再会のレヴェル
カナメが大神殿と呼んでいたこの場所は魔法の神ディオスが再臨の宮と名付けた場所であった。
何故こんな場所が建築されたのか、そもそも何のための場所なのか。
「簡単に言えば、未来の為ね」
そう、それは過去の話。
神代と呼ばれる、神々と破壊神ゼルフェクトが争っていた時代。
破壊神ゼルフェクトと呼ばれる戦いの果てに多くの神々が倒れるであろう事を予見した魔法の神ディオスは、その先を見据えた。
それはすなわち、いつかの時代に生まれ変わった神をサポートする為の施設。
生まれ変わりにより抜け落ちるかもしれない諸々を補完し、ゼルフェクトに対抗する為の策。
「私達が死した後に世界に残る力と意思。それと「新しい身体」を繋げるためのもの。「神の生まれ変わり」を神そのものに変える為の大魔法。それが、この場所が作られた最大の理由よ」
「神、そのもの……?」
「そうよ。といっても、身体を全盛期のものに作り替えるわけじゃないわ。そんな事したら死んじゃうもの。あくまで能力面でってこと……という風に、あの男は言ってたけど。どう? 何か感じるものはあるかしら」
言われて、カナメは自分の手をじっと見る。まあ、そんな場所を見ても分かるはずもないが……というよりも、どうすれば何を感じられるかなど分かるはずもない。
身体が光ったり唸ったりして新しい力の目覚めでも感じられるならともかく、そんな傾向もない。
身体の調子が良いといえば良いが、そんなものは関係ないだろう。
「いや、別に……」
「そう? まあ、いいわ。とにかく、そういう場所ってこと」
あまりにもざっくりした説明だが、つまりは「神の生まれ変わりに力を与える場所」ということなのだろうとカナメは理解する。
しかし、だとすると。
「レヴェルは? レヴェルも生き返った、ってことなのか?」
「勿論違うわよ。此処にいる私は貴方の力の一部を使って顕現しただけの存在よ。この神殿に焼き付けた影と言い換えてもいいわ。そして私だけではなく、此処にはほぼ全ての神の「記録」があるわ。あくまで作った時点の、だけどね」
言われて、カナメは周囲を見回し……ヴィルデラルトのものと思わしき石像に目を向ける。
「……ヴィルデラルトのも?」
「勿論よ。でもどうせアイツ、生きてるんでしょ? 影に会うより本人に会った方が早いわよ」
「ん、まあ……」
「で、私だけが出て来た理由だけど。簡単に言えば、「今の貴方」にとって一番馴染み深い存在だからよ」
なるほど、言われてみればカナメは神々の中ではレヴェルと一番関わっている。
ヴィルデラルトとも聖都に来てから会ってはいるが、それも夢を通しての話だ。
たとえ本人でないとはいっても、一番「馴染み深い」のはレヴェルであるだろう。
「呆れた話ね。昔の貴方ならアルハザールあたりがこの場に立っていたと思うけど、よりにもよって私だなんて。しかもさっきの話からすると、私本人だと勘違いするくらいに濃い
「えーと……そんなつもりはなかったんだけど、なんか色々と巻き込まれるっていうか」
「言い訳なんかいいわよ。私と縁が繋がるくらい死に近い自分を反省なさい」
「う……ごめん」
「よろしい」
素直なカナメにレヴェルは満足そうに笑うと、「話の続きだけど」と告げる。
「今の貴方みたいに、記憶に欠損があるだろうことはすでに分かってたの。この場所に仕掛けた魔法で記憶を焼き付ける事が出来るかも不明だったし……こうして見てる限り、記憶の焼き付けに成功したとも思えないわ」
「え……っと」
「ちょっと!」
カナメの声を遮るように、アリサの声が響く。
驚いて振り返れば、そこにはエリーゼとイリスに必死で止められながらも前に出ようとしているアリサの姿があった。
「記憶の焼き付け!? それってつまり「ヴェイムの狂想」の再現じゃない! 何考えてんの!? カナメを消す気!?」
「あ、アリサ! 相手は死の神ですのよ!?」
「落ち着いて!」
「落ち着けるか馬鹿! ええいもう、離せ!」
バタバタと暴れる三人を見ていたレヴェルは、カナメに視線を戻す。
「……ヴェイム某ってのは何?」
「え? さ、さあ」
カナメに聞かれても分かるはずがない。レヴェルが知るはずもない。
ヴェイムの狂想というのは、レヴェルの居た時代よりも遥か後の事件の通称だ。
狂った魔法研究家が「永遠に研究をし続ける」為に自分の記憶と意思を別人に送り込む事で「次の自分」を作ろうとしたという……まあ、そんな事件だ。
「よく分からないけど、平気よ。あくまで「無いもの」を継ぎ足すだけ。ディオスはいけ好かないキザ野郎だけど、その辺りは完璧だったわ」
言いながら、レヴェルはエリーゼとイリスに……というよりはイリスに抑え込まれているアリサの眼前へと歩いていく。
「で、貴方は何? カナメ、ていうのはたぶんレクスオールの今の名前よね。恋人か何か?」
「な……」
「違いますわ!」
絶句するアリサを抑えつけたまま、エリーゼが叫ぶ。
「ちびっ子には聞いてないわよ。まあいいわ、違うのね。見たところ普人みたいだけど、随分と仲が……」
その言葉は、突然中断されて。レヴェルは目を見開きアリサをじっと見つめる。
「な、なにさ」
「……あのバカ」
頭痛を抑えるかのように自分の額に手をあてると、レヴェルはアリサに背を向ける。
「貴方、闘神になりかけみたいね。頑張って抑えなさい。過去に数えるほどではあるけど、それをやった奴等も居たわ」
そう言い残して、レヴェルはカナメの元へと戻っていく。
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