大神殿へ2

 ヴェラール神殿の神官の操縦する、ヴェラール神殿の紋章入りの馬車。

 どう見てもヴェラール神殿関係者であるその馬車に、警備の聖騎士達は一礼して道を開ける。

 勿論、丸ごと偽装している大胆なバカという可能性もないではないが、此処で止めて後で責任問題となるよりは降りた後に確認する方が色々と効率的だ。

 そんなわけで大神殿の正面に止まった二台の馬車に聖騎士達が近づき、ドアを開ける。

 

「ご苦労」


 一台目の馬車から降りて来たのは、ヴェラール神殿の神官長であるセラト。

 この大神殿の管理者の一人でもある重鎮の登場に聖騎士達の背筋がピンと伸びる。

 聖騎士団の中でも大神殿担当の聖騎士達は神殿関係者の顔を頭に叩き込んでおり、知らない者が居れば必ずわかる。

 逆説的に言えばVIPと言える面々には反射的に敬礼をするように叩き込まれており、鎧のガシャンと鳴る音が響き敬礼がなされる。

 続けて降りて来たのはセラトのメイドナイトであり……一台目の馬車は、それで全員。

 二代目の馬車は……最初に降りて来たのは、濃緑の服と黄金の弓が印象的な男。

 矢筒に入った矢は意匠がバラバラで統一性がないが、どの矢からも魔力を感じる……つまり、使い捨ての魔法の品を多数持っている、とんでもない贅沢な男。

 当然、聖騎士達はその顔に見覚えはないしヴェラール神殿の馬車から「どう見てもレクスオール絡みです」と言わんばかりの男が出てくる理由も分からない。


「ど、どうも」


 気弱な笑顔を浮かべる男を前に、聖騎士達は顔を見合わせて。


「ああ、彼は私が連れてきた今回の主役だ。リストは届いているだろう? 失礼のないように」


 かけられたセラトの声に、聖騎士達は緑色の男……カナメに向けていた疑惑の視線を正し敬礼する。


「……はっ、失礼いたしました!」


 緊急の神聖会議が今日行われる事については、聖騎士達も知らされている。

 黒髪の「カナメ」という男が来ることは知らされていたが……なるほど、この目立つ格好をした男がそうだったのかと聖騎士達は理解する。

 しかし、それなら何故レクスオール神殿の馬車ではなくヴェラール神殿の馬車なのか。

 ここ最近、街で広がっている噂を思い出した聖騎士もいたが、ヴェラール神殿が身分を保証するカナメと「偽物のレクスオールの弓を持った男」とを頭の中で繋げる聖騎士はこの場には居なかった。

 なにしろ、セラトが身分を保証していることもそうだが……カナメに続いて飛び出してきた紫の髪のメイドナイトが、その傍らに寄り添うように立ったからだ。

 まさか偽物をレクスオール神殿に持ち込むような詐欺師にメイドナイトが従うまい……という理屈だ。


「ご苦労様です」

「あー、ついたついた」

「私も此処に来るのは初めてですわ……」


 続いて出て来たのは、三人の少女。

 一人は、濃緑の神官服を着込んだ女。

 優しげな雰囲気を纏う神官騎士は金の髪も美しく、青の目は吸い込まれるような美しさをもっている。

 三人の中で一番女性らしい体つきの彼女に振り返らない男は居ないほど……と言えるが、ある意味で恐怖の象徴であるレクスオール神殿の神官騎士の証拠……濃緑の神官服を纏った彼女を数秒以上直視するのは、中々に勇気のいる行為だ。


 一人は、白くパリッとした騎士服にも似た服を着込んだ赤髪の少女。

 ズボンを穿いて肩までの髪を後ろで軽く縛った姿はボーイッシュではあるが、胸元の豊かさは女性である事をこれ以上ないくらい明確に主張する。

 浮かべた笑顔はほっとする雰囲気を纏い、しかしどこか荒々しい。

 腰に下げた剣から見るに剣士なのは間違いないだろうが……リストの中で一致するのは「冒険者のアリサ」だろうと聖騎士達は頷く。

 

 残る一人は、青い髪の少女。

 三人の中で一番……なんというか子供らしさの残る少女の服は、結構な派手さだ。

 白くフリルのついた服は一目見て分かる高級な造りで、ふわりとしたスカートも美しい。

 胸部を覆う金属鎧は薔薇のような模様があしらわれており、肩鎧についた大きな宝石のようなものがキラリと輝く。

 履いているブーツまでもが白く、腰にあるのは黄金の柄が眩い長剣。

 その背後に音もなく立つバトラーナイトの男が持つ青い宝石のついた金属杖も、恐らくは少女のものであろうと思われた。

 一致するのは「冒険者のエリーゼ」だろうと聖騎士達は判断するが……どう見ても冒険者というよりはファッション冒険者か英雄譚にかぶれた貴族のご令嬢だ。

 ……まあ、格好で言えばアリサも冒険者らしくないのでヴェラール神殿が何か用意したのだろうと勝手に聖騎士達は納得する。

 まさか、エリーゼのだけ自前だと本当の事を言っても信じないであろうし、説明する義理もないのだが。


「リストにあるのはこれで全員ですね……追加などはございませんか?」

「無い」

「了解しました。此処より先は徒歩となりますので、どうぞお進みください」

「ああ。行くぞ」


 セラトに促され、カナメ達は大神殿の入口へ向けて進んでいく。

 遠くから「あれは誰だ」と囁く声が聞こえてくるが、振り向かないまま歩く。

 大神殿は石垣か何かを積んだ上に作ったのか、まずは大きな階段を上らなければいけない。

 スタスタと進んでいくセラトを追うように、カナメ達も階段に足をかけて進む。

 一段、一段と上がっていく事に感じるのは、まるで空を飛ぶような感覚。

 この街では大神殿が一番高い建物だというのもあるだろう。

 見える景色は素晴らしく、思わず立ち止まってしまいそうな足をカナメは動かす。

 そうして、階段を登り切った先にあるのは……巨大で荘厳な白い建物と、開かれた巨大な扉。


「此処が聖国の誇る大神殿だ。さあ、行くぞ」

「は、はい!」


 扉の両脇に立つ聖騎士達が敬礼し、その間をセラトがすり抜けるようにして奥へと入っていく。

 カナメもその後を追い、聖騎士の視線を感じながら大神殿の中へと足を踏み入れた。

 

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