再会のレヴェル2

「お待たせ、レクスオール。えーと、どこまで説明したかしら。でも面倒になってきたわ。もう終わりでいいかしら? いいわよね。うん、おつかれさま」

「え、いや。結局レヴェルが此処にいる理由が不明だし、そもそも俺ワケわからないんだけど」


 あまりにもザックリとした説明……しかも途中で打ち切ろうとするレヴェルに、カナメは思わず抗議する。


「別にこれからしばらくの付き合いなんだから、焦らなくてもゆっくり説明してってあげるわよ?」

「へ?」

「気付かないの? 私と貴方の魔力、繋がってるでしょうに」

「え……ええ!?」


 言われてみれば、何か妙な魔力の流れを感じる。

 まるでカナメの中から何処かに流れているような、あるいは入り込んでくるような。

 そうと意識しなければ気付かないような……しかし、あまりにもしっかりとした繋がり。


「あ! ほんとだ! なんだこれ!?」

「私と貴方の繋がりだって言ってるでしょう。今の私は魔力体ゴーストとたいして変わらないんだから、外から供給しないと自分を維持できないのよ?」

「いや、え? なんでそんな」

「決まってるじゃない」


 カナメの問いかけに、レヴェルは悪戯っぽく笑う。


「貴方の隣にいる為よ?」

「え……と」

「茶化しはしてるけど、冗談じゃないわよ?」


 返答に困るカナメに、レヴェルはそう言ってカナメの手を取る。

 やはり温かくも冷たくもないその手は、触れたカナメの手をぎゅっと握る。


「さっき、そこの女が怒ってたけど。あれは至極当然の怒りよ。生まれ変わりとはいえ、貴方には貴方の人生がある。この場所は、そんな私達ではない誰かに私達の願いを押し付ける場所。力の剣を渡し使命のマントを羽織らせて、果ての見えない旅へ旅立てと急き立てる場所」


 だからこそ、と。

 レヴェルは真剣な表情で、カナメを見上げる。


「だからこそ、私達は此処に影を焼き付けた。この言葉を伝え、せめて寄り添う為に」


 そのレヴェルの瞳から、カナメは目を逸らせない。

 それを聞いてしまえば、もう戻れない。

 分かっているはずなのに、カナメは目を逸らすことができない。


「どうか……全ての神々わたしたちの想いを継いで。あの殺せぬ邪神を……ゼルフェクトを、この大地に縛り続けて。全ての神々わたしたちが愛した世界を、人間を守って。その孤独には、私が寄り添うから」

「レヴェル……」


 ドクン、と。カナメの心臓が大きく跳ねるような音がする。

 レヴェルの言葉が、カナメの中に深く浸透していく。

 カナメの中の知らない何かが……けれど、よく知っている何かが叫ぶ。

 これは、カナメがやらなければならないことだと。

 これは、レクスオールがやらなければならないことだと。

 だから、俺は。


「こうしているだけでも分かる。ゼルフェクトは私達の目論見通りに、大地に封印された。死した神々わたしたちの意思と力が世界に満ち、その封印を抑え続けている。でも、それでも足りなかった。あの邪悪な意思は、消えてはいない……いえ、強くなっている? そうね。だから、きっと貴方は此処に導かれた」

「レクスオールの、意思が……」


 それは、ヴィルデラルトが言った通りなのだろう。

 レクスオールの意思はカナメに何かを期待した。

 レクスオールであるカナメに、何かを託した。

 やらなければならないと。その想いだけが、カナメの中を支配する。

 いや、やるべきなのだ。

 破壊神ゼルフェクト。そんなものが蘇れば……アリサも、エリーゼも。

 自分を支配しようとする想いを塗り替えて、カナメはレヴェルへとしっかりと向き合う。


「俺は……何をすればいいんだ?」

「……ごめんなさい。でも、ありがとう」


 カナメの肯定と受け取れる言葉に、レヴェルはそう言って……すぐに、その表情を真面目なものに変える。


「今すぐどうこうという話ではないの。ゼルフェクトが蘇ろうとするなら、その欠片が何かしらの異変を起こすはずよ。その時に、それを叩けばいいわ」


 カナメの頭の中に浮かぶのは、ラファズの姿。

 そして……無限回廊で見た、燃える街の光景。

 ゼルフェクトの欠片が起こす異変。あの光景は、そういう意味なのだろうか?

 だとすると、起点はラファズなのだろうか。いや、ダンジョンで何かが起こるのだろうか。

 それとも、止める事自体が出来ないのだろうか?


「……その顔。なにか心当たりがあるのね?」

「無限回廊で、燃える街を見たんだ。それと、説明すると長くなるんだけど……俺そっくりの力を使う奴もいる」

「なら、まずはその男か女か知らないけど……そいつから捕まえましょ」

「お待ちを」


 行きましょう、とカナメの背中を叩くレヴェルに、声がかけられる。

 その声の主……セラトにレヴェルは振り返ると、ふうと面倒くさそうに息を吐く。


「なにかしら?」

「無礼を承知で申し上げます。そちらのカナメは、今この聖都において微妙な……しかし重要な立ち位置にいます。その立ち位置を確定させる事は恐らく、無限回廊の予知したこの街の未来にも関わります。それを防ぐ為に、この後の会議に彼を少しの間お貸し願いたいのです」

「嫌よ。普人の権力争いなんて私にとってはカナンの恋話より興味ないし、ヴェラールの空気読まない正論よりイラつくことよ」

「し、しかし……!」

「と、言いたいところだけれども」


 レヴェルはそう言うと、カナメを見上げる。


「決めるのは彼よ。その会議とやらに参加するかどうかは、ね」

「あ、なら参加するよ。元々そのつもりで此処来たんだし……えっと、そのくらい大丈夫、だよな?」

「……そうね。貴方が参加すると決めたのなら、そうするべきよ」


 レヴェルはそう言うと、優しげに微笑んでみせた。

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