一階層進撃

「後方、邪妖精イヴィルズ二確認! 光撃アタックライト!」

「援護開始! 光撃アタックライト


 後方を歩いていた神官騎士の二人が流れるような動きで光撃アタックライトを放ち、出現した邪妖精イヴィルズが爆散するように消滅する。

 カナメ達を囲むように前方にはエリオットと神官騎士、後方には神官騎士二人がガッチリと守りを固めている。


「いやあ、全く出番ねえなあ」


 エルが気楽な調子で笑うが、まさにその言葉通り。

 邪妖精イヴィルズくらいでは相手にもならず、ヴーンも一瞬で蹴散らされる。

 矢は弾かれ、突撃しようにも魔法も使えるエリオットや神官騎士達の前では的でしかない。


「エルも女の子にこだわるのやめて、こういう人とか探してみたらどうなんだ?」

「正論だけどよ。お前に言われるのは納得いかねえ」


 それを言われるとカナメとしては反論のしようもないのだが、別にカナメが女の子を狙い撃ちして勧誘したわけでもない。

 まあ、それを言うとエルに何を言われるか分からないので言わないが……。


「でもまあ、前衛って意味では俺も前衛だからな。参考になるっちゃあなるが……」


 言いながらエリオット達を見るエルの視線につられるように、カナメもエリオット達に視線を向ける。

 重たい金属の装備で固めた重装備の四人はさながら壁の如し。見た目にはとても頼もしいのだが……そこでカナメはふと気になって、隣のアリサに囁く。


「……そういえば、金属鎧って人気ないんじゃなかったっけ?」


 確かレシェドの街で買い物をした時、重いし臭いとか散々な言われようだった気がするのだが、騎士だと我慢の必要があるのだろうかとカナメは考えて。


「普通のはね。魔法がしっかりかかってるのは人気あるよ?」

「へ?」

「なんだよカナメ。お前そんな事も知らねえのか?」


 反対側にいたエルが意外そうな顔をするがカナメは「まあ、弓士だし……」と適当な事を言ってごまかす。


「あー、まあ弓士でガッチリ固めてる奴は逆に珍しいしな」


 しかし、そんな適当な言い訳でも納得したらしいエルはエリオットの鎧を指さして見せる。


「たとえばアレだけど、硬化に清浄、軽量化……これで三つだけど、少なくとも十以上の魔法が結構な高レベルでかかってるって話だぜ?」

「へえ」

「噂だけど、定温の魔法もかかってるって聞いたことあるよ?」

「あー、あれいいよなあ。でも高えんだよ」


 硬化、清浄、軽量化、定温。この四つの魔法についてはカナメもエリーゼから概要について教えてもらったことがある。

 まず硬化は文字通り「硬くする」魔法だ。

 魔法の強さにもよるが、革鎧でも金属鎧並の防御力をもたせることができる。

 この魔法の普及が「軽くて硬い革鎧」の人気を爆発させ、重たい金属鎧の人気を激減させた一因となったわけだが……勿論、金属鎧に硬化をかければ凄まじく硬い金属鎧が出来上がる。

しかし、たとえば同じ性能の革鎧と金属鎧を作ると仮定しよう。

 革鎧は金属鎧よりも強いものをかける必要はあるが「硬化」だけで硬い鎧が出来上がる。

 しかし金属鎧の場合は「軽量化」をかけなければ重いという欠点が残ってしまう。

 そして、この軽量化の魔法が意外に高価なのだ。

 物品にかけた魔法が永続的なものではない以上、複数の高価な魔法を長い間維持するのは結構辛い。

 臭くなると評判の金属鎧であれば常に綺麗に保つ「清浄」の魔法も必須だし、更には金属鎧独特の弱点もあり……それが四つ目の「定温」に関係してくる。

 そもそも金属というのは特殊なもの以外は大抵気温の変化を強く受ける。

 暑いところではより熱く、寒いところではより冷たく。革鎧と比べるとその変化が著しく、中に着るものをその度に調整するには中々脱着が大変だ。

 そこで役立つのが物品を一定の温度に保つ「定温」という魔法であり……これが調整が難しいということで結構なお値段がする。

 しかし金属鎧に使えば、気温の変化の影響を受けない快適な金属鎧が出来上がるわけである。

 

 まあ、そんなわけでお金に糸目さえつけなければ快適かつ強力な金属鎧が手に入るわけであり……聖騎士や神官騎士の鎧はその類であると言っているわけだ。


「ふうん……でもエルって結構前に突っ込むし、そっちのほうがいいんじゃないか? 大剣じゃ盾も持てないし」

「持てないってこたないぜ。腕につけるタイプの小盾もあるしな」

「モテないだけだよね」

「うるせーや」


 アリサの茶化しにエルが不貞腐れてしまうが、まあ金属鎧の弱点は他にもある。


「俺は結構動くからよ。今みたいに部分鎧ならいいけど、フルでつけると思ったより阻害されるんだよ。いざって時に思った通りに動けないっつーのは……結構恐怖だよな」

「なるほどなあ」


 確かに、エルはかなり動く。大剣を軽々と振り回すし、狭い場所でも槍や盾のように使ってとにかく隙を見せない。

 広い場所では「必殺技」まであるし、動きやすさというのは必須なのだろう。


「そういう意味ではアリサちゃんは思い切った軽戦士だよな」

「私の場合は動くのが基本だからね。装備に妥協しているつもりはないけど、可能な限り軽くしておきたいんだ」


 エルとアリサの会話を聞きながらカナメはなるほど……と頷く。

 そこまでのこだわりを防具には持っていなかったが、今度ルウネにでも相談しながら選んだ方がいいのかもしれない。

 何も言っていないのに「任せてくださいです」と答えるルウネにちょっとビクッとしたが……ともかく、一階層の探索……いや、進撃は非常に順調であった。

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