神聖会議に向けて2
セラトとの会談を終えると、カナメ達はヴェラール神殿の地下へと案内された。
地下でありながらやけに空気が爽やかな其処は、何らかの風の魔法で調整されているようだが……どうやら、衣裳部屋のようであった。
ズラリと並んだ服は様々なものがあり、現れた執事やメイド達によってカナメ達はあっという間に別々の場所に連れて行かれてしまう。
「う、うわわ!?」
「初めまして。私はメイドナイト見習いです。貴方を一流の貴族や騎士と比べても遜色ないように仕上げろと言われております」
「え、ええー!?」
そんな会話を交わしながら着せられたのは、学生の詰襟を金糸の刺繍で豪華にしたような黒い服。
ボタンも恐らくは高いのだろう、貝か宝石かは触ってもいまいち分からないが、とにかく高そうということしか分からないもので構成されたその服と、ピカピカに磨かれた靴。
いつもの動きやすくも分厚い服と比べると動きにくいのだが、不思議と着心地がとてもいい。
勿論生地がいいのもあるのだろうが、なんだろう。暑くもなく寒くもなく……「丁度いい」といった感じなのだ。
「あ、これってひょっとして」
「定温の魔法です。こういった礼服の類には必須の魔法ですね」
幾つかのアクセサリーを合わせながら、メイドナイト見習いの女は首を傾げる。
「うーん。でも、その金色の弓と合わせるのですよね? 白のほうが映えるかしら……」
「うえっ!?」
白い詰襟を着た自分を想像して、カナメは思わず変な声をあげる。
偏見ではあるのだが、なんかこうキザ系の男が着ているイメージが先行して自分に似合う気がしないのだ。
「緑がいいです。濃緑です」
「ああ、なるほど。レクスオールに縁のある方ですものね……って、きゃっ!?」
「うわ、ルウネ!? いつの間に!」
「ルウネはこの服で問題ないですから。で、さっさと緑のを持ってくるです。デザインはこれでいいです」
「は、はい!」
慌てたような声で走っていくメイドナイト見習いを見送ると、ルウネはカナメをじっと見上げる。
いつもの眠そうな目ではあるが、何か言いたげな雰囲気を感じて……カナメは思わず後ずさりそうになる。
あまり自己主張がなさそうに見えるルウネの目だが、実は誰よりも目力というか……視線から伝わる圧が強い。
よって、今回は……というか今回もだが、カナメからルウネに視線を合わせる。
「え、えーと……どうしたんだ? ルウネ」
「ルウネは永遠に味方です」
「え」
唐突と言えば唐突にも聞こえるその言葉に、しかしカナメはドキリとする。
今日カナメが思っていたこと……そしてついさっきも少し考えていた事を、見透かされたと思ったからだ。
「たとえ世界の全てがカナメ様の敵に回っても。ルウネは、カナメ様の味方です。それが私と、カナメ様の契約、です」
「……ああ」
その言葉に、少しだけほっとして。少しだけ、落胆する。
契約。カナメとルウネの関係は、そういうものだ。
勿論、ルウネが自分の事を気に入ってくれているのはカナメも分かっている。
認めてくれたから、ルウネはカナメと契約してくれた。
これからも、ずっと味方で居てくれると言っている。
それが、とても嬉しくて。なのに、心の何処かで何かを残念に思ってしまった事にカナメは驚く。
嬉しいはずなのに、一体何が。いや、分かる。
分かるが、それを理解する事で自分が薄汚いものになるような気がしてカナメは震える。
理解してはいけない。
心の底から自分の味方でいてほしいと。ずっとそうであってほしいと。
そんな事を考えてしまったと、知ってはいけない。知られてはいけない。
そんな心は、奥底に閉じ込めなければいけない。
蓋をして、鍵をかけて。「いつものカナメ」に戻らなくてはいけない。
「カナメ様」
「え……あっ、ごめん」
いつも通りの笑顔を。ちょっと弱気な、照れくさそうな笑顔をカナメは浮かべる。
「ありがとう、ルウネ。そうやって言ってもらえるだけでも、凄く助かる。なんかこう、情けなくて申し訳ないんだけど……嬉しいよ」
「はい。心の底から、そう思ってるです」
「ああ」
頷くカナメと、どこか心配そうな顔をするルウネの元に先程のメイドナイト見習いがパタパタと走ってくる。
その初々しい様子は彼女が見習いであるという事実を思い出させるが……その時には、もうカナメはすっかり元通りになっている。
「お持ちしました! レクスオールの色の濃緑です!」
「うわ……ほんとにあるんだ」
「きっと似合うですよ」
「そうかなあ……」
ワイワイと言い合うカナメの服にルウネが手をかけて、カナメが自分で着替えられると抵抗して。
そんな、何の暗さも感じられない雰囲気になった其処から少し離れた場所で、真っ白な服を着た少女が小さな溜息をつく。
頭をガリガリと掻いて、しかしそこから出ていく事はせずに。
少女は、雰囲気を壊さないように遠ざかっていく。
恐らくルウネの方は気付いているだろうが、わざわざ言及することはしないだろう。
彼女はカナメに関してのみだが、そういう空気の読み方を心得ている。
「いつかは通る道だけど……どうしたものかなあ」
そんな事を言いながら、少女は……アリサは、赤い髪を揺らしながら虚空を見つめていた。
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