聖騎士団からの4
「というわけで、よろしくお願いしますねカナメ君」
「というわけでと言われましても……」
色々なものを端折った挨拶をするイルゲアスにカナメが困ったような顔をすると、イルゲアスはハハッと笑う。
「これは失礼。僕達の会話が聞こえてたような顔をしてたんで、てっきり説明がいらないかと。えーとですね、僕がカナメ君の護衛を……とりあえず期間は未定ですが担当します。不満があればエリオットさんに話して代わってもらいますけど、どうします?」
「えーと……いえ、いいです」
ジロリと睨んでくるエリオットから視線を外し、カナメはそう答える。
エリオットが悪い人間とは思わないが、正直一緒にいると疲れそうな人でもある。
その点で言えばイルゲアスは人当たりも良いし、心に優しい……と言えるだろう。
勿論目に見えるものが全てでないことくらい分かってはいるが、表面上の性格というものはとても重要だ。
カナメとて、こんなところで胃に穴を開けたくはないのだ。
「前にも言ったかもですが、エリオットさんも悪い人じゃないんですよ?」
「は、ははは……」
見透かされたようにイルゲアスにそう言われ、カナメは目を逸らし乾いた笑い声をあげる。
そんなカナメに穏やかな笑顔を浮かべたまま、イルゲアスは腰の剣をポンと叩く。
「まあ、僕も多少は腕に覚えがあります。安心してくれ……といっても無理かもしれませんが、まあ任せてください」
それはイルゲアスなりの励ましなのだろうか。エリオットさんもこの半分でも愛想が良ければ付き合いやすいだろうになあ……などとカナメが考えていると、カナメの横からにゅっとルウネが現れる。
「ルウネがいるですから、安心です。他の人の出る幕なんて、ないです」
「うわっ! って、ああ。そうか。そういえば君もいたんでしたね」
威嚇するようなルウネにもイルゲアスは愛想笑いを返し、カナメへと向き直る。
「向こうの会話はあまり弾んでないみたいではあるけれど……まあ、こっちはこっちでやりましょうか。今日はこの後、どうするんですか?」
「え?」
言いながらカナメがイリスの方を見ると……笑顔のイリスと緊張のせいか汗をかいているサラサの姿が見える。
見たところ、サラサの方からイリスに話しかけ、イリスの方からそれに対して返すといった会話がされているようだが……。
「うわ……表情全然動いてない。超怖い……」
「ハハ。さっきの発言で怒らせたみたいですね。好かれてますね、カナメ君」
「あ、いえ……ていうか、あれって何かフォロー入れた方がいいんじゃ」
「大丈夫ですよ。ああいうのは外から入るとこじれるものですから」
まあ、それは確かに……とカナメも思う。
この辺りで許そうと思っても、周りが下手に仲裁をしようとすると止めるタイミングを見失ったりもする。
だとすると、仲間の中では一番大人なイリスに任せておくのが一番良いのだろうか?
「う、うーん……」
「ほらほら、あんまり見ない。カナメ君、今日の予定は?」
「え? えーっと……エリ……仲間と出かける予定でしたけど」
「ああ、デートでしたか。でもすみません。僕達と一緒じゃ、ノらないですよねえ」
そう言われてしまうと身も蓋もないのだが、護衛を連れてデート……もといお出かけというのも確かに少々どうかというのもその通りだ。
「えーと……エリーゼ?」
「……延期で構いませんわ。暗殺の危険と隣り合わせでは楽しめないでしょうし」
「ご、ごめんな?」
またエリーゼがムクれてしまっているが、こればかりはどうしようもない。
タイミングが悪いとしか言いようがないのだが……何処かでフォローを入れねばならないとカナメはそっと決意する。
「でもそうすると、今日の予定が無くなっちゃったな……」
他に何かやることはあっただろうか。そんなことを考えながら、カナメは天井を見上げる。
神聖会議。近日開催予定であろうその日までに、カナメが出来る事。
それを考え……カナメは「あっ」と声をあげる。
「おや。何か思いついたんですか?」
「え、あ、いや……なんでもないです」
他の誰も真似できない何か。
セラトが言っていたソレを思い出したのだが……当てはある。
しかし、今口に出す事でもないとカナメは思い留まる。
「うーん……どうするかなあ。エルが居たら「ダンジョン行こうぜ!」とか言うんだろうけど」
「え、いや。護衛対象にあまり危険な所に行かれるのはちょっと。この前騒ぎがあったばかりですし」
「あー……まあ、そうですよね」
その騒ぎにもカナメが関わっているのだが、これも別に言う必要はない。
「あ、娼館とかも遠慮して頂ければ。あそこはカナン神殿の管轄ですし、ちょっと報告書にそういうの書くの恥ずかしいんで……」
「カナメ様?」
「え、違う! 俺は何も言ってない!」
エリーゼがスッと目を細めたのを見てカナメが慌てたように手をバタバタと振るが、エリーゼは音もなく接近するとカナメの胸元にそっと手を当てる。
「私、カナメ様を信じてますわ?」
「あ、ああ」
目が怖いとは、死んでも言えそうにはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます