二階層到着
何事もないまま二階層に到着したカナメ達を迎えたのは、前回と変わらぬ発光する通路であった。
「確か前は、ここでジェリーが出やがったんだよな」
「……アレもお前達だったのか」
「ん? そうっすねー」
振り向いたエリオットにエルは気楽な調子でそう答える。
別に悪い事をしているわけでもないし、隠す理由は何一つない。
「そうか。ジェリーは毎月のように被害者が出るモンスターだ。退治したというのは賞賛に値する」
「そいつはどうも」
「だがアレは武器での攻撃は通じにくいはずだが……魔法士がいたのか?」
「んー。まあ、カナメの実力ってとこですかね」
「ふむ」
エルはそうやって適当に流すが、エリオットも深くは突っ込まない。
手の内を隠したがるのは冒険者としては当然のことだし、事情聴取をしているわけでもない。
それが効率の良い手段であれば礼金を支払った上で聞かせてもらうというのが正しい流れでもある。
「まあ、それについてはいい。これで二階に到着したが……此処で何をするんだ?」
「えっと……」
言いながら、カナメは周囲を見回す。
この通路でも狭いわけではないが、これからやる事を考えるともう少し広い方がいいかもしれない。
「確かこの先に広間ありましたよね? そこまで行った方が」
「ではそうしよう」
即座に地図を広げるとエリオットは一番近い広間までの道を確認し始める。
細かく書き込まれたソレは聖騎士団用なのだろうか、何やら巡回ルートらしきものが書き込まれているのも見える。
「それって聖騎士団用ってことでいいんすよね?」
「ああ。一定の階層までは網羅している」
聖国のダンジョンの管理は聖騎士団が責任をもって実施している。
他国では基本的にダンジョン内のモンスターの掃討は冒険者に任せているが、聖国ではそうではない。
冒険者が入ろうと入るまいとダンジョン内の安定した状況が変わらないように聖騎士が巡回しモンスターと遭遇した場合はこれを掃討することで「決壊」を防いでいるのだ。
地図はその為のものであり何処かにモンスターが集中する「モンスター溜まり」のような状況が低い階層で発生しないように気を付けているのだ。
「よし、行くぞ」
「は、はい」
地図を畳んで歩き出すエリオットにカナメは頷き、全員が広間に向かって歩き出す。
輝く通路は相変わらずランタン要らずで、神官騎士やエリオットの鎧がキラキラと輝いて実に眩い。
こうして並べてみると聖騎士であるエリオットの鎧の方が派手なのだが……それはともかく。
現れた
「よし、ここでよかろう」
「あ、はい。ありがとうございます!」
ガランとした広間には何もなく……他の冒険者パーティの姿もない。
「今日も誰もいねえな……ま、仕方ねえか」
「仕方ない?」
「ん? あー。ほれ、この前二階で色々騒ぎがあったからな。皆二階は早めに通り過ぎて三階で休憩するらしいぜ」
エリーゼの疑問にエルがそう答えると、エリーゼは納得したように頷く。
そう、二階で本来出るはずのないモンスターが現れて騒ぎになったのはついこの前の事だ。
たとえ「今出ない」としても、縁起を担ぎたがる冒険者としてはあまり長居したくない場所であるのは変わらない。
まあ、そんなわけでカナメ達を除けば無人の広間であるわけだが……カナメにとっては実に丁度いい。
「……よし。じゃあ、少し離れていてください」
言いながら、カナメは布に包んでいた矢を取り出す。
そうして現れた
「……なんだ、その矢は」
「相当強い魔力を感じますが、魔法の品……でしょうか?」
「えっと、まあ詳細は省くんですが……この矢をどうにかしにきたんです」
撃てば
しかし、そんな方法はカナメは知らない。そもそも破壊できるかどうかすら分からないのだ。
此処に来る前、試しに作ってみた別の矢を壊そうとしてみたのだが……結果は失敗。
剣は通らず、斧は斧の方が刃こぼれした上にダルキンに修理代まで取られた。
流石に魔法は試していないが……と、そこでカナメは思いついたようにエリーゼを振り返る。
「エリーゼ、ちょっといいかな」
「え? 何だか分かりませんけど勿論ですわ」
「ケッ」
何やらエルが悪態をついたが、とりあえず放置してカナメは
「今からこれを離れた場所に置いてくるから、出来るだけ威力のある魔法を叩きこんでほしいんだ」
「は、はあ。カナメ様がそれをお望みなら」
「魔法の品の破壊実験、か? 妙な事をするが……まあ、ダンジョンに来たがるのも道理か」
そんなもったいない事をする者は普通は居ないのだが、魔法の品を破壊したらどうなるかというのは常に存在する議論ではある。
一般的にはただ壊れるのみ……というのが結論なのだが、
実際にどうかは、流石に
「では、参りますわ」
カナメが今遠くに置いてきた矢が
別に魔法研究家でもなんでもないが……こんな場所に来た価値はあるかと、エリオット達は興味深そうに矢のある場所を見つめていた。
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