト自らが手伝ってくれているのだ。


「対して冒険者ギルドでは依頼の仲介を主業務としている。この「仲介」は単純に橋渡しではなく、個々の依頼の精査や適切な者への紹介、更にはトラブル発生時の仲裁役などの意味を含むわけだな。これを冒険者ギルドが行うという前提の上で、高い仲介料をギルドはとっている。ついでに言えば依頼人から依頼料も取っている。当然、それを望まない者の為に依頼料も仲介料も取らず、その代わり精査も仲裁もしないような仕事もギルドにはあるわけだ」


 当然、その中には怪しい仕事も危ない仕事もたくさんあるがな……とセラトは語る。


「それって、犯罪とかですか……?」

「明らかに「盗賊団員募集」などと書いてあれば冒険者ギルドも撤去するだろうがな。実際にはもう少し隠語の類を使ったものも多いと聞いている」


 たとえば「掃除夫募集。腕に覚えのある者歓迎。出来高即金」などと書いてあったりする場合は要注意だ。

 なんで掃除夫に戦闘力が必要なんだとか出来高ってなんだよとか色々とツッコミどころがある内容だが、要は「儲けてやがる金持ちの家を襲うぜ。報酬はお前の腕次第だ」と言っているのだ。

 他にも詳細は省くが使用人募集という名目で愛人探しをする馬鹿もいる。

 勿論、苦情と共に騎士団がやってきて似たようなものを剥がしていく事もあるが……冒険者ギルドとしてはそれに関しては「気をつけてほしい」という程度の注意書きで義務を果たしたことになっている。


「うーん……犯罪の温床になるのはちょっと」

「だろうな。だとすると、基本的に君の組織は対面での依頼の仲介となるだろう」


 つまり、カウンターに座るような人材が必要となってくるわけだ。


「掲示板もあってもいいと思うんですけど、そこに貼るのは精査した後のものだけになるでしょうね」

「そうだな。勝手に貼られんように承認済印などの発注も必要になるだろう」

「うーん……とすると、最低でもカウンターに座る人と、承認作業をする人が必要ってことに……」

「君の組織の本来の目的を忘れるなよ」

「勿論です。それに関しては、同じ組織の別部署ってことにしようかなと」


 カナメの組織の目的は、世界の平和だ。

 その具体的行動はレヴェルの語った「ゼルフェクトの欠片の起こす異変」を叩く事だ。

 正しく「正義の味方」的組織と言ってもいい。

 その為には情報を集めるのは必須だが……「世界を守りたいので怪しい場所の情報をください」と言って集まるはずがない。

 聖国の影響力を使えば国レベルで交渉は出来るが王国も帝国も連合各国も、そんな自国の恥は自分達で解決したい。

 更に言えば、情報を渡すことで聖国が更に干渉してくるのではないかという警戒も当然あるだろう。

 むしろ、警戒しない方が国家として心配だ。

 つまり表面上は「分かった」と言っておいて実際には隠しきれなくなるレベルまで何も話がこないということも充分にあり得るのだ。


 そこで、「依頼の仲介業」という表向きの仕事が役に立つ。

 聖国の組織の一部であるという背景を元に、料金を安くする。

 勿論聖国内の問題解決を中心とする地域サービス的なイメージを前面に押し出すが、冒険者ギルドよりも諸々の料金が安いとなれば聖国への旅費と天秤にかけた上で聖国にやってくる人間も出るだろう。


「もし、最寄りの冒険者ギルドではなく……わざわざ他国から聖国までやってきて依頼する人がいるのなら。その中に「本物」が紛れてる可能性も高いと思うんです」

「なるほど。基本的に依頼というものは緊急だ。ヴーンの発生などは一日としても放置しがたく、多少高くとも最寄りの冒険者ギルドに依頼するのが妥当。だが……わざわざ遠くに依頼する者もいる」


 そう、それはたとえばカナメがアリサと出会った日。

 その時にアリサが受けていた依頼もそのパターンだった。

 一部の冒険者と共にダンジョン隠蔽という犯罪に手を染めていたプシェル村の村長は、その冒険者達が来なくなった事に危機感を覚え冒険者ギルドに依頼した。

 しかし、その際に近くの冒険者ギルドでは何か勘付かれるかもしれないし実力的にも頼りないかもしれない……ということで、わざわざ少し離れた大きな街の冒険者ギルドで依頼をした。

 結果として「決壊」が起こりダンジョン隠蔽も発覚したわけだが……つまり、そういう「何かの隠れた」依頼が持ち込まれる可能性がある。


「そういうのを、問題解決の専門のメンバーが解決する。こういうやり方でいこうと思うんです」


 正義の秘密組織……というわけではないが。まあ、そんな感じのものだ。


「なるほどな。依頼の仲介の際にそういう正義感に満ちた者が見つかれば勧誘も可能か。よく出来ている」


 セラトはそう言うと、目の前の紙に何かを書き込んでいき……そこで、ふと思いついたように顔を上げる。


「なら、ダルキンの奴を加えたらどうだ。どうせあの店は俺以外の客を見たことがないしな」

「うっ……ダルキンさんですか」

「ああ。奴は一応バトラーナイトだからな。人を見る目に関しては特級だ。実力もあるし、カウンター業務にも慣れている」

「受けてくれるでしょうか……」

「君次第だな。一応各神殿から人も募ってみるが、頑張ってみろ」


 自信なさそうに「ううっ」と唸るカナメにセラトは楽しそうに笑ってみせた。

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