その頃、ダンジョンでは2
「ハッ……この程度では殺せぬと知っているだろうに!」
ラファズの眼前に出現した輝く壁が、襲い来る炎を弾く。
ラファズが此処にいる事……すなわち経緯を知っていて、それより弱い炎の魔法を選択したのであれば実に無能極まる。
この程度では、精々牽制にしか。
「……ああ、なるほど」
無造作に背後へと繰り出した回し蹴りが、背後で剣を振りかぶっていた黒装束を吹き飛ばす。
続けて振るった黒弓がもう一人の剣を防ぎ、そのままの勢いで殴り倒す。
「がっ……」
「ぐっ!?」
だが、敵が頑丈なのかラファズが非力なのか。殴り倒された黒装束は倒れながら回転し、ラファズの足を払う。
「む……うっ!?」
「貰った!」
その隙に無防備なラファズの胸元目掛けて二人の男が剣を構え飛び掛かる。
一人が倒されようと、もう一人が。
一人が成功したなら、もう一人は首を飛ばす。
ならば、これで終わりだと。そう黒装束達は確信したまま、自分達の元に迫ってくる輝く壁に弾き飛ばされた。
「……!?」
「ごっ……」
不意打ちで殴られたような衝撃に、二人の黒装束は……いや、ラファズの近くに転がっていた黒装束も、頭上から不意打ちしようとしていた黒装束も弾き飛ばされる。
「なっ……馬鹿な。充分に魔力は込めていたはず! どうして弾かれる!」
「馬鹿か貴様は」
驚愕の顔を見せるローブの男に、ラファズは呆れたように息を吐く。
「人間レベルの「充分な魔力」で、神の「万全」が破れるものか。その黒装束共、手練れのようではあるが普人だろう? 一撃に必死の全力を込めずして、どうして私に刃が届こう?」
そう、神話の時代。破壊神ゼルフェクトと、神々……そして神々に付き従う人類の連合軍が争っていた頃。
強力な力を持っていた神々が何故死ぬ事になったのか。現代よりも強力な魔法の品や
その理由を考えれば、「充分な魔力」を込めた武器で挑む事の頼りなさも想像がつくはずだ。
必死の全力ですらも、届くか否か。
そういうレベルが神話の時代の戦いなのだ。
故に、「充分な戦力」で挑んできた男達をラファズは嘲笑する。
「私が「私」では無いからと油断したか。アッサリと敗退したように見えたから甘く見積もったか? ……ああ、それともあれか。そんなに私と父さんの戦いが楽しいお遊戯に見えていたか。近くに寄れば殺せる程度の雑魚同士のじゃれ合いに見えていたか」
「う……く……やれ!」
ローブの男の命令に従い、黒装束達は走る。先程のダメージなど無かったも同然。四肢があるならば動けるし、無くともそれなりに動ける。
何を言おうと、関係ない。全力でなくば通じないというのならば、一撃に全力を。
黒装束達の持つ剣が、その限界まで魔力を通され輝き震えて。
「!?」
地を蹴り跳んだラファズの掌が、先頭を走る黒装束に向けて振るわれる。
「
その手に生まれた黒一色の矢が、勢いのままに黒装束の胸に突き立てられて。
その瞬間、黒装束の視界から全てが消滅する。
見えない。分からない。
暗いとか明るいとか、黒いとか白いとか。そういうものですらない。
ない、ないのだ。なにも、ない。
「ぐ……あ……うあっ!?」
目に見える全てを失い、男は立ち止まる。
胸を貫いた矢はたぶん、消えている。
見えないが、何かが刺さっている感触はもう無い。
見えない。違う。ない。分からない。
分かる。恐らく、「見る」事を奪われた。
しかし、それだけでこんなにも不安になるものか。
見えない状態で動くことなど、簡単であるはずなのに。
いや、違う。そう、違う。
見えずとも感覚はあるはずだ。身体に触れる空気、音の反響。
それで全てを把握できるはずだ。なのに、何もない。
そうだ、おかしい。何故先程から、こんなにも静かなのか。
何故、先程から熱いとも寒いとも感じないのか。
何故、先程から声が声にならないのか。
何故、先程から何も。誰も。
「……な……っ」
剣を落とし、呆けたようにウロウロと歩き回り始めた仲間の姿に他の黒装束達の足が止まる。
壁にぶつかっても止まらず、転んでも転んだことに気付かぬかのように足を前に動かそうとする。
何事かを呟き続けるその姿は、比喩ではなく廃人そのもの。
「別に撃たなくともいい。ナイフを投げてもいいように、矢で接近戦をしてもいい。弓士という固定の概念に当てはめる事がまず、最初の間違いだ」
「う……おおおっ!」
「そして、第二の間違いは」
絶妙な連携で襲って来る三人の黒装束から、バックステップでラファズは離れていく。
それを追う黒装束に嘲笑を浮かべながら、ラファズは宣言する。
「私相手に、通路で戦いを挑んだことだ」
そして、黒い光が集う。
「
そして、今まさに剣を振るおうとしていた黒装束達を……通路を、黒い輝きが覆い尽す。
その輝きの過ぎ去った後には、何も残らず。
ラファズはその中を歩き、曲がり角をひょいと覗き込む。
「ひ、ひい……っ!?」
「おお、ちゃんと逃げていたか。感心感心。折角見つけた「事情を知っている」
「な、なにを……」
腰が抜けたのか、怯え後ずさろうとするローブの男をラファズは笑顔で捕まえる。
「決まってるだろう。お前を私に合うように改造して、その身体を貰う。いやいや、本当に来てくれて良かった。流石に一から創ると「私」に気付かれて、要らぬちょっかいを出されかねん」
「馬鹿な、馬鹿な! そんなことが」
「許されるし出来る。貴様、此処を何処だと思っている。ダンジョンだぞ? 無数のモンスターを日々吐き出し続ける悪夢の鍛冶場だ。なあに、心配するな……お前は、すぐに消えてなくなる」
ダンジョンの中に、悲鳴が響く。
生への渇望を秘めたその断末魔の声も、ダンジョンでは日常で。
近くには、それに正義感を燃やし駆けつけるお人よしも居ない。
故に、誰も気付かないし忘れ去る。
これはただ……それだけの、狂った話だ。
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