聖騎士団からの3
「君はまともなんだろうな」
「は?」
最後の一人……エリオットが大分遅れて到着した時にセラトが放ったのは、そんな疑り深い台詞であった。
まあ、何処となくショボンとしているサラサの後では仕方ないのだろうが……エリオットは周囲を見回してイルゲアスとサラサを見つけると僅かに目を細める。
「あの二人が何かしましたか?」
「え、僕もですか!?」
「いや、あのサラサとかいう女性騎士の方だな。護衛対象にあまり良い印象を持っていないのはともかく、口が悪い上に一言多いように見受けられる。今回に限っては話すように促した私が悪い点もあるが、もう少し人選が考慮されても良かったように感じる」
最初に表情を取り繕った点は評価している。しかし、「言え」と言われてからの口の悪さが致命的だ。
しかも言わなくても良い場面で更に余計な一言を追加しているのはフォローのしようもない。
そういう者は、えてして余計な時に余計な事を言って失敗する。重要な任務にはつかせたくないというのがセラトの正直な感想だ。
「……アレはアレで腕の立つ騎士です。今回の任務には最適と言わずとも役に立つ範囲内にはあるかと」
「そうか。まあ、替えろといったところでもっと役に立たないのが来ても困る。腕が立つというのであればまあ、いいだろう」
「ご理解いただき感謝します……ところで、表の神官騎士達は?」
「俺が配置した。この後もあの場に置いておくつもりだ」
文句があるか、と言わんばかりにセラトが睨むとエリオットは「なるほど」と頷いてみせる。
「それは良い。ご配慮に感謝します」
「ふむ?」
「我々は三名ですが、護衛任務としては最小限の人数です。この建物は見たところそれなりに大きく、窓の類も多く見受けられます。よって、暗殺者の完全な侵入防止には相当に骨が折れます。一般的な侵入口を可能性として潰せるならば、こちらはもう少し別の可能性を考慮した動き方が可能です」
暗殺者という連中はまあ、練度にもよるが「ドアからこんばんは」というような素直な連中ばかりではない。
窓から、あるいは火と煙の消えた煙突から。冗談のような話だが、正面から堂々と侵入してベッドの下に潜んでいたという例だってある。
如何に警備をすり抜けるか、気付かれたとして如何に無力化するかが彼等の真骨頂であり、これを防ぐには理想を言えば人海戦術が一番効果的なのだ。
無論「出来ない」と言うのは騎士のプライドに関わる話ではあるし、聖騎士と神官騎士の仲の悪さはセラトが言った通りだ。
普通であれば「我々が居れば充分」と言うのが普通の聖騎士なのだ。
それでもアッサリと神官騎士の助力に感謝の言を述べたエリオットにセラトは驚いたように眉を上げた後に「ふむ」と頷く。
「互いに協力し合うように言い含めておこう」
「感謝します」
エリオットとセラトは頷き合うと、セラトは自らの傍らに現れたメイドナイトに二、三言何かを囁いてカナメ達へと向き直る。
「では、俺はこれで神殿へと帰る。何かあれば此処にいる神官騎士に伝えてくれ」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「気にするな。俺は俺の信じるものに従って行動しているに過ぎん」
カナメ達に協力するのが一番良いと思っただけであり、たとえばカナメ達を聖国から出すのが一番良いと判断していればそうすることも有り得た。
……が、わざわざそんな事は言わずにセラトは身を翻して出ていく。
その背中を見送り……完全にいなくなったのを見ると、エリオットの眉間にシワが寄る。
「さて……では警備計画を立てる。イルゲアス、サラサ。こっちへ来い」
「はい、イルゲアスさん」
「はっ!」
二人が集まると、エリオットはカナメ達をジロリと睨むように眺める。
その威圧感溢れる様子にカナメは思わず一歩引き……その様子を見てエリオットは溜息を一つ。
「イルゲアス、お前はあのカナメとかいう男の護衛だ。サラサは神官騎士殿の担当だ。俺は交代要員と全体の見回りを担当する。これ以上何かがあるとも思えんが、事件が解決したわけでもない。気を抜くなよ」
「了解です。けどエリオットさん、ヴェラール神殿はその「何か」があると考えているんでしょう? ひょっとして進展があったのでは」
「というよりも、此処まで本気でヴェラール神殿が関わってくる事案なんて初めてなんですが……何事なんですか? 概要しか聞いてないのですけど」
出来る限り声を潜めているイルゲアスとサラサだが、カナメの耳にはしっかりと聞こえている。
同様にアリサとイリスも聞こえているようで、エリーゼは聞こえていないのか訝しげな顔だ。
どうにも彼等の話を聞く限り、やはり捜査はあまり進展していなかったようだが……。
「さてな。神官殿達が悲観的で心配性なのはいつもの事だ。そして俺達の仕事は「結果として問題なし」を作る事でもある。もし暗殺者共がノコノコ来るようであれば、今度こそ捕らえる。それだけの話だ。いいな?」
促すエリオットにイルゲアスとサラサは敬礼し……その様子にイリスは「温度差はありますが……まあ、大丈夫でしょうかね」と呟いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます