残された謎3

 過剰すぎる戦力でダンジョンから帰還したカナメ達は、ヴェラール神殿へとやってきていた。

 エリオットとエルはこの神殿では部外者ということで神殿の客間で待たされているが……エルは物凄く嫌そうな顔で「俺、宿に戻ってていいんじゃね?」と言っていたが、それはさておき。

 神官長室に通されたカナメ達は相変わらず気難しそうな……いや、いつもよりもっと気難しそうな顔をしたセラトと面会していた。

 それも当然だろう、なにしろラファズの件にエリオットがカナメに剣を向けた件……どちらもセラトにとっては頭の痛い問題だ。


「……それで、そのラファズとかいう奴は仕留めたんだな?」

「目につく範囲にはいませんでしたが……」

「頼りになる答えだな」


 深い溜息をつくセラトにカナメは思わず「すみません」と謝ってしまう。

 なにしろ、決着直後はカナメもボロボロで周囲を目視以外で確認する余裕は一切なかった。

 とはいえ、カナメが生きているのだ。ラファズだけ死んでいるという考えは、あまりにも希望的観測に過ぎるだろう。

 当然ラファズも生きていると考えるべきで……そうなった時、次の戦いの場が町中となることは……恐らく間違いないだろう。

 となると、カナメは無限回廊の見せた未来を阻止することに失敗したのだろうか?

 だとすると、アリサが。そう考えて、カナメは一筋の汗を流して。

 

「……あ」


 唐突に、ラファズの言葉を思い出す。

 無限回廊なんてものがあるのに、何故神々は死んだのか。考えてみるんだな……と。ラファズはそう言っていた。

 まさか「お前は失敗した」などと馬鹿にするために言ったわけでもないだろう。

 いや、その可能性もあるにはあるが……だとすれば、もっと直接的にそう言った方が効果的なはずだ。

 考えてみろということは、そこにはラファズが示唆する何らかの答えがあるということだ。

 それは何なのか。それに、ゼルフェクトの欠片であるらしいラファズが何故そんな事をカナメに言うのか。

 一体何を言いたくて、ラファズはカナメにあんな事を言ったのか。


「どうした?」

「カナメ様?」


 セラトの言葉に、エリーゼもカナメの様子に気付き心配そうに見上げてくるが……カナメは意を決したようにセラトへと向き直る。


「あの、セラトさん」

「ん?」

「もし未来が見えた人が、尚その未来を変えられなかったと……いや、自分の思う未来に導けなかったとしたら。その原因って、なんだと思いますか?」


 無限回廊のことも、神々の事も言わないままにカナメはセラトにそう問いかける。

 問われたセラトはピクリと眉を動かしたが……やがて「そうだな」と考え込むように机の上で手を組む。


「今の抽象的な話ではどうとも答えにくいが、いくつかの可能性は考えられるな」


 頷くカナメに、セラトは指を一本立てる。


「まず一つ目の可能性は……単純に力、あるいは知恵が足りなかった場合だ」


 たとえば、誰かが殺される未来を見て「それを変えたい」と行動したとしよう。

 しかし、その誰かを殺す相手が自分では敵わないような何かであったとしたらどうだろう。

 その誰かと一緒に自分も殺されて終わりかもしれない。

 そうでなくともたとえば、その殺す「誰か」が殺される「誰か」の信じる者であった場合はどうか。

 未来を変えたいと願うその者の信頼は、その殺す「誰か」に勝っているだろうか?

 いや、もっと違うパターンでたとえば事故だったらどうか。

 馬車に轢かれる相手が馬車に轢かれないようにするには、相応の立ち回りが必要になってくるはずだ。


「ここから派生する二つ目の可能性だが、そもそも防ぎようがない未来であったという可能性もある」


 たとえば、大雨による洪水などの大災害。

 そんな未来が見えたとして、個人に一体何ができるというのか。

 領主であるならば避難を促すこともできるだろうが、それとてどこまで有効か。

 その日が晴れであったのなら、気狂いの領主と思われて側近達が言う事を聞かないかもしれない。

「はいはい、分かりました」と適当な事をされているうちに未来が実現してしまうかもしれない。

 避難が実現したとしても、洪水自体を防げたわけではない。

 分かっていたのならば何故防ぐ努力をしなかったのかという声は当然出るだろう。


「そして、三つ目だが。そもそも未来の解釈を間違えていたという可能性もある」

「未来の、解釈」

「そうだ。一つ目の事故の話にも通じるが……「どうやってその未来の風景が実現するのか」を知らねば未来を知ったとは言えない。たとえば事故に巻き込まれる人間を一日監禁したとして、その次の日に事故に巻き込まれないと誰が言える」


 原因を潰さなければ、未来は変えられない。

 つまりはそういうことなのだろうが、それならばカナメとて実践している。

 今回で言えば光獄の矢ラファズアローこそが原因であると気づき、それをどうにかする為に行動した。


「でも、事故にあうことが分かってるならいくらでも防ぎようは……」

「それだ。事故にあったからといっても、それは事件かもしれない。事故に見せかけて殺した……とかな。それが「解釈の違い」だ。そこを間違えたままでいるならば、結局その未来はいつか実現するだろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る