大神殿
「う、わあ……」
そこに広がっていたのは、巨大な大広間。
円状に作られた大広間の壁に立つのは無数の巨大な石像であり……その中には、カナメの知った顔もある。
真ん中分けの長い髪と、フリルのドレス……そして、大きな鎌。
小さな袋のようなものを持った、似た顔立ちの少年とセットになっているその石像こそが、恐らくは「生と死の双子神ルヴェルレヴェル」の石像であるのだろうとカナメは納得する。
そこから目を離して周囲を見渡しても、どれがどれなのかカナメにはイマイチ判断がつかない。
「どうした、奥へ行くぞ」
「え、あ、はい!」
続けて入ってきたアリサ達も「へー」などと言いながら周囲を見回してはいたが、セラトに促されてカナメはキョロキョロしながらも大広間の奥へと進んでいく。
ヴィルデラルトそっくりの石像も見つけたし、ならばレクスオールの石像はどれだろうとカナメは弓を持った石像を探して視線を彷徨わせながら、丁度大広間の中央に辿り着いて。
「……えっ!?」
その瞬間、そこに嵌められていた多角形の水晶版のようなものが輝きだす。
ひょっとして、何かやってしまっただろうか。
慌てたカナメは答えを探してセラトへ視線を向けるが、振り返ったセラトすらも驚いたように固まってしまっている。
「か、カナメ様!? くっ……なんですの!? 強い魔力がカナメ様のいる場所から……!」
その場にいる全員が身体で感じるほどの、強力な魔力の奔流は風を起こし……しかし、その中心にいるカナメだけは何も感じない。
誰もがカナメに近づけないでいる中で、カナメを包んでいた光の柱は強さを増し……その眩さに、思わずカナメは目を瞑る。
そうして視覚を遮断してみて初めて、カナメは自分の中に起こってた異常に気付く。
「え、これ……もしかして、俺の魔力……か!?」
そう、カナメの持つ魔力の総量からしてみれば大したことはないが、それでも一般的感覚からいえばかなり非常識な量の魔力がカナメの中から流れ出ている。
それは、ダンジョンの中で爆発から皆を守る為に使った魔力をすでに超えており……普通に考えれば、もう倒れていてもおかしくはないはずの放出量だ。
それが、カナメ自身が自覚しないままに流れ出ているという異常に……カナメはゾッとする。
此処から離れた方がいいのではないか。
そう考えたその瞬間、カナメの中から何かがぐいっと引き出されるような感覚を味わい……脱力感に、カナメは思わず膝をつく。
何が起こったかは、カナメ自身が分かっている。
魔力だ。カナメ自身が一気に疲労するほどの魔力が、カナメの中から引き出されたのだ。
「や、ば……動けな……」
「カナメェ!」
「カナメ様!」
アリサ達が叫ぶ声が聞こえるが、嵐の如く吹き荒れ大広間を覆う魔力は、カナメに誰をも近づけない。
そうして、輝きはどんどんと強くなり……もう一度、カナメの中から大きな魔力が引き出される。
気絶しそうなその喪失感に、しかしカナメは歯を食いしばるように持ちこたえて……倒れるまいと、手を床について耐える。
そうして広間全体を覆っていた魔力は突如中央へと収縮し、打ち上げられるように天井へ……その向こうへと消えていく。
そうしてそこに残されたのは、荒い息を吐くカナメと……それを見守るしかなかった者達。
アリサが、エリーゼが、イリスが、ルウネがカナメへと駆け寄ろうとして。
しかし、ズドンという音と共に天井を貫くようにして降ってきた巨大な光の柱の持つ魔力の圧力に再び押し流される。
その光は立ち上がれないままでいたカナメを貫き、呑み込んで……いや、カナメに呑み込まれるようにして消えていく。
まるで先程奪った魔力を返すとでも言うかのように。
いや、それよりもずっと大きな魔力を、カナメの中に流し込むかのように。
見ているだけでゾッとする程巨大な魔力の籠った光の柱は、やがてその全てがカナメに呑み込まれて。
……そうして訪れた静寂に、誰もが無言のままになる。
いったい、今の光景は何なのか。
聖国の長い歴史でも、こんな事が起こったことはない。
凄まじい魔力の籠った光の柱が、レクスオールのような恰好をした者を貫いた。
ならばこれは天罰なのか、それとも。
「な、何事ですか!? それに今、空が……!」
駆け込んできた聖騎士は、魔力の渦巻いていた現場である大広間の静けさに困惑するようにキョロキョロとして。
一番近くの神官へと走り寄り声をかける。
だが大神殿専用の神官服を纏った神官は呆けたような顔のまま、聖騎士の声に中々反応しない。
「し、神官殿!?」
「え? あ……いや……ああ、すまない。ほう、こく……を!?」
言いかけた神官の声は途切れ、一点に集中する。
その怯えたように小刻みに震える様子に、聖騎士もまたその視線の先を見て……同じように、ガタガタと震え始める。
そう、何故なら。
無数に並ぶ石像のうちの一体が……生と死の双子神ルヴェルレヴェルの……いや、「死の妹神レヴェル」の石像が輝いていたからだ。
その石像から放たれた光は中央で崩れ落ちた身体を手で支えたままのカナメの眼前へと撃ち込まれ……やがて、そこに人型の像を結ぶ。
「……よりにもよって、私が選ばれるとはね。どんなハードな生活してるのよ、貴方」
「レ、ヴェル」
「久しぶり、レクスオール。貴方、随分可愛らしい姿になったのね?」
死の神レヴェル。
かつてそう名乗り、消えたはずの少女が……カナメの前で、ニヤニヤと微笑んでいた。
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