聖都動乱7
「……制圧しろ」
大神殿に入ってすぐのタカロの一言で、鎧の騎士達……聖鎧兵達は一斉に走り出す。
「タカロ副神官長!?」
「一体何を……うわっ!」
不意を突かれた二人の聖騎士が、あっという間に聖鎧兵達の斧槍で突き倒され捕縛される。
聖騎士達とて訓練していないわけではないし、タカロの連れてきた聖鎧兵に警戒していなかったわけではない。
しかしレクスオール神殿の副神官長が連れているのであれば神官騎士ではないかという考えもあったし、まさか大神殿で暴れはしないだろうという「常識」もあった。
それでも念の為と警戒はしていたが……数の力は残酷だ。
街中の対応のために最小限しか残していない聖騎士達では人間以上の力を誇る聖鎧兵達を止められるはずもなく、剣を抜いて斬りかかった聖騎士もあっという間に倒されていく。
「なんと脆い。不意を突かれたとはいえ……こんな程度か」
訓練と実戦は違うというが、聖騎士団は実戦の経験に極端に欠けている。
ダンジョンのモンスター相手を実戦と呼ぶのかもしれないが、言ってみれば突発の緊急事態に脆い。
盗賊も国境に設置した「聖域の壁」で弾いてしまう為、盗賊相手の集団戦の経験もない。
今回の騒ぎへの対応も含め「訓練だけでは熟練にはなれない」という事を証明したとすら言えよう。
「聖騎士団の再編も考えねばならんな」
呟きながら、タカロは大広間の壁に並び立つ神々の像を見上げる。
何よりも神聖で、何よりも尊いものだと考えていた時期もあった神像。
しかし今となっては、ただの石像にしか見えはしない。
侵されざる聖域にこうして暴挙と共に足を踏み入れても、何も起こりはしないのだから。
それは今の聖国の脆さであり、危うさだ。故に今、無理矢理にでも変わらなければならない。
全ての膿を出し切り、始末して。新しいものを打ち立てねばならない。
その為には。
「……お前か」
「タカロ副神官長……!」
「そこをどけ。私はあのカナメという男を殺さねばならん」
大広間の奥の扉を開け出て来たイリスに、タカロは無表情でそう告げる。
どかねば今すぐ殺すと。言外にそんな意味を込める。
説得できるとは思っていない。イリスは神官長と同じで、法より神を重視するタイプだ。
それは神官として決して間違ってはいないが……タカロの目指す未来には必要ない。
イリスがただの神官であるならば多様性として放置するのも良いが、未来の神官長候補とされるイリスだけはダメだ。事情を知り過ぎているし……残すのは、禍根にしかならない。
「何を考えているんですか! まさか外の連中と同じように神罰云々というデマを……!」
「そうだな。それを理由に死んでもらうのは確かだ」
「なっ……!?」
「恐らくは本物なのだろう。下手をすると、レクスオールの生まれ変わりなのかもしれんとすら思っている」
生まれ変わり。その言葉に、イリスは激しく動揺する。
聖国の教えでは、神々は地上を見守っていることになっている。
イリスも少し前までそう信じていたし、カナメの事も「レクスオールの弓を持つ人間」と思っていた。
生まれ変わりなどという考えが生まれるはずもなかったし、それが当然であったのだ。
それを、タカロは何の躊躇も迷いもなく言い切ったのだ。
「タカロ副神官長……貴方は、一体何を……」
何を知っているのかと言いかけたイリスの言葉に、タカロは自嘲するような笑みを浮かべる。
「何を言っているのか、とでも言いたいのか。当然だな。神々がすでに死んでいるなど、この聖都の誰も思いもしないだろうよ」
「貴方は……貴方は何処でそれを!」
「む? その反応は……いや、いい。それに私が何処で知ったかなど君にはどうでもいいことだ。これから死ぬ君には、な」
聖鎧兵の一体が斧槍を構えてイリスへと襲い掛かり……しかし、イリスはその顔面を正面から殴り飛ばす。
すでに
だが、転がった兜の中に……そして、本来人間の頭がある部分にも何もない事実。
目の前で未だ動く聖鎧兵の中身ががらんどうである事実は、イリスを僅かに動揺させる。
それでも本能で聖鎧兵の身体を殴り飛ばすイリスは、タカロへと向き直り叫ぶ。
「まさかこの騎士達……全員モンスターですか! 貴方まさか、ゼルフェクト神殿と……!」
「モンスターではない。過去、ゼルフェクトと戦った魔人が生み出した武器だ。これからの聖都を……いや、世界を守る象徴でもある」
一斉にかかれ、と。そんな命令と共に聖鎧兵達は一斉にイリスへと向き直り、殴り飛ばした聖鎧兵もゆっくりと起き上がる。
「心配するな。ゼルフェクトなどを蘇らせるつもりは一切ない。人の世は永遠の平和を約束されねばならないのだから」
「ならば、何故……!」
「レクスオールも要らぬ。さあ、では……そろそろ死ね」
タカロの合図と共に聖鎧兵達は走り出し……巻き起こる吹雪が、そのうちの数体を一瞬にして氷漬けにした。
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