大神殿へ
カナメ達を乗せて大神殿へと向かう馬車が、ゴトゴトと揺れる。
大神殿。神々を祀る神殿の本殿が集まる聖都の中でも、大神殿と呼ばれる神殿は一つしかない。
聖都の中央に存在する、巨大な石造りの建物。
この大神殿を中心に聖都が作られたと言われており、つまり大神殿のある場所に聖都と聖国が出来たと言い換える事も出来る。
「えーっと……つまり、街より先に神殿を建設したってこと、ですよね?」
「いえ、聖国の歴史では大神殿は神より授かったものであると教えています。つまり、最初からあったということですね」
馬車の中では、イリスの突発講義が始まってしまっている。
というのも、馬車がゆっくりと進むせいで到着に少し時間がかかるからである。
旅の道ではサクサクと進む馬車も、人の多い町中では超安全運転が義務付けられている。
ゆっくり、のろのろと。人を万が一にも轢き殺さないように進む馬車は「楽」という以外に町中では大きな利点は無く、カナメ達が今乗っているのも単純に安全や衣装の汚れなどに対する総合的な判断であったりする。
そんなわけで暇であり……「そういえば大神殿に行くのは初めてだったな」などという、カナメの迂闊な発言が切っ掛けとなったわけだ。
まあ、これから行く場所の解説を聞いて行くのは無駄ではないし、カナメは単純にそういう説明を聞くのは好きでもあった。
「世界を見渡しても、大神殿が一番古い建築物であるとされています。これは大神殿を神から授かったか……はともかく、神代の建物であるという証拠にもなっているわけですね」
そう、大神殿は世界的に見ても「最古」の建物だ。
恐らくは石造りであろう建物はうっすらと魔力を纏い、現代の建築技術を超えるもので作られているとさえ言われている。
一般の参拝者は大神殿のある広間までしか行けず、中への立ち入りは基本的に神官か招かれた客しか許可されない。
その神官にしたところで、全員が入れるというわけではなく審査があったりするのだが……それだけ重要な建物ということでもある。
「はあ、なるほど……」
現在では各神殿の代表者の会議や、各国の重鎮を招く際の会場などになっている大神殿だが、各神殿の本殿ではなく大神殿を拝みに来る者もいる、とイリスは教えてくれる。
「いわゆる大神殿信仰ですね。人の作った神殿よりも神々の造りし神殿の方が良い、と。こういうわけです」
「分からないでもないですわね」
「確かに」
頷くエリーゼとアリサに、イリスは軽い咳払いを返す。
「確かに大神殿に神の息吹を感じるのは当然ですし仕方のない事です。しかし、その教えを現在に伝える我々とその神殿を意味のないものと断じる人達があるのも確かでして。決してそんなことはないのですが……」
「うーん……」
中々難しいものがある、とカナメは思う。
人の教える「神の教え」や神殿よりも、神そのものが作った神殿に何かを感じる人達がいるのは当然ではあるだろう。
言ってみれば、形のないものよりも形のある「神の奇蹟」に神を感じているのだ。
まあ、カナメはそういう方面にあまり詳しいわけでもないので「まあ、人それぞれだよなあ……」程度の結論にしかならない。
というか、この手の話は深入りすると争いになるので余程の覚悟が無ければ触れない方が無難ではあるのは……どの世界でも共通のはずだ。
「まあ、そうなると大神殿付近って結構人が多いんじゃないですか?」
「ええ。ですが支障はないですよ。一般参拝者はあまり近づけないようになってますので」
昔はそうではなかったらしいのだが「全身で神の息吹を感じたい」とか叫びながら跳んで身体を投げ出した挙句に怪我で医者送りになったアホが居たせいでそうなったらしい。
「はあ、それは……なんというか」
「今でも大神殿に入りたがる輩は後をたちませんが、重大な罪です。大抵の事は笑って許す聖国の騎士も、大神殿絡みでは物凄く怒ります。ですから、そうならないように厳重な警備を敷いているわけですね」
過剰との意見もあるが、大神殿はそれ自体が巨大な「魔法の品」となっている神々の残した奇蹟であり聖国の象徴だ。
何かあってからでは遅いとの意見で一致し、聖国で一番厳重な警備体制となっているわけだ。
「万が一警備計画が漏れても大丈夫なように、聖騎士と複数の神殿の神官騎士による警備となっています。指揮系統も違いますから、何処かの勢力がズルをするということも難しくなっているんですね」
そういう意味でも安全ですよと笑うイリスの意図するところは、やはり例の暗殺騒ぎ絡みだろう。
例の暗殺騒ぎがレクスオール神殿のタカロ副神官長によるものだとしたら、確かに聖騎士団だけでは不安だ。
なにしろ、イリスの暗殺騒ぎは聖騎士団の巡回に意図的に空いた穴を狙うように行われたのだ。
「でも、どうせ警備にはレクスオール神殿も参加してるんでしょ?」
「そ、それはそうですが……全てのレクスオール神殿の神官騎士がタカロ副神官長に与しているわけでもないはずです。問題ありませんよ……たぶん」
アリサの言葉に、イリスはそう答える。
確かタカロ神官長に傾倒している神官騎士も居たはずだが、多数派ではないはずだ。
イリスがそう悩む間にも……カナメ達を乗せた馬車は、人でごった返す大神殿の近くへと到着するのだった。
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